第1回 レポート分析のプロトタイピングで意思決定フローを作る:【連載】清水誠のWeb解析ストラテジー(3/3 ページ)
ページビュー、ユーザー数、広告のビューやクリック数……。Webのアクセス解析で一般的なこれらの指標は果たして、あなたの会社の経営判断に寄与しているだろうか? 「清水誠のWeb解析ストラテジー」第1回では、メディアサイトを例に、適切な意思決定を支援する指標の定義方法およびレポーティング方法を解説する。
5.分析すべきレポートを整理する
次に、モデル化によって抽象度が高まった「指標グループ」という粒度で、誰が何の指標を見るべきかについて再整理してみましょう。
ここで重要なのは、一番左の「切り口」です。サイト全体を対象として指標の増減を調べても、大きなヒントは得られません。数字を見て判断する人が必要とする単位で指標を区切り、区分間の「違い」に注目する必要があります。例えば上の図では、編集長はテーマ別のニーズとパフォーマンスを見ることで、テーマごとの予算配分(=力の入れ方)を判断します。また、編集者別のパフォーマンスを見ることで、編集者への指示や評価の参考にできます。同じように、各編集者は自分が担当したライター別のパフォーマンスを知りたいものです。編集者とライターにとって、協業した個別の記事ごとの詳細なパフォーマンスは、今後の記事の編集、執筆の参考になります。
また、レイアウトやデザインなどを決めるデザイナーは、デザインテンプレートごとのスクロール率や読了率、広告枠のパフォーマンスが分かると、ページ分割の適切な単位や広告枠の位置、大きさなどを改善できるようになります。「数字が全て」というわけではなく、アンケートやインタビューなどの定性的な調査手法と併用することで、デザイン的な判断や社内での合意形成がスムーズになります。
このように、誰が何を知ると、どのような改善アクションや意思決定につながるのか、にまで踏み込むことで、「なるほど」で終わらない意味のあるWeb解析を実現できるようになります。
6.レポートを試作し分析してみる
誰が何のためにレポートを見て、何を分析し、どのような意思決定をするのかが明確になりました。これで、レポートの「見せ方」を決めるのも容易になったはずです。ツールでレポートを作る前にエクセルで理想のレポートを試作し、実際にそれを見て判断する人に擬似的に分析してもらうことで、レポートの有用性を検証してください。先にツール上でレポートを作ると、レポートがツールの制約を受けてしまい、本末転倒になります。
考察の例
- 「Dropboxの驚きの機能」という記事はタイトルで釣っているため、サイトTopやメルマガ、RSSフィードでのクリック率が高く、多くの人にリーチした。しかし、訪問後のアンマッチが発生し、読了率や滞在時間など満足度を示す指標が下がった。とはいえ、ページ内に掲載された各種リンクのクリック率はそこそこあるので、サイト内回遊が発生していると考えられる。増えたトラフィックは完全に無駄だったというわけではなさそうだ。サイト立ち上げ時は、このようなパンダ的なコンテンツも必要であり、狙い通りの結果になった。
- 「Web解析のススメ」という記事は地味なタイトルなので訪問回数は増えなかったが、滞在時間が長いのでじっくり読んでもらえたようだ。ただし、読了率が低いので、コンテンツの分量が多すぎたか、途中でつまらなくなった可能性がある(要調査)。ただし、ソーシャル上である程度シェアされているので、内容の魅力には問題がなさそうだ。はてブ率が高いのは、レファレンスとしてブックマークされたためと思われる。将来の再訪問やSEOにも貢献しそうだ。カテゴリTOPページから定常的にリンクし、効果の経年変化を確認しよう。
これなら、多角的で総合的な判断ができそうです。同じように、5で洗い出したレポートの理想イメージを作成します。その後で、解析ツールを駆使し、必要に応じてカスタマイズしつつ、理想のレポートを実現していくのです。
まとめ
今回は、「アクセス解析」の常識を忘れて、意思決定や経営判断につながる「Web解析」を実現するための考え方を具体的に紹介しました。ポイントをまとめると以下のようになります。
- 企業のゴールを組織別のゴールで分解すると、アクションにつながる指標を定義しやすくなる
- 顧客の視点で指標を構造化すると、指標への理解が高まり、網羅性を高められる
- 複数の指標を組み合わせると、複合的な判断ができるようになる
- 最終的なレポートをダミーデータで試作し、それが判断につながることを確かめてからWeb解析の実装を進める
寄稿者プロフィール
Adobe Systems 清水誠 Webアナリスト/PM。1995年から凸版印刷やRazorfishにて大手企業へのWebコンサルティングに従事した後、ウェブクルーで開発/運用のプロセス改善、日本アムウェイで印刷物のデジタル化とCMS導入、楽天でアクセス解析の全社展開、ギルト・グループではKPIの再定義とCRMをリード。2011年に渡米、米国ユタ州のAdobe Systemsにてデジタルマーケティング製品の品質改善に取り組むかたわら、執筆やセミナー活動も続けている。アクセス解析イニシアチブプログラム委員。eVar7共同創始者。サンクトガーレン社外CMO。ブログ:実践CMS*IA
連載バックナンバーはこちら⇒【連載】清水誠のWeb解析ストラテジー
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