データドリブンなマーケティングが求められるのはWebやSNSなどのオンラインチャネルだけにとどまらない。近年では位置情報などに基づく人間のリアルな行動や音声・感情などを定量的に計測したデータを分析し、その結果を施策に反映させる試みも始まっている。
これらのオフラインデータの取得を可能にする鍵となるのがIoT(モノのインターネット)だ。IoTはこれまでどちらかというと、製造業のサプライチェーンでの活用が先行していた感があるが、マーケティング領域においては今、どのようなことが起こっているのだろうか。そしてマーケターはこれからどのような視点を持つべきなのか。
本稿では、2019年5月10日に「Web&デジタルマーケティングEXPO」内で行われたウフル 執行役員 X United 事業本部長の坂本尚也氏による講演から、マーケティングにおけるIoTの活用について、押さえておくべきポイントをまとめた。
身近になったIoT
2006年に創業したウフルは、クラウドのインテグレーションサービスから事業領域を広げ、近年はIoTに注力している。同社のデジタルマーケティング事業を立ち上げ、現在はIoTを活用した企業のデジタルトランスフォーメーション支援に従事する坂本氏は冒頭、データとIoTを取り巻く概況について解説した。
「データは新しい石油」という言葉に象徴されるように、データ活用は企業の成長を左右する重要な要素となっている。一口にデータといっても、その内容は多種多様だ。商取引から生まれるトランザクションデータもあれば、写真や動画データもある。サーバやアプリケーションのアクセスログも、ソーシャルメディアに流れるストリームデータもデータのうち。そして、今回のテーマであるIoTに関していえば、デバイスから逐次取得するセンサーデータを活用するということになる。
調査会社のIDC Japanは、全世界におけるIoTデータと非IoTデータの総量が2016年の16兆GBから2025年には163兆GBにまで増加すると予測している。また、ZK Research調査によれば、IoTを支えるセンサーの数は2020年に500億個を超え、将来的には1兆個になる見込みだ。
センサーは既に日常生活の中でも多く使われている。例えばスマートフォンにはGPSや加速度センサー、揺れを検知するジャイロセンサーなどが組み込まれている。その他にも音や光、地磁気、湿温度センサーなどがIoTではよく使われる。
センサーデータの応用範囲は広い。音声のトーンや高低から人間の心理状態を可視化して接客の状況や顧客満足度を測定したり、顔認証技術を空港でのチェックインに使ったりすることができる。位置情報データによる生活圏/商圏のエリア分析や周遊分析、行動パターン分析なども、よく知られるところだ。より先端的な事例としては、リーバイスとGoogleが共同開発した、タッチ操作可能なIoT衣料「Levi’s Commuter Trucker Jacket with Jacquard」やProteus Digital Healthが開発しているスマートピル(薬の中にセンサーを埋め込んで、喉を通ったかどうかで服用を検出)などもある。
IoTが変える顧客体験
IoTによるデータの活用が顧客体験価値向上につながることへの期待もある。坂本氏はスポーツ観戦を例に説明した。
まずは音データの活用。これにより、スタジアムの熱狂度が測定できる。観戦に来た人が試合中にどれだけ盛り上がれたかを振り返ることでリピート来場につながる指標になるだろう。さらに、スタジアムのエリアごと、あるいは試合のタイミングごとに盛り上がり度を計測することで、広告などのスポンサーアクティビティーを最適化することにも役立つ。熱狂度の高い場面をクリッピングしてハイライト動画を自動生成するなど、クリエイティブ面での応用も考えられる、
マグマネットセンサーや人感センサーを使えば、スタジアム内のトイレや売店の混雑状況を可視化できる。スポーツ観戦では試合の重要な瞬間を見逃さないことが満足度を左右するので、トイレや売店をストレスなく使える仕掛けは大きな意味を持つ。また、長時間にわたりトイレの扉が閉まっているといった場合に警備員が確認に向かうといった活用も考えられる。直接的にはマーケティングと無関係に見えるが、安全性向上や警備員の業務効率化は、長い目で見れば必ず顧客体験の向上に資するだろう。
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