横山隆治氏インタビュー、「DSP/RTBオーディエンスターゲティング入門」を書いた経緯とは(2):ネット広告の巨人に聞く
インターネット創成期に、日本のインターネット広告の仕組みを作り上げた功労者の1人、デジタルインテリジェンス 代表の横山隆治氏の最新著書が「DSP/RTBオーディエンスターゲティング入門」である。横山氏のインタビュー連載第2回。DSPの出現によって、今後の代理店のビジネスはどう変わる?
Q: DSPの出現によって、今後の代理店のビジネスはどのように変化していくと思いますか?
まず広告営業マンの役割が変わるでしょう。今までの枠で考える広告ですと、営業マンが週に2、3回顧客先に出向いて紙のレポートを基に次の広告枠を決めるというPDCAを回してきたわけです。ここで言う最適化というのは、「この広告メニューをやめてこちらにしましょう」という単純なものです。DSPを導入するというのは、DSPの運用そのものがPDCAなので、常に広告のオペレーションをする人が社内にいた方がいいです。営業マンが広告主の担当者と並んで同じ画面を見ながら、「こういう入札をしてみたら、この程度の結果でしたが、入札価格を上げるとけっこう効果が出たので、このように変更してみましたよ」という風に入札オペレーションそのものの流れの中での新しい発見を情報共有しながら広告を買うという流れになると思います。
もう1つ言えるのは、DSPを社内運用した方がいいというのは、実は現在のようにブランド別やメディア別に複数の広告代理店に発注するプロセスだと、広告主のデメリットが大きいことです。リスティング広告やDSPといった「入札モノ」に共通する問題なのですが。例えばリスティング広告だと、花王さんのような広告主が異なるブランド事業部ごとに「美肌」といったキーワードに入札をかけてしまうと、自社内でキーワードの価格を上げてしまう結果になります。DSPも全く同じで、例えばトヨタさんが、車種ごとに自分のサイトに来たユーザーにリターゲティング広告を出したとします。それぞれのブランド事業部がDSPを買ってしまうと、クッキーの値段を上げてしまうわけですよね。すごくナンセンスです。大手広告主がDSPを活用するのであれば、車種オーダーやブランドオーダーという形で入札を管理すべきなのです。そうすると、社内に入札オペレーターを置くことが自然で、うまく回るはずなのですが、実際の問題として現段階ではこのようなオペレーションができる人材がいないという理由で、代理店にアウトソースしてしまっているのが現実です。
DSPはまだ新しい分野なので、広告代理店の営業にもメディアプランナーと呼ばれているメディアのバイイングセクション(購買担当)の人間にも、まだまだ知見がありません。DSPは実際にオペレーションをしてみないと、知見やノウハウが蓄積しないのです。また、広告主もトレーダーと直接コミュニケーションを取らないとPDCAが回せなくなります。ということは、いまの代理店の営業マンはディスプレイ広告を売れなくなるだけではなく、バイイング担当者を含め代理店内の機能がむしろ邪魔なだけになってしまうので、組織そのものが変わらざるを得ないのではないでしょうか。まさに今までのセルサイドの理屈で出てきた広告メディアを売る体制を、DSPによって完全にバイサイドの理屈で買い付ける、入札モデルにあわせた組織体制への変更が必要なのです。
Q: 昨年からRTBなど広告テクノロジーが日本市場にも出揃ってきました。日本の広告主が、これらテクノロジーの恩恵を受けるためには、広告業界としてはあとは何が必要だと思いますか?
そういう意味では、難しいところがまだ沢山ありますが、まず1つ挙げるとすると、きちんと効果測定と分析ができるかどうかですね。稚拙な評価と言ったら失礼なのですが、今はDSP含めリスティング広告やその他いろいろな広告メニューを並べて、CPCやCPAベースで評価していますが、それらは最終流入の評価にしかしていなかったりします。広告評価としては、全ての広告に第三者配信を使って、広告に接触したユーザーを個別のクッキーで統合管理した上で総合的なアトリビューションの評価をしないと、本当の意味で広告テクノロジーを使ったことにならないと思うのですね。
また、複数のテクノロジーを使う際の運用にも工夫が必要です。DSPは何社もあるのですが、それぞれ思想が違っていて、入札方法のテクニックも異なります。DSPをいくつか並列させ、入札そのものはそれぞれのDSPの管理画面上で行うけれど、配信時のクッキーやレポートを統一化させるといった具合です。テクノロジーをきちんと使いこなせば、自然検索なども含めて全ての流入に対し、コンバージョンの筋道が見えてきて(効果を)正しく評価をすることまでできる世界です。後は、結果を(戦略的に)取り込んで使いこなせるかどうかが問題ですね。
※この記事はExchangeWire Japanの「Interview:『DSP/RTBオーディエンスターゲティング入門』著者インタビュー」の原稿を一部修正して転載しています。
© 2015 ExchangeWire Ltd
関連記事
- 横山隆治氏インタビュー、「DSP/RTBオーディエンスターゲティング入門」を書いた経緯とは(1)
インターネット創成期に、日本のインターネット広告の仕組みを作り上げた功労者の1人、デジタルインテリジェンス 代表の横山隆治氏の最新著書が「DSP/RTBオーディエンスターゲティング入門」である。その横山氏のインタビュー連載第1回。本書執筆に至った背景を聞いた。 - ブランド構築×デジタルマーケティング:デジタルマーケティングを成功させるための組織作りとは
マーケティングのデジタル化はマーケターにとって、もはや無視できるものではない。デジタルマーケティングをスムーズに取りこむための組織作りについて、現場のマーケティング担当者たちが語った。 - 【連載】海外事例に学ぶマーケティングイノベーション:第1回 金融機関がiPhoneアプリで住宅探しを支援――Commonwealth Bank Australia
金融業界はさまざまな法規制からデジタルとソーシャルの活用が遅れていると思われてきた。しかし、海外では積極的なデジタルイノベーションが起こり、日本でも、モバイルバンクの「じぶん銀行」が口座数140万件を獲得するなど徐々にその広がりを見せている。金融業界におけるデジタルとソーシャルのマーケティングイノベーションを考察する。 - “SoLoMo”が本格化、マーケティングの主流へ
ソーシャル、ローカル、モバイル――。この“SoLoMo”といわれるトレンドが無視できない存在になってきた。米Gartnerは、今後2年でユーザーが急増し、「主流の技術」になると予想する。 - マーケターのためのブックガイド:デジタルマーケティングに対応するためのブックガイド刊行、翔泳社
翔泳社はデジタルマーケティングに対応するためのブックガイド、『デジタルマーケターが読むべき100冊+α』を刊行した。 - 【連載】ビッグデータアナリティクス時代のデジタルマーケティング:第3回 マーケターのためのBI入門――その背景から活用分野まで
前回(「第2回 世の中のあらゆる事象を数値化し、ビジネスに反映させる」)は、ビッグデータ関連ビジネスの中でも、すでに市場が形成されているインフラ部分について解説した。今回はビッグデータの中で語られている「BI」(ビジネスインテリジェンス)ついて、その背景から活用分野までを解説する。 - 【連載】オウンドメディアコミュニケーション 成功の法則21:第4回 オウンドメディアはカタログでなくて、コミュニケーションメディア
オウンドメディアは文字通り「メディア」です。それはユーザーとコミュニケーションをするためのHUBであり、けっしてカタログではないのです。オウンドメディアを通じて主張するのでなく、コミュニケーションを目指しましょう。