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第2回 アイデンティティは1つだけBE ソーシャル! 第1章「そして世界は透明になった」

「今後、ほとんどの産業と多くの企業は、ソーシャルエンタープライズとなるべく見直され、再構築されるだろう」(マーク・ザッカーバーグ)――。2012年11月発売予定の斉藤徹氏の新著「BE ソーシャル!」から、「はじめに」および、第1章「そして世界は透明になった」を6回に分けてお送りする。

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「仕事上の友だちや同僚と、それ以外の知り合いとで異なるイメージを見せる時代はもうすぐ終わる。(中略)現代社会の透明性は、1人が2つのアイデンティティを持つことを許さない」――マーク・ザッカーバーグ(「フェイスブック、若き天才の野望」、日経BP社)


1-1. アイデンティティは1つだけ

 2012年9月14日、Facebookのアクティブユーザー数は10億人を超えた。世界のインターネットユーザー数は23億人、うちFacebookを規制している中国が5億人だ。つまり中国を除く18億人のうち、実に60%近いユーザーがFacebookでつながっており、ソーシャルメディアのデファクトスタンダード(事実上の標準)としての地位を確立した。2012年5月に発表されたITU(国際電気通信連合)統計においても、ソーシャルメディア人口に対するFacebook利用者の比率は90%となっており、競合サービスを寄せつけない圧倒的なシェアとなっている。日本においても同様、アクティブユーザー数1600万人超と国内最大のSNSとなり、米国に次いで世界第2位の広告売上となるまでに普及した。

 世界はすでにFacebookに覆われている。米国ハーバード大学、社会認知神経学研究所の発表によると、自分の感情や考えなどを他者に伝える「自己開示」行動は、脳内で快楽物質ドーパミンに関連する領域の反応を促すことが分かった。人間の日常会話における「自己開示」は30〜40%だが、ソーシャルメディアの投稿ではこれが80%近くになるという。人間が喜んで自己開示したがる理由、つまり人々がソーシャルメディアでオープンになるメカニズムは、食事や睡眠などと同様に、人間の根源的な欲望に起因するのだ。この理論を裏づけるように、Facebook利用者1人あたりの投稿量は毎年2倍のベースで増加し、世界の人々は驚くべきペースでシェアの文化を身につけた。そして、生活者のオープンな投稿が社会を透明にする源となり、世界は霧が晴れるように開かれていく。

 複数の顔を持つのではなく、誰に対しても一貫性を持って行動することは、健全な社会づくりに必ず貢献する。オープンで透明な世界では、人々は率先して社会的な規範を尊重し、より責任ある行動をとるようになるはずだ。Facebookの頑ななまでの実名制、そしてアイデンティティ(人格の同一性)にこだわる姿勢は、ザッカーバーグが持つ信念の象徴だ。実際にFacebook上の対話は、実世界のそれを上回るほどポジティブで礼儀正しい。Facebookの普及によって誘起されたプライバシーへの懸念は、ザッカーバーグを悩ませ続けてきた難問だ。それでも彼は、世界が透明になっていくという確信のもと、オープンな人間関係のプラットフォームとなるべく試行錯誤を続けている。

1-2. プライベートとパブリック

 プライバシーという権利を人類が意識したのは1890年のこと。米国法律学者ルイス・ブランダイスとサミュエル・ウォーレンが、論文『The Right to Privacy』において「The right to be let alone」(そっとしておいてもらう権利)と表現したのがはじめての定義とされている。その後、情報革命の進展によってプライバシーの社会的重要性は増していく。他者が管理している個人情報について訂正・削除を求められる「積極的プライバシー権」、さらにそれを保証するものとして「個人情報保護法」が施行され、今や人々の生活に欠かせない概念となっている。

 我々にはさまざまな秘密の段階がある。「自分だけの秘密」「親密な人だけに打ち明ける内緒話」「友人と共有する情報」「パブリックな会話」など。ソーシャルメディア時代においては誰もが影響力ある発信者となり得るため、これらを明確に意識する必要がある。「プライベート」と「パブリック」。「本当の自分」と「他者から見える自分」。裸で外を歩く現代人がいないように、心をすべてオープンにすることは誰にもできない。何を考えるかは究極の自由だからだ。一方で「考えていること」「言うこと」「行うこと」を一致させることは古くから道徳的な規範とされてきた。表裏のない人柄、誠実さ、一貫性、言行の一致。実名で自らの考えを発信し、行動することで、人々の間に責任感や誠実さが生まれ、相互信頼が育まれる。ザッカーバーグの発言の原点はここにある。

 さらに彼はこう続ける。「今後、ほとんどの産業と多くの企業は、ソーシャルエンタープライズとなるべく見直され、再構築されるだろう」。企業にも内面と外面の一致を求められる時代が来るということだ。企業が機密情報や独占的情報を持つことは当然であり、それがコア・コンピタンス(他者に模倣できない中核的な能力)を形成するケースも多い。個人情報など、開示すべきでない情報もある。今、企業に求められているのは「生活者が開示すべきと考えている情報」をオープンにすること。そして公言したことを誠実に実行することだ。

 飾らない人間が好かれるように、オープンな企業は共感されやすい。生活者からの信頼、ファンからのポジティブな応援、製品やサービスへの実践的なフィードバックやアドバイス。ソーシャルメディアというつながりを深めるプラットフォームが生まれたことで、透明性が企業にもたらすメリットは確実に増えてきた。秘密にすることとオープンにつながること。どちらがより大きな価値を創造するのか。企業にとって大いに戦略性を問われる判断になった。一方で、経営者の意図に反して、企業の内面がソーシャルメディアに滲み出していくケースも目立ってきた。

寄稿者プロフィール

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斉藤徹 株式会社ループス・コミュニケーションズ代表。1985年4月慶應義塾大学理工学部卒業後、日本IBM株式会社入社。1991年2月株式会社フレックスファームを創業、2004年4月全株式を売却。2005年7月株式会社ループス・コミュニケーションズを創業。現在、ループスはソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を幅広く展開している。「ソーシャルシフト」「新ソーシャルメディア完全読本」「ソーシャルメディア・ダイナミクス」「Twitterマーケティング」「Webコミュニティで一番大切なこと」「SNSビジネスガイド」など著書多数。講演も年間100回ほどこなしている。

Facebookアカウント 斉藤 徹(Facebook)

Twitterアカウント @toru_saito


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