第15回 Social CRM最前線――海外事例に学ぶカスタマー・エンゲージメント:【連載】海外事例に学ぶマーケティングイノベーション(5/5 ページ)
これまで2回に渡り、ソーシャルメディアのマーケティング活用をSocial CRMという観点から考察してきた。今回はそんなSocial CRMの実際の先進事例をいくつか紹介する。キーワードは「カスタマー・エンゲージメント」である。
パーセプションチェンジをソーシャル上でGerber
成熟期の産業のケースが続いたが、次に、これから市場にカテゴリーそのものを浸透させようとるすブランドの例を紹介しよう。
前回のコラムで、新規参入カテゴリーの場合には、イノベ―ターを手厚くもてなして口コミを最大限誘引することが望ましい、と提案した。まさに、このケースがこれにあたる。フィリピンのケースが続いて恐縮だが、ネスレの離乳食ブランドGerberのキャンペーンをご紹介しよう。
苦戦を強いられていたGerberは、キャンペーンに先立ち、消費者のインサイトを再調査した。調査によると、消費者は「瓶詰の離乳食は保存料をたくさん使用しているので、健康に良くない」と誤解しており、この誤解が、市場で離乳食の浸透を阻む大きな要因となっていた。そこで、同ブランドはまず、無農薬/無保存料を訴え、イノベ―ターにトライアルを促し、安全を確認してもらい、他の消費者にその安全性を広めてもらうこととした。
目的を達成するために、The Gerber FarmというコンテンツをFacebook上で展開した。内容は至って簡単だ。参加者が、ゲーム感覚で自分の離乳食を種から栽培し、最後は瓶に入れるところまでを疑似体験するというものだ。
和やかな雰囲気がコンテンツいっぱいに漂う。
光、水、音楽を提供し、健康な果実を育てる。もちろん、農薬は使わない。
朗らかなBGMと共に、農場では果実が収穫の時を迎える。衛生面に配慮しグローブを付けて収穫する。
最後に、防腐剤は使わず、真空パックを施す。
収穫後には、無農薬、無保存料であることを強調するメッセージが流れる。参加者は、体験農場を通してGerberの離乳食が、農薬&防腐剤フリーであることを学ぶ。
私も実際にこの体験ツアーをしてみたが、穏やか気持ちと共に、意識のどこかにあった、瓶詰め離乳食に対する、防腐剤、農薬に対する抵抗感は一掃された。
シンプルな取り組みであるが、結果は非常に高い成約率を弾き出している。
このツアーを体験した、実に60%の消費者がこのツアーをシェアし、サンプルを応募した。そして、サンプルを利用した実に70%の消費者が、継続的購買を決めている。
シェア&トライアル、そして継続的な購買へ。ソーシャルCRMの大きな可能性を示す事例である。
まとめ
今回は、需要を喚起させてネットワーク価値を最大化するような、攻めのCRMとして、Social CRMの事例をご紹介させていただいた。マーケティングコミュニケーション戦略の立案策定のご参考になれば幸いである。
寄稿者プロフィール
馬渕邦美 オグルヴィ・ワン・ジャパン 代表取締役。ネオ・アット・オグルヴィ 代表取締役。Sapient inc(US)をスタートに、インタラクティブマーケティング業界で12年に及ぶトップマネージメントを経験し、2009年にオムニコム・グループであるTribal DDB Tokyo ジェネラル・マネージャーに就任。日本における事業の立ち上げを成功させる。2012年オグルヴィ・ワン・ジャパン及びネオ・アット・オグルヴィの代表取締役に就任。 オグルヴィ・ジャパン・グループのデジタルビジネスを牽引している。
連載バックナンバーはこちら⇒【連載】海外事例に学ぶマーケティングイノベーション
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 第1回 金融機関がiPhoneアプリで住宅探しを支援――Commonwealth Bank Australia
金融業界はさまざまな法規制からデジタルとソーシャルの活用が遅れていると思われてきた。しかし、海外では積極的なデジタルイノベーションが起こり、日本でも、モバイルバンクの「じぶん銀行」が口座数140万件を獲得するなど徐々にその広がりを見せている。金融業界におけるデジタルとソーシャルのマーケティングイノベーションを考察する。 - 第2回 地域活性化で雇用創出を――アメックスの小規模店舗支援プログラム「スモールビジネス・サタデー」
アメリカン・エキスプレスが展開した小規模店舗支援プログラム「スモールビジネス・サタデー」の成功は、さまざまなデジタルマーケティング施策の展開と並行して、政治家や地方自治体への地道なロビー活動を地道に行ったことにある。キャンペーンに実態を持たせ、消費者に「自分ごと」と思ってもらうには? - 第3回 スマートフォンで小額決済、割り勘機能も――ソーシャルバンキングサービス「Kaching」
金融業界ではいま、次世代の決済インターフェイスとして、“スマホを介したコンタクトレス決済”への移行実験を始めている。今回は、オーストラリアのCommonwealth Bankが開発したソーシャルバンキングサービス「Kaching」を紹介する。 - 第4回 海外のソーシャルメディアプロモーション、9つのトレンド
9つのキャンペーンを例にとりながら、各ブランドがソーシャルメディアにどのような役割を担わせ、どのような仕掛けを埋め込み、一体何を成し遂げたのかをご紹介する。 - 第5回 消費者の行動変化を見極める――2013年のデジタルキャンペーン設計
情報技術の進化は消費者の行動変化を促している。企業が仕掛けるマーケティングキャンペーンも、その設計段階から時代の変化への対応を余儀なくされている。「モバイル」「Eコマース体験」「ソーシャルメディア」「リアルタイム性」「ビッグデータ」という5つのキーワードで、マーケティングに影響を与える時代の流れを読み解く。 - 第6回 データ・サイエンティストに学ぶビッグデータのマーケティング・イノベーション3つのポイント
今回はビッグデータのマーケティング・イノベーションについて掘り下げ、ビックデータからビジネスチャンスをつかみ取るためには、どんな点に気を付け、何をすべきなのか見解を示したい。 - 第7回 モバイルが利用される“モーメント”を選び、“モバイルムーブメント”を起こす
今回はソーシャルメディアの拡散性を活かしたコミュニケーションを考察する。また、モバイルというコミュニケーションジャンルをさらに進化させる新たなコミュニケーションデバイス「ウェアラブル」についても少し触れる。 - 第8回 ソーシャルメディアでムーブメントを起こす際の心得
ソーシャルメディアに秘められた拡散性を最大限に引き出し、セールスにつなげるには、ソーシャルで話題になりそうなメッセージを展開するのではなく、ブランドが取り組む社会の課題や問題をどう改善していくのか、そうした普遍の真理を軸としたキャンペーンメッセージを打ち出す必要がある。それが実現できた場合のみ、ブランドのメッセージはソーシャルで拡散され、セールスを後押しするコミュニケーションが展開されるのだ。 - 第9回 ソーシャルメディアで人間性豊かなコミュニケーションを展開するために
ソーシャルメディアを活用したマーケティングの成功を加速するには、どのような点に注意すべきなのだろうか。戦術的な視点で検討する。 - 第1回 拡張現実(AR)の背景と現状について――私はいかにしてARに魅せられたか
次世代の広告表現を可能にする拡張現実(Augmented Reality=AR)。その技術的な背景や最新の活用事例を解説する。 - 第2回 設計図のないビル工事 〜パッチワークでは結果は出ない〜
10階用の基礎の上に30階建てのビルを建設するのは「無理」である。10階建てのビルのために30階用の基礎を作るのは「無駄」である。ビルの工事ならありえないことだが、日本のマーケティングではよく起きている現実である。 - 第1回 統計データから紐解くマーケティングの「デジタルシフト」
コミュニケーションの場がデジタルにシフトしつつあるいま、マーケターにはいったい何が求められるのか。アドビ システムズ 井上慎也氏によるデジタルマーケティング論第1回は各種統計データを元にしたデジタルシフトの現状考察である。 - 第2回 コミュニケーション戦略マップ――BSC各視点の因果関係を整理
今回はコミュニケーション戦略マップの概要を紹介します。コミュニケーション戦略のビジョンや目的、達成目標を俯瞰的に捉え、さらには、それらを組織で共有し、共鳴して増幅できる環境を整えるための指針です。 - 第2回 「多機能/高品質なのに低収益」――間違いだらけの顧客中心主義から抜け出す
ターゲット顧客が必要としていなければ、あえてその要素は切り捨てること。そうしなければ、どの会社も同じような商品を作り、多機能/高品質、かつ低収益な商品を数多く生み出し続けることになる。 - 第1回 衰退する企業と躍進する企業、違いは「事業定義の仕方」にある
「製品志向」で事業を定義する企業は時代の流れに取り残される。米国の鉄道会社のように――。日本アイ・ビー・エム 永井孝尚氏によるマーケティング原論の第1回。 - 第1回 CMOが日本の組織に馴染まない理由
CMOとは何者か? マーケティングドリブン型組織が持ち得る力とは? マーケティングを軸に組織再編を考える松風里栄子氏の新連載。第1回はマーケティング部門が見直される背景および企業の構造再編を阻む要因を整理する。