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すぐできるパーソナライズ(その2):地域に応じたパーソナライズ「デジ損」から会社を守る 第4回

海外からのアクセスに日本語ページを表示させてしまい、せっかく興味を持ってくれた訪日予定者の離脱を招くのは、とてももったいないことです。

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「デジ損(デジタル機会損失)」とは何か

企業のWebサイトには日々、多くの訪問者が何かしらの目的をもって、何度も訪問しています。しかし、多くの場合、表示されるコンテンツはいつも同じなので、訪問者に関連性が低く琴線に触れないコンテンツを表示してしまうことになります。これでは訪問者の興味を喚起することができません。訪問者はサイトから離脱するでしょう。結果的に企業は、ビジネスへとコンバージョンするチャンスを逸してしまうことになります。このことをわれわれはデジタル機会損失=デジ損と呼んでいます。


 今回も、前回に引き続き以下のPIEモデルを使って、ある程度特定できたセグメントに対してパーソナライズを開始する際の具体的手法について見ていきます。

  • P(Potential:潜在価値):体験をパーソナライズすることで、どのくらいエンゲージメントを向上できるか。あるいは、主要なKPIにどの程度のインパクトをもたらすのか。
  • I(Importance:重要度):そのセグメントに何人の訪問者が含まれるか。セグメントの規模が大きいほど、より大きな成果が得られる傾向がある。
  • E(Ease:容易さ):ある訪問者がそのセグメントの該当者であることをどれだけ簡単に判断できるか。Webサイトにその訪問者が来訪した瞬間に誰かを特定することができるか。

 前回は、訪問回数に応じたパーソナライズでしたが、今回はユーザーがアクセスしてきた地域(GeoIP)に応じたパーソナライズによって、顧客体験を演出する方法を紹介します。

85%の消費者は商品情報が母国語以外だと購入しない

 2020年の東京オリンピックの開催が近づくにつれて日本への関心が非常に高まっており、観光などを目的とした来訪者も大幅に増加しています。こうした海外からの来訪者に対する日本の「おもてなし」は高く評価されていますが、日本企業のWebサイトはどうでしょうか。世界のどの地域からのアクセスに対しても一律で日本語サイトを表示し、ユーザー自身に表示する言語を切り替えさせているサイトも多いのではないでしょうか。

 実は、それが原因でサイトを離脱され、ビジネスチャンスをみすみす失っているケースが少なくないのです。

 グローバル企業における業績と翻訳の関係性について調査しているCommon Sense Advisoryは、商品の情報が母国語以外だと85%の消費者は購入しないと報告しています。

 世界には7000以上の言語がありますが、世界人口76億人の3分の2は中国語、ヒンディー語、英語など、主要な12カ国語を母国語としています。世界で学習されている言語は圧倒的に英語で、英語の次に勉強されているフランス語に中国語、スペイン語、ドイツ語、イタリア語、日本語を足し合わせたよりはるかに多いという状況があります。また、Webサイトで使用されている言語は英語が約54%を占めています(出典:W3Techs https://w3techs.com/technologies/overview/content_language/all)。

英語対応だけでは不十分

 インターネットで使用されている言語の上位10言語を見てみると、英語が25.2%でトップとなり、中国語、スペイン語、アラビア語、ポルトガル語と続き、日本語は8位にランクインしています。しかし、視点を変えてみると、74.8%は英語以外の言語で使用されているということになります(出典:Internet World Stats https://www.internetworldstats.com/stats7.htm)。

 英語が普及していると思われている欧州諸国ですが、EU23カ国のインターネットユーザーの統計では、「選択肢があるなら常に母国語のWebサイトを選ぶ」という人が90%を占めます。そして、20%は母国語以外のWebサイトを一度も見たことがなく、42%はWebサイトが母国語でなければ商品を購入しないという現状があるのです(出典:European Commission Survey http://ec.europa.eu/commfrontoffice/publicopinion/flash/fl_313_en.pdf)。

 世界全体の統計でも、以下の通りの結果になっています(出典:Common Sense Advisory https://hbr.org/2012/08/speak-to-global-customers-in-t

  • 72.1%の消費者は母国語のWebサイトのみ閲覧する
  • 72.4%の消費者は、商品・サービスの説明が母国語で説明されている場合に購入を考慮する
  • 56.2%の消費者は、商品・サービスの情報が母国語で確認できることは、価格よりも重要と考えている

 こうした調査結果を見ても、アクセスしてきたユーザーの地域に合わせたコンテンツを表示することがビジネスにおいていかに重要であるか、ご理解いただけると思います。一律で日本語サイトを表示することはもちろん、英語表示への対応だけでも不十分といえるでしょう。

地域に応じたパーソナライズで顧客体験を演出する

 そこでぜひ、検討いただきたいのが地域に応じたパーソナライズ、つまりユーザーのアクセス場所に応じて、最初から言語やコンテンツを切り替えて表示することです。それができれば、早々に離脱されることを防止することができます。

 例えば、上海からアクセスしているユーザーであることが分かれば、日本語サイトではなく最初から中国語で表示します。しかも、ユーザーがPIEモデルとして高い価値を持つのであれば、アクセスのあった時点で中国語で表示するとともに、中国向けに実施しているイベントやキャンペーンを最初に表示すればコンバージョンが高くなります。

 地域に応じたパーソナライズによって顧客体験を演出し、成功を収めている例として、前回に引き続き、サイトコアがサポートしているカナダのビジネススクールの事例をご紹介します。

 同スクールは、最も利益率の高いパートタイムMBAのコースについて、Webページの直帰率が非常に高く訪問に対する閲覧ページ数が非常に少ないといった課題を抱えていました。これを解決するため、訪問回数や地域、企業のIPアドレスを基に提供する情報を変えるコンテクストマーケティングを実施しました。

 前回は訪問回数に応じて、トップページのヒーローバナーをパーソナライズした例を紹介しましたが、同スクールではに地域に応じたコンテンツの出し分けも行っています。

 例えば、インドや中国などアクセスの多い国からの来訪者向けには、トップページの写真をその国をイメージするものに変えています。また、「インドから来られますか?」というボタンをクリックすると、過去に同スクールでMBAを取得したインド出身者を写真付きで紹介し、個別のインタビュー記事を掲載したり、インドからの学生がクラスルームで討議する様子を見せたりしています。コンテンツを出し分けることで、親近感を演出しているのです。

 こうした地域に応じたパーソナライズによって顧客体験を演出し、Webサイト訪問者のコンテクストを踏まえた情報提供をした結果、同スクールは各国からの就学生が確実に増加するという成果を達成しています。

GeoIPサービスで容易にコンテンツの出し分けが可能

 Webサイトに課題があることを認識していても現実として、ユーザーのペルソナに合わせてコンテンツを出し分けるといった作業にコストや人員を割けない企業も少なくないことでしょう。

 IPアドレスからアクセス地域を取得するサービスを活用すれば、容易に地域別のパーソナライゼーションを設定できます。例えば「Sitecore IP Geolocation Service」では、ユーザーが使用しているデバイスとユーザーに関するインサイトに基づき、パーソナライズしたい場所(国、都道府県、市区町村)を選択して、パーソナライズを有効にするだけで、関連性の高いコンテンツを表示することが可能になります。いわゆるメールアプリケーションの振り分け機能と同じようなルール設定をすれば良いわけです。

 GeoIPでは、地域情報にひも付いた緯度経度情報を利用して、ユーザーのいる大まかな位置も把握できます。これにより、訪問者が特定の場所からWebサイトを訪れた場合、ページイベントをトリガーにして、ユーザーの現在地に関連したコンテンツを配信することが可能です。コンテンツを出し分ける作業の手間とコストに悩みを抱えている企業の方々には、ぜひ検討をお薦めします。

 次回は、パーソナライズTIPS その3として、企業や団体IPアドレスに応じたパーソナライズについて解説します。

執筆者紹介

安部知雄
サイトコア マーケティング グループ アジア地域担当本部長。国内大手鉄鋼メーカーで世界各国への機械販売に従事。世界市場におけるマーケティング力やコミュニケーション力の重要性を再認識し、マーケティングコミュニケーションエージェンシーへと転職。外資系企業の日本参入を多数支援し、クリックテック・ジャパン立ち上げにも携わる。2016年5月より現職。


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