実用的なメリットとエンターテインメント性の両立が息の長い取り組みを実現する〜スマートフォンマーケティングのいまとこれから〜:スマホマーケティングはいまだ黎明期
BtoC分野のビジネスを展開する企業においては、将来的にスマホへの対応がコミュニケーション戦略の成否を大きく左右する可能性が高い。
従来のケータイマーケティングより高次元な施策を可能とするスマホマーケティング
スマートフォン(スマホ)の普及が急速に進んでいる。米国comScoreが2012年8月21日に発表した「日本国内モバイル市場に関する調査結果」によれば、モバイル通信機器ユーザー全体のうち、従来タイプのケータイの利用者は76.5%で、スマホの利用者は23.5%だった。スマホの利用者数は急増しており、2011年末時点に比べ43%の増加となった。最近、主要通信キャリアが発売するモバイル通信機器の大半がスマホであることを考えると、近い将来この比率は逆転し、スマホが主流の時代が到来することは想像に難くない。
ケータイの普及に伴って、ケータイのマーケティング活用が一般化していったように、今後、スマホを活用したマーケティングに取り組む企業が増加していくことは間違いないだろう。なにしろスマホは従来タイプのケータイと同様に「1人1台、24時間、30センチ以内」という特性をもった史上類を見ないパーソナル情報ツールであるとともに、PCをベースとした設計によって従来型のケータイにはなかったさまざまな機能を備えている。さらに、“アプリ”をダウンロードすることにより、より多くの機能を装備したツールとしてカスタマイズすることも可能であり、これらを駆使すれば、これまでのケータイマーケティングよりも高度なマーケティング施策を展開し、より大きな効果を期待することもできるだろう。
しかし、スマホ自体が普及期にある中、スマホマーケティングについても単発的な成功事例が散見される程度で、普遍的な成功法則は確立されていないのが現状だ。そこでスマホマーケティングに積極的に取り組む先進的な企業のケーススタディを中心に、現時点におけるスマホマーケティングの実態を検証するとともに、その将来的な可能性を探った。
メーカー、小売業、サービス業などさまざまな業界で進むトライアル
世界最大級の通販企業グループの日本法人であるオットージャパンでは2012年6月、カタログにスマホをかざすだけで商品情報が閲覧できる業界初のサービスをスタートした。同サービスでは、Webチャネルの利用が多い会員に送付している通称“Webカタログ”の表紙や裏表紙、冒頭ページなど注目度の高い数ページに“電子透かし”と呼ばれる特殊印刷を実施。iPhone、Androidのいずれかの規格に対応した専用アプリを起動させ、ページにかざすと、内蔵のカメラから取り込まれた画像データからデジタルコードが識別され、誘導先サイトのURLに自動変換されるという仕組みでWebサイトへの誘導強化を図っている。利用データを分析したところ、1回だけではなく、繰り返し利用する会員の割合が高く、今後の利用定着や拡大が期待されている状況だ。
化粧品メーカー大手のコーセーでは、メイクアップブランド「ESPRIQUE」の発売に合わせて、スマホで撮影した自分の顔に同ブランドのさまざまなアイテムを使ってメイクを試せるシミュレーションアプリ「Girls Make」の提供を開始。実使用時と極めて近いレベルの色味や質感、艶感を表現するなど、エンターテインメント色の強いアプリでありながら、高い品質を実現することで人気を集め、すでに約12万人のユーザーを獲得。今後は20万ユーザーを目指すとともに、同アプリを活用したリアルイベントなども企画することで、販売促進への貢献度をさらに高めていきたい考えだ。
レストランカラオケ事業を展開するシダックスでは2010年12月、「レストランカラオケ・シダックス」アプリの提供を開始。その主要機能である時限クーポンを活用して、全国300店舗以上にも及ぶ「レストランカラオケ・シダックス」の責任者の裁量による機動的な販促施策の展開を実現している。発行終了時間のカウントダウンとともに限定発行されるクーポンは、その発行枚数の多くがダウンロードされており、また、ダウンロードされたクーポンの大部分が実利用につながるなど、その販促効果は高い。今後は通信キャリアとの協力体制強化などでさらなるユーザー拡大を図っていく方針である。
セレクトショップ大手のユナイテッドアローズでは2012年8月、独自運用しているポイントプログラムの会員証機能を持つスマホ向けアプリの提供をスタート。アプリは独自に開発したもので、会員証機能のほかにも、ECサイトの新着情報を閲覧できる「ニュース」、セグメントごとにお得な情報を届ける「スペシャル」などのメニューを備えている。今後についてはアプリの機能のバージョンアップやコンテンツの拡充も予定。その活用範囲の拡大を図っていきたい考えである。
今、求められているのは、確実な投資対効果よりも失敗を恐れない果敢なチャレンジ
冒頭で述べた通り、今後、モバイル機器においてスマホが主流となっていくことは、まず間違いない。従って、ケータイマーケティングは好むと好まざるとにかかわらず、スマホを意識したものにならざるを得ない。その中で、いかにスマホの優れた機能を生かしたマーケティング施策を企画できるかが、成否を分ける大きなカギとなるであろう。ただし、スマホは発展途上にあるツールであり、OSの仕様変更なども少なくないことから、常に最新の技術動向をキャッチアップしつつ、状況に応じたフレキシブルな対応を行うことが求められる。
さらに、総務省が2012年8月、スマホ関連事業者に対し、取得した個人情報を利用者自身に周知徹底させるための指針を示すなど、公的なルールが整備されつつあるので、そうした面からも恒常的な情報収集は必須であると言えよう。また、特にアプリを活用した企画においては、日々増加し、もはや無数に存在するとも言える多様なアプリの中で、いかにして独自性を打ち出し、ダウンロードしてもらうかが大きなポイントとなる。そのためには、実用的なメリットと同時に、エンターテインメント性や話題性を提供することが有効だ。定期的なアップデートなども行っていく必要があるだろう。
D2Cの四栗崇氏が「これをやれば“ 鉄板”だという方法論がまだ見つからず、あたかも第1フェーズのモバイルマーケティング草創期に逆戻りしてしまったかのような状況です」と指摘するように、スマホマーケティングはまだまだ黎明期にあることは否めない。その中でフロンティアとして新たな試みを行う上では、当然のことながら試行錯誤が続き、一定のリスクが伴うことは避けられない。しかし、成功の“果実”はチャレンジした企業のみに与えられる。たとえ大きな成功にはつながらなくても、トライアルによってノウハウを蓄積するとともに、生活者に「新しいことにチャレンジする」というポジティブな姿勢を印象付けることはできるはずだ。現段階では、確実な投資対効果よりも、むしろ失敗を恐れない果敢なチャレンジが求められていると言えるだろう。
※この記事は月刊アイ・エム・プレス2012年11月号の総論「実用的なメリットとエンターテインメント性の両立が息の長い取り組みを実現する」の原稿を一部修正して転載しています。
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