インタビュー
» 2017年09月22日 07時00分 公開

山口義宏が聞く「ブランデッドムービーの現在」(後編):別所哲也氏と考える、ブランディングの必要性を経営者に納得させる方法 (1/3)

「Branded Shorts」をプロデュースする俳優の別所哲也氏と戦略コンサルタントの山口義宏氏による異色対談。後編では、ブランデッドムービーを作る上での課題とこれからの展望を語る。

[志田実恵,ITmedia マーケティング]

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 前編「別所哲也氏と語る、ブランドが映画を作る意味」において、企業がブランデッドムービーを作る意味について語り合った別所氏と山口氏。今回は、ブランデッドムービーに取り組む上での課題や今後の市場動向の展望などを語ります。


「海外向け」「日本向け」のカスタマイズは必要か

山口 「Branded Shorts」の各作品を見ても、ブランデッドムービーに取り組んでいるのは、少なくとも現時点においては大企業が多いように思います。ブランドのグローバル展開を考えた場合、コンテンツは同一であるべきなのか、国や地域によってローカライズするべきか。よく議論になることですが、別所さんはどう考えますか。

別所哲也
俳優、パシフィックボイス代表取締役社長。1990年、日米合作映画『クライシス2050』でハリウッドデビュー。米国映画俳優組合(SAG)メンバーとなる。その後、映画・ドラマ・舞台・ラジオなどで幅広く活躍。1999年より、日本発の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル」を主宰。内閣府「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」の1人に選出される。第1回岩谷時子賞奨励賞受賞。第63回横浜文化賞受賞。BS11「報道ライブINsideOUT」メインキャスター。2016年、第45回ベストドレッサー賞インターナショナル部門受賞。Branded Shorts では、2018年の開催向けてブランデッドムービーを募集中。詳細はこちらから(外部リンク)

別所 これは本当に議論が二極化していますよね。同一ブランドとしてコンテンツは1つに集約させるべきという人もいれば、国や地域それぞれの価値観に合わせるべきという人もいます。ただ、人の心を動かすという点において、根本的なところは同じだと思うんですね。「南総里見八犬伝」でいう「仁」「義」「礼」「智」「忠」「信」「孝」「悌」に凝縮されているようなもの。例えば、娘の結婚を描いたイランのショートフィルムを見ましたが、描かれている世界は日本と全然違うものだけれど、大変感動的でした。親が子の旅立ちに感じる思いというのは、寂しいようなうれしいような、決して単純ではない感情なのだけれど、ストライクゾーンはあまりぶれないですよね。

山口 普遍的な部分は同じで、それをどう伝えるかということなのかもしれませんね。ブランドのメッセージを全世界共通でやるか、ローカライズしてその地域のクリエイターと一緒に作っていくか。絶対に正しい答えはありません。ただ、業種による向き不向きはある印象です。ITや自動車関連など、先進国のプレミアムゾーンを目指すブランドであればメッセージを共通化しやすいですし、食品や日用品などのコモディティは地域ごとに嗜好がより細かく分かれるマス層に共感を得ないといけないため、クリエイティブはローカライズした方がうまくいく傾向があります。

別所 なるほど。

山口 例えば、ユニリーバの男性用フレグランス(香水)ブランドであるAxe。「香りで男性の好感度を上げて、女性自らが自分に引き寄せられる」という端的に言えば「現在の自分のままで多くの女性からモテる」というメッセージは世界共通ですが、テレビCMにおける具体的な表現は各国でローカライズしています。動画はディテールが伝わる表現手段ですから、各国の文脈に深く差し込まれてこそ、ジーンとくるというケースはあるのだと思います。一方で、どこの国でも通じるものもある。『トムとジェリー』や『ひつじのショーン』のような作品って、子どもでも分かるし言葉がいらないですよね。

別所 世界共通で普遍的にウケるためのパターンはあると思います。ただ、ユーモアのセンスは一番難しいんですね。民族や宗教などの違いによって、ある国では笑い飛ばせるものが別の国では暴力的と考えられて全く通じないこともある。高度な笑いで勝負しようとするなら、ローカライズはもちろん、トレンドや時代性を考慮する必要があります。ショートフィルムを作るクリエイターは千差万別です。素朴で分かりやすい物語が得意な人もいれば、文脈に依存したハイコンテクストなコンテンツに強い人もいます。ブランデッドコンテンツを作る上では、自社の戦略とマッチするクリエイターを選定していくことが大事になります。

採用や町おこしにもブランデッドムービーを

山口 「Branded Shorts」は面白い作品を作りたいクリエイターとブランドを推進したい企業の橋渡しをする役割を担っているわけですが、映画クオリティーのコンテンツならではのアプローチが貢献できる領域は、もっと広がりそうな気がします。

別所 それでいうと、可能性に期待しているのがHR(人事)の領域です。「この会社に入りたい」というのはある意味、ブランドを買っているようなものですよね。今の若い人は大企業だからという理由だけで就職しようと思ってはくれないので、自社のストーリーをしっかりと伝えなくてはいけません。小さな会社なら、なおのことです。人事採用には広告宣伝費とは別の予算があり、毎年採用イベントなどをやっているわけですが、その一部をブランデッドムービーに投資することもぜひ検討してみていただきたいですね。

山口 ニーズは高そうですね。実際、採用のためのブランディングというのは最近、市場ニーズが高く、企業から当社インサイトフォースへの相談も増えています。

別所 自社のビジョンを伝える、あるいは、働きがいや働き方にどう向き合っているかを語る。映画の手法でこうしたコンテンツを用意することは、他社と差別化を図る上で強みになってくるのではないかと思っています。また、企業の周年事業などで、サービスの歴史や企業としての物語を未来に残していく形もあると思っています。企業以外では、地域ブランディングの可能性も模索しています。地域のブランドを物語にすることで、ビジネスを活性化させていけると思います。

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