顧客がインターネットで自ら情報を収集する時代、デジタルを含む全接点でどのようなアプローチをすべきか。日本ヒューレット・パッカードが数ある事例から得た知見を紹介する。
Hewlett Packard Enterprise(以下、HPE)の日本法人である日本ヒューレット・パッカードは、多くの販売パートナーと提携しながらデジタルチャネルを通じたB2Bマーケティング施策を意欲的に展開している。2019年は29社のパートナーと共に566本の施策を打った。
2020年2月14日に開催された「HPE Partner Ready Marketing Pro Academy 2020 Tokyo」では、日本ヒューレット・パッカードでパートナーマーケティングマネージャーを務める白石武氏が、これまでの事例から得た膨大な知見を基に、最新のB2Bマーケティングの傾向や考え方を紹介した。また、白石氏と共にパートナーマーケティングマネージャーを務める荒木恵理子氏とインサイドセールスマネージャーの岡本拓也氏が、顧客の本質をつかむために実施したカスタマージャーニーワークショップの手法や成果について話した。本稿ではその内容をレポートする。
「顧客の購買行動が変化している」とは、B2C領域のマーケティングでよく聞かれる言葉だが、それはB2Bであっても同じだ。以前は営業担当者と展示会だけだった顧客との接点が、インターネットの普及によってWebページの閲覧やデモ動画、資料のダウンロードと増えている。顧客は自ら能動的に情報を集める時代になった。業界横断的な経営者団体CEB(旧Corporate Executive Board)が行った調査では「顧客が営業担当者にアプローチした時点で、既に購買プロセスの57%が終わっている」という結果が出ている。
白石氏はこのデータを引き合いに出し、あるパートナーがプライベートセミナー後に大手企業から1億円規模の案件を受注した事例を挙げた。このパートナーと大手企業は、もともと密なリレーションがあったわけではない。では、なぜマーケティングで獲得が難しいとされる大手企業をつかむことができたのか。
HPEは自社のWebサイトやオウンドメディアにおいて、メールアドレスのドメインを基にどの企業の人がどのページを何分見ているかを追跡し、HPEの商品への興味をスコアリングしている。そのバックログから先述の大手企業の履歴を追ったところ、プライベートセミナーが開催された月から3カ月にわたって、製品ページに大量のアクセスがあった。資料のダウンロードも100回以上で、非常に能動的に情報を取得している様子が見られたという。
白石氏は、顧客が自ら情報を取りに行く背景として「エンドユーザーはいつまでにこのプロジェクトをやらなければならないという制約がある中で、自分たちで必死に情報を探している」と推測する。故に今の時代は、「顧客を『点』ではなく『線』で把握し、各接点でしっかりと顔を出していくことが重要」と白石氏は強調した。
B2Bマーケティングにおいて近年「質の高い新規リードの獲得が難しい」という課題がある。「『新規リードのうち、すぐに購入に至るのは10%前後』といわれる。つまり、何もしなければ未商談、未受注のまま蓄積されていく残りの90%をどのように捉えるかで、今後の案件化率や受注率に差が出てくる」と白石氏は語る。
米国のある調査データによれば、リードを放置すると80%は2年以内に競合から製品を買ってしまう。「だからこそ、中長期にわたって顧客の購買タイミングを捉えるマーケティングのプロセスが重要だ」と白石氏は語る。それには、マーケティングや営業が「顧客の興味を把握し、対話する仕組み」が欠かせない。
「既存リードが再来訪した段階でチャットやインサイドセールスによるコール、デジタルでの行動履歴などを使い、顧客の状況を把握する。こうして『顧客と対話するプロセス』を確立させることが重要だ」(白石氏)
再来訪した段階で、顧客は既に情報収集を終えている可能性がある。後はどの企業、どの製品にするかを検討するだけ、つまり 「浅い情報収集段階」から「具体的な比較検討プロセス」に移行していることが少なくない。「だからこそ、既存リードの選定段階を『線』で把握し、対話によって『顧客の意思決定をフォロー』することが商談化につながる」と白石氏は言う。実際にそのような形で案件化した事例は少なくないそうだ。
リードを中長期にわたって育成する際には、顧客の検討ステップを綿密に考えることも必要だ。展示会で名刺交換しただけで製品に興味のない相手に、いきなりメールでコンテンツをダウンロードさせようとしても無理がある。階段は、一段が高過ぎると上れない。HPEパートナーマーケティングにおいて、顧客は課題を認識した後に検索して商品を認知し、営業担当者に会ってプロダクトを理解し、比較検討して実証実験を行ってから発注に至る。その時々の顧客ステージに合った階段を設計することが重要だ。
HPEのパートナーマーケティングは、この「階段設計」を意識し、顧客の興味関心に沿ったコンテンツを生成している。興味関心のあるポイントはそれぞれの人が社内で担っている役割で変わるため、誰に向けたコンテンツなのか、そのターゲットを意識することも大切だ。例えば、ITエンジニアは操作性や効率に注目しやすく、データセンターのマネジャーであればスペースや省エネ、ITエグゼクティブはコストや工数が削減できるかを気にしている。
外部環境もしっかりと考えてアプローチしなければならない。2019年でいえば、働き方改革や消費税率の引き上げなどがあった。自然災害なども顧客企業に影響する場合がある。最後に白石氏は、「誰を狙うのか、何に困っている人たちをどのように狙うのかを、企画立案時にしっかり考えることが重要だ」と語る。
岡本氏は現在、従業員数999人以下の中堅・中小企業を担当するインサイドセールスチームを率いており、「首都圏、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県など8都府県でお客さまを開拓している」という。若手中心の同チームは2019年10月まで大手企業を担当していたが、ミッドマーケットに注力するという会社の施策で新たな領域に取り組むことになった。商談の全てが販売パートナー経由のため、パートナーとより密接な連携を取りながら営業活動を進めていることがチームの特徴だ。
2019年11月から新たな領域を担当するに当たって、岡本氏のチームには大きな懸念点があった。それは「新たに担当するお客さまのことがよく分かっていない」という点だ。そこで「チーム内でカスタマージャーニーワークショップを開催し、お客さま理解へのヒントを探った」(岡本氏)。
カスタマージャーニーワークショップを行ったのはわずか2時間だが、「さまざまなことが非常に効率よくディスカッションできた」と岡本氏は振り返る。以下は荒木氏が質問し、岡本氏がそれに答える形で解説したワークショップの手順とその成果だ。
初めに、作成するカスタマージャーニーマップのテーマを決める。岡本氏のチームでは製品を軸に、「ハイパーコンバージドインフラ」などの付加価値を提供するバリュープロダクトと、HPE ProLiantサーバなどのボリュームプロダクトの2つをテーマに設定した。
次に、テーマに沿ったペルソナを決める。「それまでの業務で触れてきたお客さまの中から『こんなお客さまいるよね』とチーム全員が思い浮かべることのできる最大公約数のお客さま像を抽出した」(岡本氏)。抱えている課題はもちろん、名前や年齢、情報収集や勉強が好きといった趣味嗜好なども細かく決めていった。
「カスタマージャーニーのスタートとゴール、つまりお客さまが購入を検討し始めてから発注に至るまでにどのような行動をするかを具体的に書き出す」(岡本氏)。岡本氏のチームは、サイトに行く、見積もりを依頼するなど、限られた時間の中で思い付く限り書いていった。
Step3で洗い出した行動をグルーピングし、情報収集、比較検討、コンペといったステージに分ける。「お客さまの行動を整理し直すことが目的だ」(岡本氏)。
「お客さまがカスタマージャーニーの過程でどういう感情を抱くのかをディスカッションする」(岡本氏)。例えば「見積もりが遅い」「この新製品が欲しい」などだ。岡本氏のチームは、笑顔やげんなり顔などの表情を絵で表し、そこに吹き出しを付けて感じていることを書いた。「本当にお客さまの気持ちになってカスタマージャーニーを作っているかどうかは非常に重要だ。お客さまがネガティブになっているときにどう支えるかも考えなければならないからだ」(岡本氏)。
「お客さま接点はお客さまと直接対話するときだけではない。対話以外のメールやWebサイトなど、デジタルも含めた全ての接点をお客さまおよび自社の視点で整理する」(岡本氏)
このステップでは「お客さまの気持ちに沿った対策が大事」と岡本氏。感情がネガティブになっている瞬間を捉え、一つ一つ丁寧に対応策を考える。感情がポジティブな瞬間は、その感情をさらに強くするための方策を練る。
例えば自分の立場が営業なら「もしCMO(最高マーケティング責任者)ならどう考えるか」といったように視点を変えながら、新たな対応策がないかを考えてみる。
一連のワークショップを通し、岡本氏は「フェーズが変わったところでお客さまの感情が落ちる瞬間があり、そこを競合に持っていかれることがあると十分想像できた。一方で、購買意欲を高められるポイントについても確認できた」と振り返る。荒木氏も「『お客さま視点で考える』とはよく言われるが、本当にお客さまの感情にまで目を向けて施策を打っているかに気付かされた」と話した。日本ヒューレット・パッカードは今後、パートナーとも当ワークショップを実施する予定だ。
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提供:日本ヒューレット・パッカード株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia マーケティング編集部/掲載内容有効期限:2020年6月29日