デジタルマーケティングとコンタクトセンターの融合、UTグループとエス・エム・エスの担当者が語る:新しい顧客エンゲージメントを生み出すために(1/2 ページ)
コンタクトセンターはデジタルマーケティングのプロセスとどう連携すべきか。UTグループとエス・エム・エスの担当者を交えたパネルディスカッションの要点をお届けする。
企業活動も生活者の行動もデジタル化が進む昨今、顧客と企業のコミュニケーションチャネルは増え、顧客データの質や量も豊かになった。
データの有効活用や顧客体験の向上の実現が事業成長の課題となる中、コンタクトセンターとマーケティング部門の連携への関心が高まっている。両者をいかに組み合わせれば最適な顧客エンゲージメントを生み出すことができるのか。
本稿ではジェネシス・ジャパンが2019年7月11日に東京で開催したユーザーカンファレンス「G-Summit 2019」のパネルディスカッションから、デジタルマーケティングとコンタクトセンターの融合に挑む先進企業の取り組みを紹介する。
顧客(応募者)体験の改善と採用率の向上にLINEを活用
UTグループは、製造分野へのエンジニア・設計開発技術者の派遣を中心とした事業を展開している。自社で正社員として採用した人員を派遣するのが特徴で、コンスタントに毎月1000人を採用している。
人材派遣業にとって採用数はそのまま売り上げに直結する。そのため、採用効率の向上は事業成長の鍵になる。UTグループ執行役員 グループ採用部門 副部門長の大森勇輝氏は自身も採用業務に携わっており、現在は応募者の面接をアレンジする工程とコンタクトセンターの運営を担当している。採用難が続く中、コールセンターのつながりやすさをはじめとする顧客(求職者)体験の改善と採用率の向上が求められているのだ。
着任して数カ月、コンタクトセンターに対して「他部門との交流がなく、多くの情報を持ちながらそれを活用できていない。スタッフは高いスキルと意欲を持っているのだから、もっと成果につなげられるはずだ」と感じた大森氏は、デジタルマーケティングとコンタクトセンターの融合を決心した。
求人情報を探すためのWebサービスは多く存在し、エントリーもWebから行えるのが普通だ。しかし、面接の日程調整となるとどのサービスもいまだに電話かメールがメインである。「友人と食事に行くとき、日程調整や店の予約に今や電話は使わない。SNSやLINEが主流なのに、仕事探しだけがなぜ古いやり方なのか」と疑問を抱いていた大森氏が着手したのが、LINEをはじめとしたデジタルチャネルをカバーしたオムニチャネルのコールセンターの構築だった。
その結果、これまで全て電話だった面接予約の30%がLINEに切り替わった。さらに、予約のみならずLINEの動画機能を活用して遠隔での面接も行えるようにしたことで、LINE面接からそのまま採用につながるケースも出てきた。応募者が求めるものは何かを追求し、あるべきコミュニケーションを求めた結果は、分かりやすく表れている
カスタマーサクセス実現には全部門一貫した取り組みが急務
エス・エム・エスは「高齢社会に適した情報インフラを構築することで人々の生活の質を向上し、社会に貢献し続ける」というミッションを掲げ、介護・医療業界向けにさまざまな情報サービスを提供する企業だ。同社介護経営支援事業部 カスタマーサポートグループ グループ長の光山勝之氏は、介護事業者向け経営支援サービス「カイポケ」を提供する部門でカスタマーサポートの責任者を務めている。インサイドセールスとテクニカルサポートの両方を統括する立場だ。
エス・エム・エスでは以前からデジタルマーケティングに力を入れており、高い生産性の下で営業活動を展開していた。こうした組織環境を受けて、光山氏は現在カスタマーセンターとマーケティングの連携に取り組みを進めている。
コンタクトセンターとデジタルマーケティングの融合に先駆けて光山氏が手掛けたのが、顧客情報の統合だった。カイポケは毎月利用料を得るサブスクリプション型のビジネスモデルであるため、顧客に長く利用してもらう必要がある。そこで重要になるのが、カスタマーサクセスの視点だ。光山氏はまず、マーケティングとセールス、カスタマーサポートの全部門が顧客情報を共有し、顧客の状況を一気通貫で見られる体制を整えた。
カイポケを利用する介護事業者は、全国で2万4000を超える。介護業界は運営側の年齢層も高い。高齢の人は電話での応対を好む傾向にあるため、エス・エム・エスではコンタクトセンターの席数増加に努めている。とはいえそれも限界があり、全ての要望にリアルタイムに応えられないという課題があった。
ここで光山氏は、「そもそもカスタマーサポートは何のためにあるのか」という原点に立ち返った。そして「できるだけ迅速にお客さまの課題を解決することがカスタマーサポートの価値であり、お客さまの悩みを解決する手段は電話だけではない」と思い至り、チャットでのやりとりやFAQでの自己解決促進といったデジタルチャネルを充実させることを決めた。さらにWeb接客ツールも導入するなど、適切なサービス提供を随時充実させることでカスタマーサクセスにつなげていきたいと考えている。
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