三菱東京UFJ銀行のデジタルマーケティング、ライフイベントを提案機会につなげるためのデータ活用とは?:顧客視点のアプローチ実現のために(1/2 ページ)
ライフイベントに即応した施策の実現へ、メガバンクのデジタルマーケティングを支えるシステムはいかにして進化を遂げたのか。
銀行が個人に対して金融商品を提案する機会はあまり多くない。だからこそ、就職・退職、住宅や車の購入など、顧客1人1人の大きなライフイベントを確実に把握することができれば、少ない提案機会を収益に転換することにつながる。
本稿では、SAS Institute Japanが5月23日に開催した「SAS Forum Japan 2017」の事例セッションの内容から、三菱東京UFJ銀行がライフイベントに着目したワンツーワンマーケティングを実現するためのシステムをどのように整備してきたかを紹介する。
3つのステップで進化したシステム
三菱東京UFJ銀行 システム開発運用部 戦略情報グループ次長の大村博昭氏は、「銀行リテール業務におけるマーケティング/セールスサポートシステムの実装事例」と題したセッションに登壇し、同行のマーケティングシステムは「セグメントベースのマーケティング」「イベントベースドマーケティング」「一人別マーケティングの高度化」の3つのステップで進化してきたと述べた。
セグメントベースのマーケティングの時代
三菱東京UFJ銀行では2004年から顧客データを分析し、金融商品の提案に活用してきた。キャンペーンの対象となる顧客セグメントを抽出するには、顧客の性別、年齢、勤務先、口座残高、保有金融商品などさまざまな属性データが役立つ。
当時のコミュニケーションチャネルはまだDMが中心だったが、本部が登録するキャンペーン管理のシステムと店舗業務をサポートするシステムは、相互に連携している必要がある。そうでないと「この口座番号のお客さまが来店したら、この商品を案内する」というルールを徹底することが難しく、失礼な対応をしてしまうことになりかねない。
店舗セールスサポートシステムを構築したのは2004年のことだ。これができたことで、従来の預金や為替、融資など、業務ごとのシステムを店舗が個別に参照する仕組みから、業務横断的に参照することが可能なものに変わったという。この結果、顧客が来店した際に応対する銀行員が過去の取引履歴を一目で把握し、適切な対応ができるようになった。
「イベントベースドマーケティング」へのシフト
金融商品へのニーズは、壮年期から老年期、新婚期から育児期といったライフステージの変化、あるいは就職や退職、車や自宅の購入といったライフイベントの発生で変化するという特徴がある。
2000年代からデータを活用したマーケティングに取り組んできた三菱東京UFJ銀行であったが、それまで同行が取り組んできたセグメントベースのマーケティングは、いわば静的な属性に応じてアプローチするものであり、顧客の状況変化を察知して都度最適な提案をするには限界があった。大村氏は「ある金融商品をその時点では全く必要としていないお客さまにも提案してしまうことがあった」と振り返る。
この問題を解決すると期待されたのが、「イベントベースドマーケティング(Event Based Marketing、以下、EBM)」の考え方だ。EBMでは顧客属性の変動を検知し、ニーズ(イベント)の発生をタイムリーに把握してフォローすることで、成約率の向上を図ることができる。EBMへの本格的な移行は2010年から始まった。
EBMを進める上で何よりも重要なのはデータの鮮度だ。セグメントベースの時代は月次提供でよかったが、もっと頻繁な情報共有が必要になった。さらに、インターネットバンキングが普及したことで、顧客との接点も店舗やDMだけでなく、メールやWebサイト、モバイルアプリと拡大していた。このような新しいデジタルチャネルでの顧客の行動も含め、日々発生するさまざまなイベントをタイムリーに検知し、適切でタイミングの良い金融商品提案やフォローができる仕組みを整備するために同行が導入したのがSAS Instituteの統合マーケティングプラットフォーム「SAS Marketing Automation」であった。
三菱東京UFJ銀行ではさまざまなキャンペーンを展開しているが、同じ顧客に対して1度に過剰な情報提供をしないようにキャンペーンごとに優先順位を付けている。また、コミュニケーション間隔の頻度も調整している。そして、広告も1人1人に表示される内容が最適化できるようになったという。
同行では、一定の条件を満たした顧客を優遇する「メインバンクプラス」というサービスを展開している。例えば、時間外手数料を払ってATMを利用した顧客に対し、その顧客がインターネットバンキングにログインした際、時間外手数料を無料にするための方法を案内する広告を表示するといった具合だ。さらに、顧客に関するさまざまなデータは店舗セールスサポートシステムとも共有しているため、当日来店する顧客の情報を事前に店舗内で共有することもできる。
EBMに取り組む過程で明らかになった課題を大村氏は3つ挙げた。「第1に、お客さまのニーズが何かという顧客視点が欠けていたこと、第2にチャネル間の連携が不十分であったこと、第3に次の施策を設定する際に顧客の段階的な反応が反映されていなかったこと。EBMは『この金融商品はどんなお客さまにふさわしいか』『このチャネルはどんな金融商品を売るのに適しているか』という、どちらかというと売り手視点のアプローチだった」(大村氏)
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