すぐできるパーソナライズ(その4):行動履歴に応じたパーソナライズ:「デジ損」から会社を守る 最終回
過去の、そしてリアルタイムの行動履歴に応じてコンテンツを出し分けることは、獲得できるはずだった顧客の取り逃がし、すなわちデジ損(デジタル機会損失)削減に大きな効果を発揮します。
「デジ損(デジタル機会損失)」とは何か
企業のWebサイトには日々、多くの訪問者が何かしらの目的をもって、何度も訪問しています。しかし、多くの場合、表示されるコンテンツはいつも同じなので、訪問者に関連性が低く琴線に触れないコンテンツを表示してしまうことになります。これでは訪問者の興味を喚起することができません。訪問者はサイトから離脱するでしょう。結果的に企業は、ビジネスへとコンバージョンするチャンスを逸してしまうことになります。このことをわれわれはデジタル機会損失=デジ損と呼んでいます。
「すぐできるパーソナライズ」と銘打ち、ここまで訪問回数やGeoIP、企業や組織のIPアドレスに応じたパーソナライズTIPSを紹介してきました。最終回の今回は、今この瞬間にWebサイトに来訪している人のニーズをリアルタイムおよび過去におけるWeb上の行動履歴データ、検索キーワード、来訪者のプロファイルなどから判断し、個々のペルソナに合ったコンテンツを提供することでエンゲージメントを高める手法を紹介します。
アクセス解析している間にも「デジ損」は生じている
Webサイトのアクセス解析を行う企業は増えています。また、来訪者を増やすための施策、Webマーケティングに予算を投じる企業も増えています。アクセス解析とは、以下の実態を把握するためのものです。
- ユーザー属性(性別、年齢、興味関心、地域など)
- ユーザーの流入経路(検索、広告、外部リンクなど)
- ユーザーの滞在時間
- 最もよく見られているページ
- ユーザーがサイトを離脱したページ
- コンバージョン(商品購入や資料請求や見積依頼や試乗予約など)しているか否か
アクセス解析は「デジ損」の影響を測定するためにも、必要不可欠です。しかし、そのような数値を見ながら一喜一憂して対策を練っている間にも、Webサイトには多くの人が訪れているのが実情です。
リアル店舗に置き換えて考えてみてください。店内をいろいろと回っているお客さまが帰った後に「実は常連さんだったんだ」「手に取っていらっしゃったジャケット、実は今、半額セール中なんだけど、お伝えしなかったね」「あのワンピースと合わせると最適なハイヒールが奥にあるのに、全然見ていなかったね」「ま、次に来店されたらご紹介しようか」などと店員同士で悠長に会話していたところで、全く売り上げにはつながりません。来訪したお客さまが帰ってしまう前に適切に対応し、適切なコンテンツを掲出できていれば離脱を防げたかもしれないのに、アクセス解析を待つまで何もしていなければ、やはりそこにデジ損が生じているのです。
分析を待っている間に何もしないのは、バックミラーで後方に流れていく景色を見ながら前に向かって車を運転しているようなものです。「インバウンドトラフィック」「ユーザープロファイル」「リアルタイムの行動履歴」など、目の前に見えている状況を判断してリアルタイムに適切な打ち手を選択しなくてはいけません。
各種Webマーケティングに多くの予算を投じ、自社Webサイトへの流入を増やしている企業は多いと思われます。これらの施策を通じて来訪した方々にトップページをパーソナライズしないでどうするのでしょう。
リアルタイムでパーソナライズすべき場面
誰に対しても年がら年中代わり映えしないトップページを表示している企業は非常に多いものです。ある来訪者が特定のキーワードを検索して流入しているのであれば、そのキーワードに関連するコンテンツにすぐアクセスできるように、トップページ上のバナーなどを、その人が来訪したタイミングでパーソナライズして掲出すべきなのです。Webサイトのパーソナライズは自社が仕掛けたマーケティング施策に反応してくれた人にこそ、最も効果を発揮します。
来訪者の過去の行動履歴や閲覧コンテンツを踏まえてコンテンツをパーソナライズすることも重要です。銀行であれば特定の金融商品、例えば投資信託に関するページにアクセス履歴のある来訪者には、次にその人が来訪したとき、トップページに投資信託のヒーローバナーを表示します。
また、自社のCRMやERPなどのシステムとも連携しておくことで、自社の既存顧客が来訪した場合に、匿名の見込み客とは異なるコンテンツを掲出できます。
既に自社の特定商品を店舗で購入している人に対して同じ商品の割引キャンペーンをトップページのヒーローバナーでちらつかせるのは、良い顧客体験とはいえません。その顧客との関係性を深め、次の購買機会へとつなげられるコンテンツを掲出すべきでしょう。
自動車メーカーであれば、ある特定車種を購入された顧客がWebサイトに来訪したら、新車購入のコンテンツではなく6カ月のメンテナンスサービスパックのご案内や、その特定車種に最適なアクセサリーをご案内するイメージです。
リアルタイムの行動履歴、つまりこの瞬間におけるWebサイト上の来訪者の動きを見ながらコンテンツをパーソナライズすることもできます。
シンガポールのある大手不動産プロバイダーはアジア各国に投資物件を保有していますが、来訪者が特定の国、例えば中国の物件に関するコンテンツを幾つかクリックしてページ遷移すると、その来訪者がトップページに戻った際にはページ中央に配置されたバナーを「オススメの投資物件」に差し替え、そこに中国で自社が所有する物件の写真と紹介文を表示します。また、閲覧コンテンツによってその来訪者が投資に興味を持っていることが見えていれば、トップページのCTA(行動喚起)ボタンを通常の「メルマガ登録」から「今すぐ投資の相談を」に切り替えます。同社はこのようなWebサイト上のパーソナライズ施策によって戦略的にコンバージョンにつなげ、ビジネス創出機会を大きく増加させているのです。
当社が提供する「Sitecore Experience Platform」では、膨大なコンテンツを管理する機能だけでなく、Webサイト訪問者の行動パターンや興味関心のあるコンテンツなどのデータを自動収集し、全ての来訪者個々のプロファイルを蓄積・把握・理解していく機能を備えています。そして、過去の行動だけではなく今現在の行動や興味関心に適した顧客体験を演出していく製品です。来訪者がWebサイトの特定ページや場所に到達したその瞬間に、最も関連性の高いコンテンツを提供することができます。
今では、訪問者の多くがSNSを利用していることでしょう。Webサイトに入力フォームやアカウント認証が含まれている場合、Sitecoreの「Social Connect」を活用すると、訪問者がFacebookやTwitterなどのソーシャル認証を使ってサインインした際に、その情報を取得できます。これにより訪問者の登録作業を容易にするだけでなく、訪問者に関する詳細なインサイトを獲得でき、関連性の高い顧客体験を提供できるようになります。
また、Sitecore Experience Platformでは、Microsoft「Dynamics 365」やSalesforceなどのCRMツールと連携するためのモジュールも用意しています。SitecoreとCRMとの連携によって、CRMのデータを活用したWeb上の顧客体験を演出しつつ、逆にWeb上の行動履歴データをCRMに返すことで、営業部門やコールセンターや店舗などにおける顧客対応にも個々のプロファイルを反映させることができます。
1ドルの投資が3ドル以上のリターンになる
以前にも紹介しましたが、サイトコアがアバナードと共同で実施したカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)に関する調査(外部リンク)によると、カスタマーエクスペリエンスへの1ドルの投資が3ドル以上のリターンをもたらすという結果が出ています。
また、顧客体験を演出する施策を実施した企業の40%が12カ月以内に18〜20%も売り上げを増加させ、施策実施企業の6割が約12カ月で顧客満足度が向上しています。
この調査結果からいえることは、顧客の期待値をしっかり把握して、それに見合う、あるいはそれ以上の顧客体験を提供できれば必ずリターンが得られるということです。
デジタル時代においては、顧客体験が悪ければお客さまは簡単に離脱していきます。裏を返せば、良い体験一つでLTV(顧客生涯価値)を最大化できるのです。デジ損を回避するためにも、いち早くパーソナライズの実現に向けた取り組みをスタートされることをお勧めします。
執筆者紹介
安部知雄
サイトコア マーケティング グループ アジア地域担当本部長。国内大手鉄鋼メーカーで世界各国への機械販売に従事。世界市場におけるマーケティング力やコミュニケーション力の重要性を再認識し、マーケティングコミュニケーションエージェンシーへと転職。外資系企業の日本参入を多数支援し、クリックテック・ジャパン立ち上げにも携わる。2016年5月より現職。
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