“リアル”ならではの特性を生かすことが効果の最大化につながる〜紙のダイレクトメール〜:デジタル時代の紙DM
紙DMにはデジタルメディアにはない良さが数多くある。優位点を生かした紙DMの有効活用は、デジタル時代のコミュニケーションに大きなインパクトを与えるだろう。
インターネットの普及により紙DMは駆逐される?
インターネットの普及により、One to Oneプロモーションの多くがインターネット上で展開されるようになった今、紙DMは「古めかしい」メディアとして位置付けられ、その存在意義には疑問符が投げ掛けられている。
例えば、電通が毎年発表している「日本の広告費」によれば、2011年に「DM」に投じられた広告費は前年比96.0%の3910億円。ここ数年は漸減傾向が続いており、ついに4000億円を下回ってしまった。昨今のスマートフォンの普及状況などを考えると、今後、企業と生活者のOne to Oneコミュニケーションの舞台は、これまで以上にインターネット上へと移行していくと推定されることから、紙DMの活用が大きく増加することは考えにくい。
確かにプロモーションツールとしての紙DMには、eDMと比較して弱点が多い。最大の弱点は、絶対的なコストの高さである。紙DMでは制作費に加えて印刷費がかかる上、メッセージの送達コストに目を向けても、eDMの1通当たりの配信費用が限りなくゼロに近いのに対し、紙DMでは広告郵便の割引制度などを活用しても1通当たり数十円は免れない。
また、印刷、配送という工程をたどる紙DMでは、eDMと比較して長い準備期間が必要となり、制作途上でのフレキシブルな変更も行いにくい。さらに、往復ハガキなどを除けば、単体での双方向性にも欠け、インタラクティブなコミュニケーションを実現するためにはほかのメディアとの連携が必須となる。
それでは紙DMは絶滅してしまうのか。その答えは“否”である。紙DMにはeDMにはないさまざまな優位点があり、それらはデジタル時代だからこそ、いっそうの特異性を発揮できる。従って、紙DMはOne to Oneプロモーションにおいて主役の座を取り戻すことはできないまでも、脇を固める“渋い”ベテランの地位を確立することが十分に可能なはずだ。
業種/業態を超えて活用され、効果を上げる紙DM
首都圏で食品スーパーを展開するいなげやでは、買い上げ金額上位の優良顧客を対象とする紙DM施策を展開している。レジ精算時に収集されるPOSデータに、顧客から提示されるポイントカードのID情報をひも付けて記録するシステムをベースに、紙DMによるきめ細かなコミュニケーションを推進し、季節商品の販売促進や競合他社の出店対策などで多くの成果を獲得している。今後も引き続き、データ分析や顧客へのアンケート調査を実施しながら、新しい切り口のテストDMを積極的に投入していく意向だ。
移動体通信事業を展開するソフトバンクモバイルでは、加入直後の契約者とのコミュニケーションを目的に圧着ハガキスタイルの「WELCOMEレター」を送付している。契約形態/機種などに応じて合計18パターンの「WELCOMEレター」を用意し、使い分けることで、きめ細かいコミュニケーションを実現している。「WELCOMEレター」の効果を高める施策としては、「大切なお知らせ」や各種問い合わせ先など、重要な情報が含まれていることを強調するために、宛名面の下部に「親展」「転送不要」といった文言を記載。また、プロモーション情報などについては、テレビCMで人気の「お父さん犬」のキャラクターを随所に配するなど、ビジュアル面に工夫を凝らすことで、興味の喚起を図っている。
静岡県浜松市で養蜂業を営み、ハチミツを原料とする加工食品や健康食品の製造/直販(店販、通販)を手掛ける長坂養蜂場では、2011年からDM展開の本格的な見直しに着手した。従来の施策や会員動向について、現状把握のデータ分析を行った上で、取り組むべき課題やタスクを洗い出し、プライオリティをつけて改善に取り組んでいる。その結果、DMのレスポンス率、レスポンス件数、レスポンスした会員の客単価は着実に向上した。DM経由の売上高も前年比2ケタの増加を達成している。今後も施策のPDCAサイクルを継続的に回し、さらに改善を重ねていく方針だ。
クロスメディア化の中でこそ“リアル”の価値が際立つ
デジタル時代において、紙DMを効果的に活用するためには、どのような取り組みが求められるのか。まず、「DMとはOne to Oneコミュニケーションのツールである」という原点に立ち返り、これを踏まえたコミュニケーションを徹底することである。かつて、まるでマス媒体のように、ターゲットにかかわらず同一のメッセージをばらまいた紙DMが生活者から見向きもされなくなっていったように、現在では細かなセグメントをせずに大量に配信されるeDMが、開封されることなく削除されている。
先日、東京国際フォーラムで開催されたデジタルマーケティングのイベント「アドテック東京2012」で、米国Facebook本社のMark D’Arcy氏が、そのプレゼンテーションにおいて、Facebookを効果的に活用するためのポイントとして、(1)Be Authentic(真摯に)、(2)Be Useful(受け手の役に立つ)、(3)Be Entertaining(楽しく)、(4)Be Relevant(適切に)、(5)Be Timely(適時に)、(6)Listen(なぜ人々が行動したのかを考え、きちんとアクションを取る)という6点を挙げていたが、これらは紙か電子メールかにかかわらず、DMの効果的な活用にそのまま当てはまる。
その上で、紙DMの効果を最大化するためには、そもそもそれが持つ強みを正しく理解することだろう。大槻陽一計画室代表の大槻陽一氏が「DMならではの最も大きな優位性は、音、匂い、手触りなどを伝えられる『身体性』でしょう」と指摘するように、紙DMは“リアル”なメディアとして、デジタルメディアにはない高い表現力を有している。またコストの問題を度外視すれば、制約が少なく、クリエイティブの工夫により、独自性を発揮しやすいことも紙DMの大きなメリットだ。さらに保存性という部分でも、基本的にはeDMと比較して一日の長がある。
また、大槻氏は、「多くの分野では、(紙DMの)活用法を十分に研究し、本来の魅力を引き出す努力がなされていない」と述べ、今後、期待される分野としてファンドレイジングなどを挙げている。紙DMは決して“絶滅危惧種”のプロモーションメディアではない。活用分野、活用手法によっては十分に力を発揮し得る潜在能力を持ったメディアなのである。
一方、クロスメディア化が進行する中、キャンペーン企画における紙DMの位置付けを明確化すると同時に、デジタルを含む他メディア/チャネルとの効果的な連携を図ることが大切だ。それが“リアル”の良さを一層、際立たせることにもつながるだろう。
※この記事は月刊アイ・エム・プレス2012年11月号の総論「“リアル”ならではの特性を生かすことが効果の最大化につながる」の原稿を一部修正して転載しています。
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