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第4回 科学的管理法、プロパガンダ、株主資本主義BE ソーシャル! 第1章「そして世界は透明になった」

エドワード・バーネイズは叔父である心理学者フロイトの理論を群集心理に応用し、科学的な宣伝手法を考案した――。2012年11月発売予定の斉藤徹氏の新著「BE ソーシャル!」から、「はじめに」および、第1章「そして世界は透明になった」を6回に分けてお送りする。

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 現代の企業経営における闇は深い。利益追求と規模拡大をひたすら求め続ける経営トップ。硬直化した組織で無力感を感じながら現場統制を試みる管理職。閉塞感と精神的負担に苛まれる現場社員。マニュアル化した接客に不満を募らせる顧客。間断なく目の前に現れる広告にうんざりする生活者。いったい我々はいつからボタンを掛け違えたのだろう。

 20世紀初頭、フレデリック・テイラーは生産現場に課題を抱える米国企業の経営に対して、客観的な管理手法と基準を導入することで効率化を図ることが肝要と考えた。彼の理論は、人間は本来怠けものであり、社員が全力で仕事に取り組むことはまれであるとの前提にたつ。その上で全ての仕事を科学的方法で分析し、1日にどれだけの仕事がこなせるか、またはこなすべきかについて疑問の余地がないようにしようと試みたのだ。そして計画を担当する監督者と、実行を担当する作業者を明確に区分し、双方の業務を規定した。当時から効率性を追求するあまり、労働者の人間性を軽視している事などの批判も多かった。しかしながら科学的管理法は劇的な生産革命をもたらし、1890年から1958年の間に、米国製造業の時間あたり生産性は5倍となった。それによって生活者の利便性は飛躍的に向上したが、労使の対立を深めるなどの弊害も深刻化しはじめる。やがて、科学的管理法は近代経営学の起源として位置づけられるようになった。

 1920年代、大量生産・大量消費により好景気が続く中、エドワード・バーネイズは「広報(Public Relations)」という言葉を生み出し、広報・宣伝の父と呼ばれた。彼は叔父である心理学者フロイトの理論を群集心理に応用し、科学的な宣伝手法を考案した。何を崇拜し、何を忌み嫌い、何を愛し、何を恐れ、何を憎むか。これらの本能的な行動動機と集団心理のメカニズムを理解していれば、一般大衆を意のままに統制管理することも不可能ではない。そう考えたバーネイズは、大企業の利益第一主義に応えるために大衆を操る「姿の見えない統治機構」になると宣言、「ベーコンは健康に良い」「ピアノはステータスの象徴」「タバコは女性解放の象徴」などと印象づけ、必要な物ではなく欲しい物を買わせ続けた。さらに戦争プロパガンダ(第一次大戦におけるドイツ兵への野蛮イメージづけ)や反共プロパガンダ(グアテマラのクーデターへの加担)など、政治面における世論操作をも担い、社会の動向に大きな影響を与えた。80年を超えた現在でも、広告代理店やマスメディアの手法の多くは、このバーネイズの理論が基礎となっている。

 1981年、ゼネラル・エレクトリック社の最高経営者にジャック・ウェルチが就任した。CEO就任当時も経営状態は順調だったが、日本製造業の台頭や世界経済の停滞により同社の株価は低迷を続けていた。そんな中、ウェルチは「利益の出ない分野はすべて切り捨てる。すべての事業は、その業界でナンバーワンあるいはナンバーツーの立場を確保しなければならない」と宣言する。そして事業の選択と集中を大胆に行い、20万人近い社員を整理し、60億ドル以上の経費を節約した。会社を守り社員を守らない姿勢は「建物を壊さずに人間のみを殺す中性子爆弾」に例えられ、メディアから「ニュートロン・ジャック」と揶揄された。人事施策も大胆で、業績上位20%は昇進、続く70%は育成、そして10%は解雇するという成果主義を徹底する。CEO就任後18年でGEの利益は6倍、株価は30倍を超え、「20世紀最高の経営者」と賞賛された。一方で、株主のための経営に徹し、世界にリストラ・ブームを引き起こしたことでも知られている。

 1994年、投資の神様と呼ばれたジョン・メリウェザーが創設者となりLTCMが生まれた。最盛期でも200名足らずの小規模企業だが、強力無比な武器があった。2人のノーベル賞学者が金融工学を駆使して開発した取引プログラムだ。同社はたちどころにずば抜けた運用成績をあげ、数兆円の資金を動かす勢力となるが、ロシアの債務不履行を機に13兆円の巨額負債を抱えて破綻。しかし同類のヘッジファンドは逞しく生き残り、世界中で猛威をふるいはじめる。企業の持ち主として君臨する彼らは、株を売り抜けて金を儲けることが唯一の目的で、投資先企業への忠誠心など皆無と言って良い。プロ経営者も自らの報酬を株価と連動させることで投資家の意のままに動き、短期利益のためのリストラや事業売却、事業買収を矢継ぎ早に行うようになった。株主の意向を重視した短期的利益志向、拡大至上主義の経営スタイルは、上場企業を中心に今でも色濃く残っている。

 工業化社会を前提とした効率性の追求、世論操作の手法を取り込んだ広告宣伝、社員を資源として扱う成果主義やリストラ施策、短期的な利益追求や業績拡大を最優先する経営。大企業はこれらの多層的な歪みを、広報と情報統制によって覆い隠してきた。しかしながら、拡大至上主義に走る大企業の寿命は意外なほど短い。1983年のロイヤル・ダッチ・シェル社調査によると、最大規模の企業における平均寿命は40年足らず、1970年に『フォーチュン500』に名を連ねた企業の3分の1が、わずか13年後には消滅していたという。栄枯盛衰、盛者必衰はこの世の常なのだ。そして、ソーシャルメディアが登場した。顧客も社員も株主も自由に対話できるプラットフォームが登場し、ゲームのルールは大きく変わりつつある。情報統制の効かない時代に、企業が抱える歪みはソーシャルメディアに自然と滲みだしていく。生活者から見放された企業はさらに短命化の一途をたどるだろう。透明な世界で、我々企業はもう一度原点に戻り、あるべき姿を見つめ直すべき時がきたのだ。

寄稿者プロフィール

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斉藤徹 株式会社ループス・コミュニケーションズ代表。1985年4月慶應義塾大学理工学部卒業後、日本IBM株式会社入社。1991年2月株式会社フレックスファームを創業、2004年4月全株式を売却。2005年7月株式会社ループス・コミュニケーションズを創業。現在、ループスはソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を幅広く展開している。「ソーシャルシフト」「新ソーシャルメディア完全読本」「ソーシャルメディア・ダイナミクス」「Twitterマーケティング」「Webコミュニティで一番大切なこと」「SNSビジネスガイド」など著書多数。講演も年間100回ほどこなしている。

Facebookアカウント 斉藤 徹(Facebook)

Twitterアカウント @toru_saito


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