三木谷浩史氏が語る楽天のAI戦略 企業のマーケティングにどう貢献するのか?「Rakuten Optimism 2024」レポ―ト

楽天グループ最大級のイベント「Rakuten Optimism 2024」に、同社会長兼社長の三木谷浩史氏が登壇。「AIの民主化」への挑戦について語った。

» 2024年08月19日 18時00分 公開
[織茂洋介ITmedia マーケティング]

 楽天グループ(以下、楽天)は2024年8月1〜4日に年次イベント「Rakuten Optimism 2024」を東京ビッグサイトにて開催した。本稿では、楽天会長兼社長の三木谷浩史氏による初日の基調講演から、楽天のAI戦略とそれによって進化する「楽天エコシステム(経済圏)」のこれからについて、クライアント企業のマーケティング業務に関わる部分を中心にまとめた。

三木谷浩史氏

楽天の挑戦は「AIの民主化」

 楽天は現在、3つのステップで「AIの民主化」、すなわちあらゆる人が自由にAIを活用する世界を実現しようとしていると三木谷氏は説明する。

 1つ目のステップは、発行数1億を超える楽天IDを軸に、Eコマース、旅行、デジタルコンテンツ、フィンテック(金融)、携帯電話キャリアなどさまざまなサービスから得られる豊富なファーストパーティーデータとAIを使った技術基盤を拡大することだ。

 楽天のAI戦略はOpenAIを中心とした外部企業とのパートナーシップによるものと、独自の大規模言語モデル(LLM)開発の2つに分かれる。2023年8月にOpenAIと最新AI技術によるサービス開発で協業することで基本合意したと発表した。一方、2024年3月には日本語に最適化したオープンかつ高性能なLLM「Rakuten AI 7B」を公開している。

 2つ目のステップが、それらを使ってまず社内でモデルケースを作ることだ。楽天グループ内ではAIを活用して生産性を最大化させるために具体的な目標を設定をしている。それが「トリプル20」で、マーケティング、社内のオペレーション、そして、クライアント企業のオペレーションの効率をそれぞれ20%上げるというものだ。

 3つ目のステップが、社内で蓄積したノウハウを社外にオープン化し、具体的にサービスとして提供していくことだ。その領域はオペレーション改善、マーケティング最適化、顧客体験向上と、多岐にわたる。

 既に実装されているサービスもある。例えば楽天モバイルはAIによる画像分析を使った「AIかんたん本人確認(eKYC)」を提供している。広告・マーケティング支援ビジネスにおいては、「Rakuten CustomerDNA」「Rakuten AIris」で購買予測を可能にしている。この他にも、レコメンデーションやパーソナライゼーション、翻訳、検索、顧客サポートなど、さまざまな用途でAI活用が進んでいる。

「Rakuten AI」を社外へ

楽天グループの全てを包含したコンシェルジュ

 そして間もなく、「楽天グループのユニバーサルコンシェルジュ、楽天グループの全てを包含したコンシェルジュサービスが始まる」と三木谷氏は宣言した。デモンストレーション映像では、レモンタルトの画像一枚からレシピの提供と材料の購入までがAIとの対話だけで完結するところが紹介されたが、ショッピングだけではなくトラベルや金融などさまざまなサービスにおいて対話型AIを導入予定だという。

コンシェルジュサービスを楽天エコシステム横断で提供予定

AIとモバイル

 AIの民主化を進める楽天がモバイル事業に注力する理由について三木谷氏はAIを脳に例え、情報伝達を担うニューロン(神経細胞)に相当するのがモバイルネットワークであると説明する。

 ネットワークの最適化からユーザーサポートの効率化まであらゆるところでAIを活用することで低価格高品質なサービスを提供し、「携帯市場の民主化」を実現することは、そのままAIの民主化に直結する。「AI仮想社会の伝送部分を圧倒的に効率化することによって、世の中が変わる」(三木谷氏)というのだ。

 現状、インターネットのヘビーユーザーである若い層を中心に楽天モバイルの普及が進んでいるという。楽天モバイル契約者は非契約者と比べて楽天グループのサービスを2.45多く使うという副次的な効果もあった。利用金額においても、楽天市場で約50%、楽天トラベルで約12%高くなっている。楽天モバイルが加わったことで楽天エコシステムがさらに強化されている面もある。

 「Rakuten最強プラン ビジネス」の提供など法人向けモバイルビジネスの強化を通じて企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援したい考えもある。ハウスメーカーの木下工務店などを傘下に置く木下グループでは8000台のスマートフォンをベースにグループ全体でDXを推進している。その中心にはもちろんAIの活用がある。

AIの民主化と形態市場の民主化で企業のDXを加速

 労働力不足という日本の構造的な課題を解決するには圧倒的な生産性の向上が求められる。そのためにAIの活用は不可欠だ。楽天は先述のOpenAIとの協業を軸に新プラットフォーム「Rakuten AI for Business」の提供を予定しており、文書作成や翻訳、アイデア出しや分析などのさまざまな機能を備えたチャットサービスを幅広い職種向けに提供することも予定している。

「Rakuten AI for Business」の提供を予定

 インターネットの黎明期から、さまざまな新市場を開拓し、広げてきたことを踏まえ、三木谷氏は楽天の役割を「皆さんよりも少しだけ先を見て、そこに向かって果敢な挑戦チャレンジをしていくことによって道を開くこと」と述べ、「AIによって世の中は根本から変わる。それを皆さんと共に実現していきたい」と、AIの民主化への思いをまとめた。

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