楽天が、長年の事業展開で蓄積してきたビッグデータ資産を活用するために開発したAIエージェント「Rakuten AIris」。同社ならではのAI戦略とはどのようなものか。
宝の山であるビッグデータを価値に変えるための切り札になるのが人工知能(AI)だ。楽天が2018年5月に発表したAIエージェント「Rakuten AIris(楽天アイリス:以下、AIris)」は、同社が持つ約9900万(注1)の楽天IDとそれに基づく消費行動データなどのビッグデータを分析材料とし、企業のマーケティング活動を支援する。
注1:数字は本稿執筆時点のもの。
AIrisが実装する代表的な機能の1つが、機械学習を利用して商品を購入する可能性の高いユーザーを予測し、特定する「Target Prospecting」だ。楽天ではこのTarget Prospecting機能を利用し、拡張したターゲットセグメントに広告を配信するソリューションとして「RMP - Customer Expansion」を提供している(関連記事:「楽天、AIエージェント『Rakuten AIris』による高精度な拡張ターゲティング広告を提供」)。
楽天のAIエージェントならではの強みとは何か。導入企業はこれを具体的にどう活用すればいいのか。楽天ビジネスディベロップメント部データ・メディアパートナー課ヴァイスシニアマネージャーの舘 豊氏と同プランニンググループの大西高広氏、データサイエンス部データサイエンス課プロダクトマネージャーの溝上弘起氏に聞いた(注2)。
注2:肩書は取材時のもの。
従来、広告配信における拡張ターゲティングではアクセスログを使うやり方が主流であった。しかし、楽天であれば、楽天市場の購買分析データやその他の同社が運営するサービス利用実績なども活用できる。
実際、これによりどの程度の効果向上が見込めるのか。舘氏は、ある健康食品のために実施したPoC(実証実験)の成果に触れ、他社のターゲット拡張サービスを使った場合と比べ、RMP - Customer Expansionを使うとCTR(クリック率)が360%、CVR(コンバージョン率)が400%も高くなるという結果を紹介した。
「抽出したセグメントが実際に購入したセグメントとどの程度似ているかを示すマッチ率(類似性)が高いほど、CVRも高くなる傾向が判明しました。健康食品のように、嗜好性の高い商品のターゲティングは、個人のライフスタイルを多面的に把握できるRMP - Customer Expansionの得意領域と考えています」(舘氏)
この他、衣料用柔軟剤のサンプル品郵送キャンペーンにおいてターゲット抽出にRMP - Customer Expansionを活用した例でも、AIrisの実力が発揮されたという。サンプリングプロモーションは通常、同一カテゴリーの商品を利用している層などをターゲットとして据え行われる。しかし今回、同一カテゴリーユーザー層と、AIrisで抽出した独自のユーザー層でCVRを比較したところ、結果は後者に軍配が上がったのだ。AIrisを使うことで、「定番の手法」を超える精度で新規の顧客セグメントを発見できることが証明されたといえる。
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