Metaがファクトチェックの廃止など、コンテンツに関するいくつかの重要なルール変更を行ったことが波紋を呼んでいる。いま知っておくべきことを解説する。
Metaが2025年最初の大きなソーシャルメディア論争を巻き起こした。同社は、ファクトチェックを廃止し、自社アプリ上での発言ルールを緩和することを発表したからだ。
これは、過去にMetaを強く批判してきた次期米国大統領ドナルド・トランプ氏をなだめるための試みだと多くの人が見ているが、ザッカーバーグ氏と彼のチームは本当のところ何故このような決定を下したのか。そして、これはFacebookやInstagram(とThreads)のユーザーにとって実際にプラスになるのだろうか、それともマイナスになるのだろうか。
ここでは、Metaの方針転換に関する重要な疑問と、同社がこのタイミングで新たな方向性を選択した理由について説明する。
Meta(外部リンク/英語)は投稿で許容される発言の範囲を拡大する一方で、サードパーティーによるファクトチェックプログラムを廃止する予定だ。その代わりに、「X」(旧Twitter)で導入されたクラウドソーシングによる「コミュニティノート」システムに移行する。また、過去4年間にわたり減少させていた「政治的」と見なされるコンテンツをフィードに再び増やす方針である。
まずは特に「政治的議論が頻発する」テーマに関する発言を許容する方向に動いており、移民問題やジェンダー自認に関する議論から変更を開始する。
非営利調査報道機関の「The Intercept」(外部リンク/英語)は現在Metaスタッフに配布されているMetaのモデレーションガイドラインが更新されたことを確認している。これに基づき許容されるようになったコメント例は以下のようなものだ。
これらの発言は、現在では問題視されることなく、罰せられることはない(あったとしてもこれまでと同じように罰せられることはない)。これにより、Metaのアプリ内でヘイトスピーチが拡大することが懸念される。また、移民やLGBTQ+コミュニティーにしても、以前より広範な表現が許容されるようになるだろう。
Metaの声明文では、その時々の政治的議論の対象に応じて、さらにルールが変わる可能性も示唆されている。
一方、ファクトチェッカーの廃止により、Metaの誤情報拡散への対応能力は低下する見込みだ。これは、後述するようにMeta自身が証明している。加えて、政治的コンテンツの再導入により、分断的な議論がMetaのアプリ全体に広がる可能性がある。
ザッカーバーグ氏によれば、Metaが提携していたファクトチェックパートナーには政治的偏向があるという。
ザッカーバーグ氏は先週、ジョー・ローガン氏によるインタビュー(外部リンク/英語)で次のように述べている。
ファクトチェックを仕事とする人の中には、政治的事実確認に重きを置いている人が多く、その方向に向きがちです。私たちは基本的に、私たちが当初意図していたものになるよう努力し続けました。それは、極端と思われる情報の事実確認を手助けするレイヤーを提供するということであり、人々の意見を批判することではありませんでした。しかし、それが広く人々に受け入れられることはありませんでした。私が思うに、人々はファクトチェック担当者が偏向的だと感じていた。必ずしも彼らが下した判決に偏りがあったわけではありませんが、多くの場合、そもそもファクトチェックの対象として選んだものの種類に偏りを感じていたのだと思います。
ここに、いくつかの重要な手がかりがある。
第1に、ザッカーバーグ氏がこの3時間のインタビューを、右派の論客として知られるジョー・ローガンのポッドキャストで行ったという事実だ。また、Metaの政策責任者がFox Newsで同様の発表を行った(外部リンク/英語)という点も重要である。
このメッセージは明確だ。Metaは右派やトランプ次期大統領の意見に歩調を合わせるためにこれらの変更を行ったということだ。この点は、ファクトチェッカーを政治的に偏っていると非難する理由と密接に関係している。
しかし、それは真実なのだろうか。Metaのファクトチェックパートナーは政治的に偏っているのだろうか。
Metaのファクトチェックプログラムの全容を評価せずに判断することはできない。だが、統計的な背景を考えれば、ファクトチェックを完全に排除することが全体として有益になるとは考えにくい。
2018年にMetaが提供した統計(外部リンク/英語)によれば、ファクトチェッカーが「誤り」と評価した記事は、将来的な閲覧数が平均で80%以上減少するとされている。一方でさまざまな学術研究(外部リンク/英語)が、ファクトチェックは誤った信念を大幅に減少させ、ファクトチェックされた投稿の拡散を減少させる効果があると示している。
特に、Facebook上では誤情報が正しいニュースより6倍も多くのエンゲージメントを得るというデータ(外部リンク/英語)を考慮すると、ファクトチェックを完全に廃止するのは得策とは言えない。
次の疑問は、「X」上で成功例も失敗例もある「コミュニティノート」が、第三者のファクトチェックの代替として十分に機能するかという点だ。
現行のコミュニティノートの大きな欠陥が、ノートの表示における中立性を確保するために、政治的コンセンサスに依存していることだ(つまり、正反対の政治的見解を持つノート投稿者同士が、ノートが必要であることに同意する必要がある)。
デジタルヘイト対策センター(CCDH)の分析(外部リンク/英語)によれば、最も意見が分かれる問題の多くでは、このような合意は決して得られない。従って、重要な論点に関するメモの大半は表示されないことになる。
このことは、トランプ政権下でさらに勢いを増すとみられる政治的誤情報が、X上よりもMetaのアプリではるかに広まる可能性があることを意味しているかもしれない。
ザッカーバーグ氏は先述のローガン氏によるインタビューで、Metaのモデレーションルールを改訂する理由の一つとして「人々に共有する力を与え、世界をよりオープンでつながったものにするという当初の使命に戻ること」を挙げた。
これはMetaが設立当初から掲げてきたものというわけではない。とはいえ、10年以上にわたりMetaの公式なアプローチの一部として掲げられてきたことは事実だ。
2014年にザッカーバーグ氏は、Metaのミッションステートメントを「世界をつなぐ」とし、当初の企業モットーである「早く作って、壊せ」から変更すると発表した(外部リンク/英語)。それ以前は、2012年に株式公開したFacebook(現在のMeta)がどれほど重要で影響力のあるものになるか、誰も予想していなかった。
従って、それが永遠に会社の中心的焦点であったわけではないが、2014年には全ての国に進出し、より多くの人をFacebookの拡大するユーザーベースに結びつけるという具体的な形で、人々をつなげるという目標が明確に設定された。
つまり、あらゆる政治的見解を持つ全ての人々を結びつけるというザッカーバーグ氏の主張はいささか語弊があるが、過去のミッションステートメントと照らし合わせて、これが中心的な目標であったと示唆することはできる。
とはいえ、本当のところ、ザッカーバーグ氏の主要な目的は今も昔も「事業の成長」と「競争相手への優位性の最大化」である。
この観点で見ると、今回の発表もザッカーバーグ氏の望むナラティブというよりビジネス成長の戦略として合理的に説明がつく。
その可能性はある。
ザッカーバーグ氏のモデレーションと政治的発言に関する発表を振り返ると、Metaは、この新しいアプローチに反すると思われるいくつかの重要な約束を行ってきた。
2015年、米国最高裁判所が同性婚を合法化した後、ザッカーバーグ氏はこの機会を利用して、FacebookがLGBTのつながりを強化する上で果たした役割を称賛した(外部リンク/英語)。
このような状況でヘイトスピーチに関する規則を緩和することは矛盾しているように思われる。特に、LGBTQ+コミュニティーのメンバーを攻撃するために使用される可能性のある発言に対して、特定の除外規定を設けることに関しては矛盾が顕著だ。
2017年にシャーロッツビルの銃乱射事件が起こった後には、ザッカーバーグ氏はFacebookを「誰もが安全だと感じられる」場所にすると約束した(外部リンク/英語)。今回の新ルールがこれにも反していると主張することもできるだろう。
2018年には、2016年の米国選挙の論争と、ロシアのボットファームが民主的なプロセスを妨害した可能性があるという示唆を受けて、ザッカーバーグ氏は新しいアプローチの概要を示し(外部リンク/英語)、Metaが「全てのサービスで危害を防ぐことに重点を置くためにDNAを根本的に変えてきた」と説明した。
Metaは誤情報およびプラットフォームのルールに抵触するかしないか微妙なコンテンツの配信を制限することに注力した。
ザッカーバーグ氏によると、これは極めて重要な問題だった。というのも、コンテンツがルール違反に近づけば近づくほど、エンゲージメントが高まるからだ。
この問題に対するザッカーバーグ氏の答えは、ボーダーライン上のコンテンツを検出するAIシステムのトレーニングに重点を置き、Meta積極的にその配信を減らすことができるようにするというものだった。つまり、そのようなコンテンツを削除したり制限したりすることよりも、エンゲージメントがそれほど高くならないようにして、投稿するインセンティブに対処することを重要視したのだ。
また、ザッカーバーグ氏は次のようなメモも共有した(外部リンク/英語)。
過去1年間、私たちはミャンマーのような危機に直面している国々で、憎悪を広める人物やコンテンツを特定することを優先してきました。この取り組みの開始が遅過ぎたことは認めますが、2018年第3四半期には、ミャンマーで削除したヘイトスピーチの約63%を事前に特定することができました。これは2017年第4四半期のわずか13%から大幅に増加しています。
ミャンマーの政情不安においてFacebookが果たした役割はいくつも記録に残っている(外部リンク/英語)。Metaはそれ以来、主にこの事件に起因する政治的二極化と誤報を制限するためにシステムの改善に懸命に取り組んできた。
この文脈で今日より重要になっているのは、Metaのアプリを利用しているのは米国だけではないという事実だ。今回のルール変更は、他の地域でも害を及ぼす可能性がある。
いずれにしても、ヘイトスピーチと誤情報の拡散は2018年のMetaにとって重要な焦点であった。ザッカーバーグ氏は次のように述べている。
ヘイトスピーチについても進展を遂げており、現在では52%をプロアクティブに検出しています。この取り組みのため、さらなる技術の進歩と、目標を達成するための言語専門家の採用が必要です。
繰り返しになるが、Metaのアプローチは安全性を重視し、ユーザーがアプリを安心して使用できるようにすることに重点を置いている。
Metaのこのアプローチは、過去6年間にわたるさまざまな発表やポリシー変更を見る限り、おおむね維持されてきたようだ。2021年には議事堂襲撃を受けてドナルド・トランプ氏のアカウントを停止した。Facebookの利用に影響を与えてきた分裂と不安に対抗する手段として政治コンテンツからの完全撤退を決定した。これらはFacebookの利用状況に影響を与えていた問題への対策であった。
実際、Metaが最近発信しているメッセージは、政治はビジネスに悪影響を与え、いずれにしても政治的議論は必要ないというものである。なぜなら、FacebookとInstagramでのエンゲージメントは主にリールを中心とするAI推奨コンテンツに基づいて増加しており、現在ではユーザーがフィードで見るコンテンツの50%以上を占めているからだ。
つまり、二次使用料をめぐってニュースパブリッシャーと交渉する必要も、怒りをかき立てるような政治的な投稿を宣伝する必要もなくなっており、、さらにはソーシャルアプリが社会の分断に果たす役割についての議会の調査にザッカーバーグ氏自身が巻き込まれる必要もなくなっているのだ。
Metaは明らかに次のステージへ進み、このような問題から完全に距離を置こうとしていたようだ。
しかし、Metaはその姿勢を変え始めた。ザッカーバーグ氏は議会に宛てた書簡の中で、バイデン政権当局者の要請でCOVID-19ワクチンに関する誤情報をバイデン政権の要請で検閲したことや、ハンター・バイデン氏のノートPCに関するNew York Postの記事を誤ってブロックしてしまったことについて遺憾の意を示した(関連記事:「コロナ禍での政府の圧力への対応をMetaは後悔 “反ワクチン”投稿制御はやり過ぎだった?」「バイデン大統領の息子の事件をフェイクニュース扱い 『モデレーション』はなぜ難しいのか?」)。
その時点で、トランプ氏は世論調査で支持を伸ばし、再選に向けて順調に進んでいるように見えた。このタイミングは偶然かもしれないが、ザッカーバーグ氏は世論調査の結果を基に、先週の方針転換に向けた下準備をしていたようにも思える。
また注目すべきは、トランプ氏が自身が再選された場合、Facebookが彼のアカウントを停止したことを「政治的越権行為」とみなし、ザッカーバーグ氏を終身刑に処すと脅していたことである(外部リンク/英語)。
これは、次の疑問につながる。
(続く)
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