第6回 CSV創造の土台となるBRAND WILLの明示を――【対談】多摩美術大学教授 佐藤達郎先生:【連載】共益価値創造とマーケティング(1/2 ページ)
最終回である今回はビルコムの小川丈人氏と多摩美術大学の佐藤達郎教授の対談をお送りします。テーマは「BRAND WILL」について。企業やブランドの姿勢が問われる時代を2人はどのように見ているのでしょうか。
こんにちは、小川です。7月も後半に差し掛かり、今年は猛暑の様子。暑い夏が大好きな自分としてはONにOFFに、一層気が入ります。そんなやる気に満ち溢れた私の連載も実は今回が最終回! これまで5回の連載の中では、Creating Shared Valueというテーマを軸に、さまざまな側面から考察してきました。最終回となる今回は、特別企画として、多摩美術大学教授で、「教えて!カンヌ国際広告祭」(アスキー新書、2010年11月)の著者でもある佐藤達郎先生との熱い対談を中心にお届けします。
コミュニケーション業界で注目のキーワード、「Storytelling」と「Ecosystem」
小川 2011年にマイケル・ポーター教授が発表したCreating Shared Valueという考え方はマーケティングにおいても注目を集めました。カンヌライオンズ(旧・カンヌ国際広告祭)2012にでも、キーワード的に紹介されることが多かったと思います。先生とは今年もカンヌライオンズ2013でご一緒させていただきました。カンヌライオンズを毎年ご覧になっている中で、近年のコミュニケーショントレンドをどうお考えですか?
佐藤 最近、特に耳にするのは「Storytelling(ストーリーテリング)」と「Eco-system(エコシステム)」ですね。ストーリーテリングについては「昔から言われているじゃないか」とお考えの方もいるかもしれませんが、昨今、ブランドの価値やメッセージを伝える手法として語られていて、Creating Shared Valueもそのうちの1つとも考えられます。
一方、エコシステムは、伝える部分に限ったものではなく、ブランドを取り巻く生態系であって、ブランドコミュニティとも近い考え方です。ただし、日本ではコミュニティというと、SNSのような人が集まる場だけを指すことが多いですが、ブランドが持つコミュニティ全てを指しています。海外ではコミュニケーション業界の新しい職種として、「コミュニティマネージャー」という役割が急増していますが、ソーシャルメディアなどを中心にブランドコミュニティ(生態系)をマネージメントする考え方が浸透しています。
また、マーケティングにおいて、Creative for Good(社会にとって良いことをする)を実現する企業が消費者に支持される傾向も顕著になっています。消費者は企業が作り込んだものを見抜く力を持っていますので、本当のことを誠実にするしかなくなっているとも言えるかもしれない。ソーシャルメディアが普及したことで、共感が広がりやすい。社会にちょっと良いことという側面を持つことで、その企業は良い企業だと認識されやすい傾向もあるでしょう。
小川 なるほど、私も最近の情報の伝播構造を鑑みるに、消費者はインターネットを使って接触した情報の真贋を見極める行動を自然にとっている傾向があると感じていました。そのために、本当のこと、誠実な姿勢を訴求する企業が支持されていますよね。それに関連して、今年のカンヌライオンズで印象に残っている事例はありましたか?
佐藤 昨年のカンヌライオンズにおけるAmexの事例(Small Business Saturday)のような大規模な仕組みを作った事例はなかったのですが、屋外広告部門でグランプリを獲得したIBMの「Smart Ideas For Smarter Cities」は、まさにCreative for Goodな事例で、シンプルですがウィットに富んでいました。屋外広告を少し変形させることで、ベンチや雨宿りの屋根といった人々の役に立つ面を持たせています。
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