データを駆使した顧客理解が重要視されている。だが、顧客と良好な関係を維持して長期的な収益につなげるためには、ただ理解するだけでは十分とは言えない。必要なのは理解のもう一歩先にある「共感」だ。
対面での商談が難しくなる中、デジタルの顧客接点に寄せられる期待は大きくなるばかりだ。そうした中でWebサイトは、企業にとって単なる情報提供の場ではなく、顧客との関係を構築し、体験を提供する重要な接点となる。何らかの目的を持ってやってくる訪問者に対して個別のニーズに合った有益なコンテンツを提供することは、デジタル時代の「おもてなし」になる。
しかし、それは言うほど容易ではない。一人一人に合った情報を提供しようとすれば現在よりはるかに多くのコンテンツを用意しなければならないし、コンテンツを出し分ける技術も必要になる。外部のWeb制作会社に依存してカタログ的なWebサイトしか作ってこなかった多くの日本企業にとっては難しいチャレンジになるだろう。
さらに言えば、問題の本質はコンテンツの「量」ではない。もちろん、多くのコンテンツがあるに越したことはないが、より重要なのはコンテンツの「質」だ。
マーケティング分析ソフトウェアを提供するAclate(Beckonの名称で事業展開)が2017年に発表したレポート「MARKETING TRUTH OR MARKETING HYPE」によれば、「企業が作るコンテンツの5%が総エンゲージメントの90%をけん引する」という。見方を変えると、どんなに大量にコンテンツを作っても、95%が顧客とのエンゲージメント構築に役に立っていない。ほとんどの企業のWebサイトが「デジタル機会損失」(デジ損)を抱えているわけだ。そうである以上、マーケターがすべきことは明確だ。金の卵である「5%に相当するコンテンツ」を見極め、それに対して集中的に経営資源を投下するのである。
サイトコアの安部知雄氏(マーケティング グループ シニア・マーケティング・ディレクター)は「5%のコンテンツに効率的に投資するために重要なのは顧客への『共感』だ」と語る。
サイトコアはコンテンツ管理システム(CMS)をベースにしたデジタルエクスペリエンスプラットフォームを提供する世界有数のベンダーだ。同社がコンテンツマーケティング支援会社のContent Management Instituteと共同で実施した調査によれば、コンテンツやコンテンツ戦略の成功を左右する最も重要な要因として50%のマーケターが「受け手の価値観や興味、あるいは課題を理解し、感情レベルでつながること」を挙げている。この結果からはコンテンツの質を左右するのは顧客への共感であるという示唆が得られる。
安部氏は、コンテンツ戦略における共感の重要性を2つの例を挙げて解説する。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連ニュースで引用される世界の医療情報で「ジョンズ・ホプキンス」の名前を目にしたことはないだろうか。Johns Hopkins Medicine(JHM:ジョンズ・ホプキンス・メディスン)は、世界有数の医師養成機関として知られるジョンズ・ホプキンス大学メディカルスクールが設立した独立組織で、複数の医療機関からなる非営利組織Johns Hopkins Healthcare Systemと、大学、付属病院をつなぐ役割を担う。
JHMはパンデミック発生前からWebサイトでさまざまな医療情報を提供している。カバーする情報は研究者や学生向けの専門的なものだけでなく、患者や一般向けまで幅広い。
もともとコンテンツのストックは十分にあったが、COVID-19の感染拡大によってJHMはあらためて自身が果たすべき役割に気づいた。ほとんどの人が「ステイホーム」を強いられる中で、COVID-19に関心を寄せるのは専門家だけではない。必要とされる情報のレベルはさまざまだが、それを必要なタイミングで必要とする人に確実に提供しなければならないと考えたのだ。
そこで、健康を維持するために必要な情報など、変化する情報ニーズに対応したコンテンツも積極的に提供するようにした。体制を整備し、検索クエリに対して臨機応変にコンテンツを出し分けるようにしたところ、Webサイトのトラフィックは従来比で4倍に増加したという。
2020年3月、レンタカー大手のEnterprise Rent-A-Carは期間限定で最低利用年齢を21歳から18歳に引き下げる措置を実施した。当時はCOVID-19感染拡大の懸念から、ニューヨーク州やワシントン州といった複数の地域で大学閉鎖が決定した時期に当たる。急きょ自宅に戻らなくてはならなくなった大学生たちの貴重な交通手段となったのがレンタカーだ。
米国ではニューヨーク州やミシガン州など一部を除いて車を借りられるのは21歳からで、多くの学生は家族の迎えを待たなければならなかった。同社はこの状況に対応するために規定を緩めた。顧客が抱える課題に寄り添う迅速な意思決定のおかげで、学生たちは自ら車を運転して家に帰ることができた。同社のレンタカーを利用した学生とその家族は得難い体験をしたことになる。
2つの例は「共感力が強力な顧客エンゲージメントを生み出す源になること」「顧客と緊密な関係性を構築する上でコンテンツ戦略が極めて重要であること」を教えてくれる。ここで強調しておきたいのが「理解」と「共感」は似て非なる考え方だということだ。
近年、顧客理解の重要性が叫ばれている。データを駆使して顧客が今この瞬間に抱えている課題を深く理解することは当然必要だが、実はそれだけでは十分ではない。より重要なのは、理解を示して行動に移すことだ。共感がコンテンツとして形になって初めて、顧客には「この企業、このブランドは自分を理解してくれている」と受け止められる。
共感力の高いWebサイトを構築し、パーソナライズを極めようとすれば幾つコンテンツを作っても終わりがない――。そう考える人もいるかもしれない。そのような状況はマーケターを消耗させる。また、やみくもにコンテンツの数を増やせば管理は煩雑になるし、重複投資のリスクもある。何よりも、訪問者の関心が薄いコンテンツを量産してもROI(投資対効果)が下がるだけだ。作成に費やす時間と労力とコストが同じであれば、関心を持たれないコンテンツほど割高になるからだ。
自分たちの企業やブランドに共感してくれる人がどこにどれだけいるかは分からない状況で顧客エンゲージメントを獲得するには、テストを繰り返しながらコンテンツを提供する姿勢が不可欠だ。また、コンテンツ制作はコンテンツ単位ではなく、アセット(資産)単位のROIを見ていくことも重要になる。「一人一人に最適なコンテンツを出すため、アセットの管理に焦点を当てた『コンテンツサプライチェーン』を確立する必要がある」と安部氏は指摘する。
例えば、同じテキストと画像を使いながらも組み合わせを変えることでコンテンツのバリエーションを増やすことはできる。また、金融業向け、製造業向けなど、特定のセグメントごとに「刺さる」コンテンツのパターンを理解していれば、効率的かつ効果的なコンテンツを作ることができる。無駄な労力を排してやるべきことにクリエイティビティーを集中させられれば「コンテンツ地獄」に陥ることもない。
企業がコンテンツ戦略を進め、アセット単位でWebサイトのROIを高めるための製品としてサイトコアは「Sitecore Content Hub」を提供している。これは「DAM」(デジタル資産管理)のカテゴリーに属する製品だが、単なる「アセットの貯蔵庫」ではなく、コンテンツマーケティングに必要な機能を備えている点が特徴だ。
コンテンツの基となるアセット、具体的には写真やテキスト、動画、音声などを一元管理できるため、コンテンツ戦略に基づいたプロジェクト計画の立案に役立つ。立案したプロジェクト計画とコンテンツの作成、管理、分析を関連付けさせることもできる。
コンテンツ制作における「コラボレーションプラットフォーム」としても利用できる。複数の同時進行タスクを一覧化し、直感的に管理できるため、コンテンツ制作における共同作業の高速化が可能だ。アセット単位で効果測定ができるため、「最適なエンゲージメントを獲得するために、コンテンツをパーソナライズして再利用する」といった後工程のアクションも取りやすい。
アセットの「DRM」(デジタル著作権管理)機能もある。制作会社とのやりとりのためにストレージサービスを利用したコンテンツの共有はできていても「エンドツーエンドでのコンテンツサプライチェーン管理」までできている日本企業は現状では少ない。一方で企業は今、著作権の管理下にあるアセットを安心して使える仕組みを必要としている。例えば画像に利用期限が設定されている場合、期日通りにコンテンツの表示を停止したり差し替えたりする対応が、頻繁に発生する。グローバルでビジネスを展開している企業ほど煩雑な作業を抱えており、コンテンツサプライチェーンにおける社内外とのコラボレーションを効率的に実施したいニーズが高い。
2020年7月にリリースしたSitecore Content Hubの最新バージョン3.4には、AI(人工知能)を活用したアセットの検索性を高める機能が追加されている。これにより、例えば画像の類似性を分析する「Content AI」がDAM内にある代替画像を素早く見つけてくれる。既存のアセットを活用できるようになることは、新しい画像を作成する手間とコストの削減にもつながる。
増え続ける動画コンテンツの管理を容易にするためのメタデータの自動生成機能とMicrosoftの「Azure Cognitive Services」を利用した動画トランスクリプト(自動でテキスト字幕を起こす)機能も実装した。これらの機能を利用すれば「動画中のキーワードを基に関連するコンテンツを検索する」といった使い方ができる。
「Sitecore Content Hubはアセットの検索性を高める方向に進化している。膨大な量のアセットの管理は専用のツールに任せ、マーケターはキャンペーンを成功させる改善に注力してほしい。Sitecore Content Hubはその取り組みを支援する」と安部氏は訴える。
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提供:サイトコア株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia マーケティング編集部/掲載内容有効期限:2021年4月15日