第6回 CSV創造の土台となるBRAND WILLの明示を――【対談】多摩美術大学教授 佐藤達郎先生:【連載】共益価値創造とマーケティング(2/2 ページ)
最終回である今回はビルコムの小川丈人氏と多摩美術大学の佐藤達郎教授の対談をお送りします。テーマは「BRAND WILL」について。企業やブランドの姿勢が問われる時代を2人はどのように見ているのでしょうか。
Brand Willという考え方――AppleとLenovoのPCがあったとしたら、あなたはどちらを選択しますか?
小川 佐藤先生は、2009年に発表された論文で「BRAND WILL」という考え方を提唱されています。改めてどういった考え方なのかお伺いできますか?
佐藤 ブランドを考える際、USP(Unique Selling Proposition)を設定しますが、中長期的にはブランドの意思表明を続けることがUSPになると考えています。従来、USPというと機能的な差別化を思い浮かべる人が多いですが、昨今の技術発展スピードはあまりにも早くすぐに真似されてしまう。短期的に見れば、機能的な差別化は合理的ですが、中長期的な視点ではそうとはなりにくい。例えば、基礎化粧品のブランドであるDOVEはReal Beautyを掲げ、美に対する主張や姿勢を発信し続けています。BRAND WILLを持ち続け、パーソナリティがはっきりすることで、支持を集め、ファンが増えていくのです。NIKEやCoca-Cola、Appleなども同様でしょう。BRAND WILLを発信し続けることが、USPになっていくのです。
また、そうしたブランドが発信する意思や提案に、私たち生活者はブランドに投票しているとも考えることができます。飲み物であれば、150円分の投票、パソコンであれば15万円分の投票、といったように。以前、AppleはMac Book Air(MBA)を発売した際、MBAを封筒に入れるCMを流しました。その後、対抗したLenovoのThink PadはMBAのCMを真似したパロディを発表し、話題となりました。
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