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マーケティングと営業の溝を埋めるため「本物のABM」の話をしよう――庭山一郎(シンフォニーマーケティング)リード研所長が聞く(1/3 ページ)

新刊『究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベースドマーケティング)』を上梓した庭山一郎氏。B2B企業のマーケターに伝えたいABMの本質とは?

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 アイティメディア リード研究所所長の小柴 豊がB2Bマーケティング領域の今をエキスパートと語るこの連載。2017年の第1弾となる今回は、シンフォニーマーケティング代表取締役の庭山一郎氏をゲストに迎えてお届けします。日本の数多くのリーディングカンパニーをマーケティングの力で支えてきた庭山氏が待望の新刊『究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベースドマーケティング)』(日経BP社)を今このタイミングで上梓した理由とは何でしょうか。

ABMが単なるバズワードとして消費されないために

小柴 日本のB2Bマーケターのバイブルとして知られる「ノヤン先生のマーケティング講座(※)」の最初の記事はいつ投稿されたのか、ふと気になって見てみたら2006年10月でした。もう10年以上になるんですね。

※編注:外部リンク


庭山一郎
にわやま・いちろう 1962年生まれ、中央大学卒。シンフォニーマーケティング代表取締役。1997年よりB2Bに特化した日本初のマーケティングアウトソーシング事業を開始。製造業、IT、建設業、サービス業、流通業など各産業の大手企業を中心に国内および海外向けのマーケティングサービスを提供している。著書に『究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベースドマーケティング)』(日経BP社)、『BtoBのためのマーケティングオートメーション 正しい選び方・使い方』『サラサラ読めるのにジワッとしみる「マーケティング」のきほん』『ノヤン先生のマーケティング学』(いずれも翔泳社)、『はじめてのマーケティング100問100答』(明日香出版社)

庭山 もうそんなになりますか。

小柴 同講座を含むWebサイト「Marketing Campus」は、庭山さんが代表を務めるシンフォニーマーケティングが運営しているわけですが、メールアドレスの登録など必要なく無料で誰でも読めますよね。コンテンツマーケテイングなどという言葉すらなかった時代から、多くのマーケターにとって貴重な情報源となるコラムを自社のビジネスに直結しない形で公開してきたのは、どういう狙いがあってのことなのでしょうか。

庭山 当社は「日本のB2Bマーケティングを世界のトップレベルに押し上げる原動力となる」というミッションを掲げています。その背景には、日本のマーケティングが世界に比べて大きく遅れているという現実がありました。米国のマーケティングマネジャーは大学でマーケティングを専攻し、社会に出てマーケティングの実務を経験した後に大学院に戻ってMBAを取得し、現場に戻ってくるといった形でキャリアを積んでいる。一方で日本はといえば、かつてはマーケティングの専門部署が存在する会社さえ少なかったのです。また、そこで働く人たちは当然マーケティングの理論を学んできたわけでもない。だから常に「マーケティングについて学びたいけどどんな本を読んでいいのか」「コトラーの本を買ってみたけど書いてあることが分からない」「3ページ読んだら眠くなる百科事典のような本しかない」といった相談を受けてきました(笑)。

小柴 そこで、日本企業でマーケティングに従事する人が学ぶための、ハードルの低い読みものを提供されてきたのですね。

庭山 当社は1990年に創業して、1993年から米国を本拠地とするDMA(ダイレクトマーケティング協会)のメンバーになっていますので、世界のマーケティングの潮流を見てきた自負はある。そこで、最先端の概念についてもこのWebサイトで伝えてきました。マーケティングオートメーションについて日本で初めて紹介したのも当社です。

小柴 そして今、最も熱いテーマがABMであるということになるのでしょうか。

庭山 米国では2012年頃からもうABM一色です。だから、これはちゃんと紹介しないといけないと思いました。なぜ 「ちゃんと」かというと、こういった新しい用語が入ってくるときは、都合のいい解釈をして本質を曲げる人たちがいるからです。ABMは米国でも曲がりに曲がった解釈が出始めています。この流れは遅かれ早かれ日本でも始まると思うので、その前に正しいABMを紹介したくて、新刊を書き上げました。

小柴 曲がった解釈とは、具体的にどのようなことですか。

庭山 例えば、「IPアドレスで企業名を判別してリターゲティング広告を出せばABMだ」とか、「ターゲット企業に所属する人間の個人情報を持ってきて、電話をかけまくるのがABMだ」とか。それらはABMのごく一部にすぎず、本質ではありません。

小柴 ABMについて、一過性のバズワードにすぎないのではないかという見方をする人もいるようですが、米国でもそうなのでしょうか。

庭山 アンチの人はすごく多いですね。"Nothing Big, Nothing New" つまり、何も新しくないし、すごいアイデアでもないし、今までのマーケティングと何が違うのかというわけです。かく言う僕も3年くらい前は「また新しい言葉が出てきたのか。もう勘弁してよ」と、かなり斜に構えて見ていましたが(笑)

小柴 庭山さんの考えが変わったのは何がきっかけでしょう。

庭山 2013年にサンフランシスコで行われたカンファレンスで、あるベンダーのセミナーを聞いていたときのことです。プレゼンで出してくる数字がどれもこれもあり得ないものばかりで衝撃を受けました。MQL(Marketing Qualified Lead)からSAL(Sales Accepted Lead)への推移、つまりマーケティング部門が渡した案件を営業が受け入れてくれる確率は、米国では約50%といわれているのですが、そのセミナーで紹介されていた数字は93%に達していました。さらにその中でパイプラインに登録されたのが65%で、受注に至ったのが41%。驚異的なコンバージョン率です。リードを100件渡したら24〜25件クローズすることになるって、信じられないでしょう。

小柴 確かに、そうですね。

庭山 絶対にウソだと思って、プレゼン終了後に名刺交換の列に並んで、スピーカーに疑問をぶつけてみたのです。「私も日本でマーケティングをやっていて、同じカテゴリーのクライアントがいるけど、経験上あんな数字が出るなんてあり得ない」と。すると返ってきた答えが、「これはABMだから、営業が追いたいターゲットアカウント以外はスコアリングしないのです」というものでした。そのときは「何だそれ、ずるいじゃん」って思いましたけど(笑)、確かにデマンドジェネレーションでは、マーケターが集めたリードを営業が追いかけてくれないという悩みが常に付きまとうわけです。であれば、最初から営業が行きたいところを名指しで攻めるのは理にかなっている。ABMのオピニオンリーダーの1人であり、Marketoの共同創業者で元CMOのジョン・ミラー氏が最近よく言っているのが、“Account Based Everything”。マーケティング活動全体を通して、ターゲットアカウントを基準にした戦略にするということです。

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