B2Bの超ニッチ市場におけるコンテンツSEO戦略、業務用急速冷凍機比較サイトで問い合わせ月150件の裏側:デイブレイクが実践(1/2 ページ)
国内業務用冷凍庫の比較サイト「春夏秋凍」は、国内外を意識したコンテンツSEOで毎月国内約100社、海外50社の問い合わせを獲得している。成功の要因はどこにあるのか。
自社サイトのコンテンツSEOを始めるとなったとき、現場の担当者は何から着手すればいいのか。
教科書通りに進めるなら、まずターゲットを選定してターゲットが抱える課題を抽出する。ターゲットが検索しそうなキーワードを洗い出し、検索ボリュームの多いキーワードを選出し、そのキーワードで上位表示できるコンテンツを作成していくのが一般的だ。
潜在ユーザーにリーチできる上、コンテンツによるユーザーニーズの醸成も期待できる施策だが、B2B領域で起こりがちな問題が1つある。「検索ボリュームの多いキーワードがない」ことだ。
多くのB2Bビジネスは市場がニッチで、顧客の母数が限定されている。ユーザーの母数が少ないと、当然検索ボリュームも比例して少なくなる。月間検索ボリューム数百単位のキーワードに対し、それなりの時間をかけてコンテンツを作成すべきなのか、上位表示できたとしてもたかがしれているのではないかと悩んだ経験のある担当者は少なくないのではないだろうか。
ここで1つ、超ニッチなB2B領域で目覚ましい成果を挙げている企業事例を紹介しよう。
フードロス削減という課題意識から始まったビジネス
業務用特殊急速冷凍機の比較サイト「春夏秋凍」(外部リンク)を運営するデイブレイクは、ニッチな市場だからこその強みを生かしてコンテンツSEOを展開。海外にも照準を向け、毎月安定して150件を超える問い合わせを獲得している。なぜこれほどの成果を得られているのか。謎を解く前にまず、春夏秋凍が生まれた背景を理解しておこう。
デイブレイク代表取締役の木下昌之氏は、70年以上続く冷凍会社の3代目として、大手コンビニチェーンや官公庁の冷凍・空調設備の工事を手掛けてきた。10年前にアジアへ旅行に行った際、フルーツが山積みになっているのに気付いた。冷凍技術が発達していない地域では、食料を保存できず、売れ残ったものは廃棄するしかない状況が続いていた。木下氏は、冷凍に関する知見をフードロスの解決に生かせるのではないかと判断し、冷凍技術を世界に広めるため、デイブレイクを創業した。
冷凍機メーカーとユーザーをマッチング
木下氏が着目したのは「特殊急速冷凍技術」だ。これにより食品の細胞を破壊せず、高品質を維持したまま保存できる。飲食店の食品廃棄削減につながる他、生では流通が難しい食品を国内外に届けるためにも使える。食品流通の制約を取り払える効果はそれだけにとどまらない。食料が過剰な地域から不足している地域への供給がスムーズに行えるため、フードロスと同時に食糧難の問題も解決できるわけだ。
「日本で特殊急速冷凍技術を持つ主要メーカーは5社。それぞれが異なる特性を有するのですが、導入を検討する店舗や食品メーカーは、どの冷凍機が最適なのか判断するだけの知見がありません。一方、冷凍機メーカーでマーケティングに長けているところはほとんどなく、集客に苦戦されていました」(木下氏)
そこで、両者が抱える課題を解決するために開設したのが、春夏秋凍だ。ここへ問い合わせてきたユーザーのニーズをヒアリングし、木下氏が長年冷凍業界で培ってきた知見を基に最適な冷凍機を提案することで、両者の最適なマッチングを実現するのだ。デイブレイクはメーカー中立で、顧客視点からのコンサルティングを実施する。各社資料の一括ダウンロードも可能で製品比較が可能なテストルームも持つなど、特殊急速冷凍技術の専門商社として圧倒的な存在感を発揮している。
検索ボリュームが小さくても狙うべきキーワードとは?
春夏秋凍は一部リスティング広告も出稿しているが、自然検索流入が圧倒的に多い。ユーザーにリーチする手段として、コンテンツSEOが最適だと判断し、そこに投資したからだ。デイブレイクのコンテンツマーケティング施策を担うEXIDEA代表取締役社長の小川卓真氏は、コンテンツSEOが生きる領域には2つの特徴があると語る。
「コンテンツSEOがうまくいくには、まず大前提としてモノがいいこと、そして比較が求められることの2点が条件になります。特殊急速冷凍技術はとても素晴らしい技術だと私自身も感じています。冷凍機の価格は数百万〜数億円に上ることもあり、ユーザーからすると決して安い買い物ではありません。比較して決めたいというニーズが確実にある。加えて、冷凍業界はWebに強い企業がほとんどなく、ある意味ブルーオーシャン。コンテンツSEOを実施すれば、すぐに効果が出るだろうと踏んでいました」(小川氏)
実際、コンテンツSEOに取り組んですぐに「急速冷凍機」で上位表示できた。ただ、ニッチ市場ゆえに検索ボリュームは少ない。上位表示できてもそれほど成果につながらないという懸念はなかったのか。
「確かに、メインキーワードでも月間検索ボリュームは400程度で、一般的なコンテンツSEO施策では除外されてしまうような規模感です。ただ、キーワードから推測できるユーザーニーズが高いと判断できれば、どんなに検索ボリュームが小さくても狙うべきです」
対策キーワードにどのようなニーズが含まれるのかを推測するのがコンテンツSEOの肝となる。例えば、「フルーツ」というキーワードを検索するユーザーは、どのようなニーズを持つのかを考えてみよう。フルーツの定義が知りたい、どのような種類があるのか知りたい、購入したい、お店で食べたいなど、さまざまなニーズが含まれる。フルーツのECサイトを運営する企業の場合であれば当然「フルーツ」で上位表示できるに越したことはないが、雑多なニーズが含まれる上、上位表示できるコンテンツを作成するにはそれなりのリソースを割かれる。それなら、「フルーツ ギフト」などよりニーズが明確な関連キーワードを狙う方が効率的だ。
一方、「急速冷凍機」で検索するユーザーは、ほぼ確実に急速冷凍機の導入を検討しているという前提があり、そこには「急速冷凍機とはそもそも何か」「どのような種類があるのか」「予算感はどのぐらいなのか」などの情報ニーズが内在している。ニッチなキーワードであり、検索するユーザーも絞られるからこそ、キーワードに含まれる検索意図もばらつきが出にくい。
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