Googleの独占市場が崩壊? 迫られるChrome事業分割がもたらす未来のシナリオCMOは知っておきたいSEOトレンド

本記事では、GoogleがChrome事業を分割した後の世界がどのようなものになるのか、そしてマーケターはどのように対応すべきかを探ります。

» 2025年01月23日 11時00分 公開
[田中雄太デジタルアイデンティティ]

 デジタルマーケティングの世界に大きな変革の波が押し寄せています。2024年11月、米司法省はAlphabet傘下のGoogleに対して、同社が反トラスト法(独占禁止法)に違反していると判断して、インターネット閲覧ソフト「Chrome」事業の売却を求めました。また、今後10年間で検索などによって得られたユーザーと広告のデータを他社に無償提供することなども要求しています。

 これに対しGoogleは同年12月、判決への反対と控訴方針を表明すると同時に、独自の是正案を公表しました。検索に関する訴訟は決着がつくまで少なくとも数年はかかるとされていますが、これらの動きは長年Googleの独占状態が続いてきた検索エンジン市場と広告業界に劇的な変化をもたらす可能性があります。

 本記事では、Chrome事業分割後の世界がどのようなものになるのか、そしてマーケターはどのように対応すべきかを探ります。

Googleが検索エンジン独占で訴追されるまでの経緯をおさらい

 まずGoogleの検索エンジン独占に関する訴訟の経緯を簡単に振り返ります。

 そもそも訴訟が提起されたのは2020年10月で、米司法省はGoogleが検索と検索広告市場で違法な独占を維持していると訴えました。この訴訟で同省は、デバイスメーカーやブラウザ開発企業に多額の支払いを行い、Googleをデフォルトの検索エンジンに設定していることや、競合他社を排除する行為など、排他的契約を通じて競争を抑制していると主張しています。

 これに対し、2024年8月にアミット・メータ裁判官が、Googleが検索市場で独占を維持する中で反トラスト法に違反したと認定。2024年11月には救済措置の提案があり、2024年12月にGoogleから修正案を提出しました。

 米司法省が提案した救済措置には、Chrome事業の分割の他、AndroidにおけるGoogle検索の優遇制限、デバイスメーカーやブラウザ開発企業との排他的契約の禁止、競合他社へのデータ共有の義務化、自社サービス優遇のための検索結果利用の禁止、広告主への価格の透明性確保などが盛り込まれました。また、第三者のコンテンツがGoogleの人工知能モデルの学習データとして使われることを拒否できる仕組みの導入も要求しています。

 これらの措置は、Googleの市場支配力を抑制し、デジタル広告および検索市場における公正な競争環境を整備することを目的としています。特にChrome事業の分割要求やAndroidでのGoogle検索優遇制限は、Googleのビジネスモデル全体に大きな影響を与える可能性があり、検索エンジン市場や広告業界に劇的な変化をもたらすことが予想されます。

 今後の動きとしては、2025年3月に司法省が修正案を提出し、2025年4月には法廷審問が開始し、2025年9月にはメータ判事が最終決定を下すと見られています。おそらくここでは決着がつかず、Googleは控訴すると見られているため、裁判はその後数年続くことが予想されます。

検索エンジンの精度低下の懸念

 Chrome事業の分割の行方はまだ数年先まで分かりませんが、仮に分割に至った場合にGoogle検索にどのような影響が出るかを見ていきましょう。

 まずChrome事業の分割における最大の懸念は、デフォルト検索エンジンとしての地位喪失による利用者数の急激な減少です。Chromeを通じて収集されてきた膨大なユーザーデータが制限されることで、検索アルゴリズムの精度が大幅に低下するリスクがあります。これにより、パーソナライズされた検索結果の提供が困難となり、Googleの検索エンジンの競争力が著しく低下する可能性が高いでしょう。

 また近年競争が激しくなっている生成AI検索においても、学習データの制約を受けることでアウトプットの精度が下がる可能性があります。競合他社は検索エンジンのデータに依存しないそれぞれの手法で開発を進めているため、制約を受けることでGoogleが開発競争に後れを取ることも考えられます。

 さらに、検索利用者の減少は広告収入にも直接影響し、検索サービスの品質維持を困難にするでしょう。結果として、Microsoft「Bing」などの競合他社の検索エンジンが市場シェアを拡大する絶好の機会を得ることになります。

広告配信への影響

 続いて、Chrome事業の分割における広告配信に対する影響を見ていきましょう。

 司法省は、GoogleがGAM(Google Ad Manager)やAdX(Google Ad Exchange)などのツールを通じてオンラインディスプレイ広告分野を独占的に支配していると主張しています。特に、2008年にDoubleClickを、2011年にAdMeldを買収したことで、Googleは自社の広告ツールとライバルシステムとの相互運用性を制限し、サードパーティーのアドテクソリューションの利用を困難にしてきたことを問題視しています。

 なお、日本の公正取引委員会も、Googleのシステムを利用するYahoo! JAPANが掲載パートナーに対して検索連動型広告配信サービスを提供することを一部取りやめるよう契約条件を変えた点を問題視しています。

 今後の動き次第では、Googleのアドテク事業の分割や広告技術の相互運用性の向上が求められることもあり得るでしょう。

Google関連サービスとの連動性の低下

 最後に、Google関連サービスとの連動性について見ていきましょう。

 Chrome事業の分割が行われれば「Gmail」などのサービスとの連携が困難になり、ユーザー体験が大幅に低下する恐れがあります。例えば、ChromeとGoogleアカウントの同期機能が失われ、ブックマークやパスワードの管理が複雑化する可能性があります。便利なChromeの拡張機能も分割により仕様の変更を余儀なくされ、最悪の場合は拡張機能自体が廃止になることも考えられます。

 また、「Googleドキュメント」や「Googleドライブ」などのツールへのシームレスなアクセスが制限される可能性もあります。さらに、Googleの収益性が下がることで、今まで無料で提供されてきたGoogleサービスが有料化されたり、品質の維持が困難になる可能性があります。

 結果として、Googleのエコシステム全体の魅力が低下し、ユーザーの離脱や他社サービスへの移行が加速することが予想されます。

検索市場の未来はどうなるのか

 世界各国で訴訟の問題を抱えているGoogleですが、Googleおよび検索市場の未来は概ね米国の政治事情により左右されるため、特に新大統領のトランプ氏次第とも言えます。

 ただし、トランプ氏によればGoogleは国家安全保障上の脅威となっている対中国への切り札の一つとなっています。Googleに対して有罪判決が下る可能性は高いものの、先述の通りGoogleの控訴は必至のため、トランプ大統領の在任中は大きな変革は起きず、最終的には妥協案による何らかのペナルティーをGoogleが受け入れる形で、分割を免れて着地することが予想されます。

 過去にも似たような訴訟の構図で2000年頃のMicrosoft vs 司法省がありましたが、この際も2012年には和解しており、OSとブラウザは分割されずにMicrosoftは一つの企業として存続しました。ただし、そこからMicrosoftの成長がやや鈍化したように今回の訴訟でGoogleがChromeの分割を免れたとしても、今までのような成長の勢いは鈍化することが考えられます。

 マーケターとしては、2025年時点でGoogleから別プラットフォームを主体としたマーケティング手法への移行を急ぐ必要は全くありません。しかし、今後数年にかけて広告・検索市場におけるGoogleの独占状態が徐々に崩れていくことは十分に考えられます。そのため、Bingなどの別プラットフォームの試用を始め、今のうちから運用の知見を蓄積しておくことで、今後の変化に柔軟に対応することができるでしょう。

執筆者紹介

田中雄太

田中雄太さん

たなか・ゆうた デジタルアイデンティティ SEOエヴァンジェリスト、コンサルタント。SEO集客からの売り上げ・問い合わせ増加など、セールスファネル全体のコンサルティングが可能。『薬機法管理者』の資格を有し、表現の規制が厳しい薬機法関連分野のマーケティングにも精通。


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