インタビュー
» 2017年09月21日 08時00分 公開

山口義宏が聞く「ブランデッドムービーの現在」(前編):別所哲也氏と語る、ブランドが映画を作る意味 (1/3)

企業がコンテンツ、それも「映画」を作る理由とは何か。テレビCMと何が違うのか。「Branded Shorts」をプロデュースする俳優の別所哲也氏にブランド戦略コンサルタントの山口義宏氏が聞く。

[志田実恵,ITmedia マーケティング]

 「ショートショートフィルムフェスティバル & アジア(以下、SSFF & ASIA)」をご存じだろうか。米国俳優協会(SAG)の会員でもある俳優の別所哲也氏が中心となって創設した国際短編映画祭で、2004年には米国アカデミー賞公認映画祭として認定されている。これにより、同映画祭でグランプリを受賞した作品は次年度のアカデミー賞短編部門のノミネート選考に入る。また、日本だけにとどまらずアジアでも同趣旨の試みを展開し、多くの新進映像作家を発掘、育成している。

 同映画祭では2016年より企業がブランディングのために製作したブランデッドムービーを特集する部門「Branded Shorts」を新設。国内外のブランデッドムービーを集めて上映し、優秀作品を表彰している。また、トップクリエイターや有識者が動画マーケティングについて語るカンファレンスも実施して、ブランデッドムービーの認知向上に貢献している(関連記事:「『Branded Shorts of the Year』授賞式が開催、黒木 瞳監督の新作も初公開」)。

 テレビCMが効かなくなったといわれる一方、スマートフォンとSNSを媒介に企業と生活者がダイレクトにつながるようになった現在、ブランデッドムービーは、マーケティングコミュニケーションの中でどのような役割を果たすのか。ブランディングを専門とする戦略コンサルタントの山口義宏氏が別所氏と語った。

別所哲也
俳優、パシフィックボイス代表取締役社長。1990年、日米合作映画『クライシス2050』でハリウッドデビュー。米国映画俳優組合(SAG)メンバーとなる。その後、映画・ドラマ・舞台・ラジオなどで幅広く活躍。1999年より、日本発の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル」を主宰。内閣府「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」の1人に選出される。第1回岩谷時子賞奨励賞受賞。第63回横浜文化賞受賞。BS11「報道ライブINsideOUT」メインキャスター。2016年、第45回ベストドレッサー賞インターナショナル部門受賞。Branded Shorts では、2018年の開催に向けてブランデッドムービーを募集中。詳細はこちらから(外部リンク)

短編映画がもたらす、テレビCMにない価値

山口 俳優としてはもちろん、ラジオのパーソナリティーなど多方面で活躍する別所さんですが、近年は映画祭主催者としてメディアに登場する機会も増えてきました。まずは別所さんとショートフィルムとの出会いからお聞きしてもよろしいでしょうか。

別所 私がショートフィルムに出会ったのは1997年のことです。それまで短編映画というと学生の実験作品のようなものをイメージしていましたが、新しい映像テクノロジーに挑戦し、監督から俳優まで次世代を担うといわれるクリエイターも多数参加していることを知り、「可能性の宝庫だ」と驚きました。

山口 私も20歳のころ、友人達と自主映画を作ったことがあって、当時の温度感はよく分かります。デジタル化によってカメラ1台とMacintosh1台で撮影から編集まで低コストで実現できるようになったんですよね。「映像テクノロジーの民主化だ」と熱くなったものです。

別所 そうした「デスクトップフィルムメイキング」と呼ばれる動きがある一方で、インターネットでは音声ストリーミングが普及し始めていて、「次は動画だ」といわれていました。実際、1998年1月に俳優のロバート・レッドフォードが主催するサンダンス映画祭へ行ってみたのですが、そこにはシリコンバレーから、インターネットの動画プラットフォームを手掛ける人たちが多数来ていました。彼らはチェック(小切手)をガンガン切って、実証実験を兼ねて作品の使用権を獲得していました。ショートフィルムがインターネットに載ってあらゆる人に届くという潮流を目の当たりにしたわけです。

山口 そして1999年にご自分で映画祭を主催するようになったのですね。現在のSFF & ASIAでは「Branded Shorts」に注力していますが、企業やブランドがコミュニケーションの手段としてショートフィルムを活用するようになったのは、どのような背景があってのことなのでしょうか。

別所 ブランデッドムービーの先駆けとなったのが、2001年にBMWがガイ・リッチーやウォン・カーウァイといった有名監督を起用して制作した「BMW Films」です。日本では2003年に日産自動車が青山真治監督で「WebCINEMA“TRUNK”」を、ネスレ日本が岩井俊二監督で『花とアリス』を制作しています。インターネットが企業のマーケティングに活用されるようになってきてから、そのような短時間のフォーマットでオリジナルの動画コンテンツが求められるようになってきました。Webサイトにオリジナルの動画を用意して、テレビCMから「続きはWebで」と誘導することで、15秒や30秒のテレビCMでは訴求できないメッセージを伝え、継続的な関係作りをするようになったのです。

山口 そこにショートフィルムというフォーマットが活用されるようになったわけですね。スマートフォンとソーシャルメディアの普及もそうした流れを後押ししたといえそうですね。

別所 そうですね。手軽に動画が見られる環境が整って、気に入ったものはすぐ友達にシェアして拡散できるようになりました。加えていうなら、権利処理や配信の品質などが追い付いてきたということもあります。いずれにしても、さまざまな環境変化によってブランデッドムービーが充実してきたタイミングで、映画祭というランキングプラットフォームに載せていけるようになったきたということですね。

山口 「Branded Shorts」を2016年と2017年の2回やってみて、見えてきたことはありますか。

別所 今はまだ「ノールールがルール」という段階です。トラディショナルメディアにおいては、テレビでラジオでも「CMはこうあるべきもの」という考え方が明確ですが、インターネットではまだ正解は無数にあるといってもいい。私たち表現側も、マーケティングツールとして使う企業側も、プラットフォームを作るメディア側も、皆にとって非常に面白い時期ではないでしょうか。縦型動画もVRも使える。アウトプットにおいてもインプットにおいても、あらゆるやり方をカクテルのように組み合わせて、その中でどう勝ちパターンを作れるか模索している状況だと思います。

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