デジタルマーケティングを成功させるための組織作りとは:ブランド構築×デジタルマーケティング
マーケティングのデジタル化はマーケターにとって、もはや無視できるものではない。デジタルマーケティングをスムーズに取りこむための組織作りについて、現場のマーケティング担当者たちが語った。
「デジタルマーケティングに対応するためにどのような組織作りをするのが最適か」――。2012年9月20日「Ogilvy Digital Summit 2012 autumn」で行われたパネルディスカッション「日本ブランドが取り組むべき課題とチャンス」で登壇者たちが議論を交わした。
Web広告研究会の代表がデジタルマーケティングと組織について考えていること
日本ブランドがデジタルマーケティングに対応するためにどのような組織づくりをする必要があるのか。Web広告研究会代表幹事の本間充氏(以下本間氏)はまず「デジタルマーケティング」という言葉について自身の考えを述べた。
「Web広告に慣れ親しんだ人たちはデジタルマーケティングをRTBやCPCなど、3文字レターの『最新のアドテク』として語りがちだ。しかしそれでは、今までマーケティングやコミュニケーションを設計してきた人たちには伝わらない。顧客とのコミュニケーションや顧客理解のためにデータを扱うという意味でデジタルマーケティングという言葉を使わなければ」と語った。
とはいえ企業のデジタルマーケティング化は進んでおり、本間氏がマーケティング先進国のアメリカで勉強会に出席したところ、出席者の半分は「デジタルマーケティング部門の責任者」であったという。デジタル分野のマーケティングへの権限移譲が進んでいる現状を表わす一例だろう。「アメリカの企業組織改革のスピードには見習うべき点がある。日本でもデジタルでしかできないマーケティング施策が多くあることを理解し、トップダウンでも、またボトムアップで現場対応をするという意味でも、デジタルマーケティングにきちんとリソースを割き、チームを作る必要があると考えている」(本間氏)。
トヨタのデジタルマーケティング対応チームの構築はどのように行われたか
トヨタマーケティングジャパン/プロデュース局WEBマーケティング室長の平野義孝氏は自身の構築したマーケティングチームについて話した。平野氏は2012年4月に新組織であるWEBマーケティング室を設立した。メンバーは15人。現在の組織は平野氏が考えるデジタルマーケティングチームに必要なスキルを持ったスタッフをアサインした結果、集まった人数だ(キャンペーン構築、分析、情報発信などのスキル)。いま、平野氏がデジタルマーケティング部で仕事を進める上で気をつけているのはキャンペーン担当のチームとデジタルマーケティングのチームが必ず一緒に仕事をする状態を作ることだという。キャンペーンチームに相談された時にITやデジタルならではの驚きや知見を与えられるようなチームでなければ、新しく作るマーケティング部門にスタッフを配置する意味がない。そのような価値を与えるための要素とは何か。
「Webに触れて実際に広告コンテンツを作ってきた人間と、デジタルネィティブの若い20代を一緒のチームにすることがいまデジタルマーケティング専門の組織を作る上で重要だ。また、車というオフラインでの購買が主な商材ではオフラインで顧客と接点を作るという仕掛け作りをしてきた人がデジタルに進むと非常によい。まずはそんなチームを作ってみてはいかがだろうか」(平野氏)。
デジタルマーケティングで結果を出すためにシステム部と連携
デジタルマーケティングを考える上で、外せないのはITとの連携だ。本間氏によると、そもそもアメリカの企業のIT部門と日本の企業のIT部門では職務領域が異なるという歴史がある。「日本のITチームは製造業中心、工場の最適化のためのシステムが非常に多い。アメリカのITシステムの場合は、ファイナンスが稼いだお金を管理するために成り立っている。アメリカのCTOやCIOは自分たちのシステムが経営のヘルスチェックに使えることを経営陣に証明し、ようやく現在の地位を獲得した」(本間氏)。
日本のシステム部門もアメリカと同じことができないか。そのために超えるべき壁は何だろうか。登壇者の話を聞いていると、人間関係の部分がポイントの一部であることに気づく。「マーケティング部門が活動を通して獲得したデータを情報システム部に渡して分析しようとしている会社では、せっかくデータを解析してもマーケティング部からのフィードバックがなく、情報システム部とのコミュニケーションが不全である、という話をよく聞く。これを解消するために、例えばシステムに関しては運用の部分まで情報システム部も協力する。マーケティング部はシステムを作ってもらったら、キャンペーンの結果を含めきちんとフィードバックするなど、時間をかけて信頼関係を築いていく必要がある」(本間氏)。
個性の強いスぺシャリストをなんとか容認できるような土壌が必要なのだろう。「今までのマーケティング部のスキルセットではデータ分析なんてできない人も多い。カルチャーの違うコンピューターギークな人に対してさまざまな先入観があるかもしれないが、付き合ってみると真面目で有能な人が多いので、一緒に仕事をしてみるといいでしょう」(本間氏)。
デジタルマーケティングで変わるブランド構築をどう考えるか
デジタルマーケティングを考慮する上で、日本ではブランド構築に課題がある企業が多いという。なぜか。本間氏は「デジタルマーケティングの取り組みでは、顧客の購買ステージ(例えばAIDMA)ごとに顧客の気持ちに合った情報発信ができるようになった。しかし、日本の製造業の多くは企業文化や製品まで統一されたメッセージを持たないため、情報発信の現場が混乱している」と原因を語った。
例えば、米Appleの場合、iPhoneを手にとっても、アップルストアに出かけても「スティーブ・ジョブスのデザインやセンス」を感じることができる。「それは社内のブランド価値教育が徹底されているからだ。こうした一律の経験が顧客の『Wow!』という驚きによってブランド価値として再認識され、市場でのブランド価値が強くなっていくような仕組みができているのではないか」と本間氏は話す。また、「日本の企業では現在、社内側のブランド教育が足りていない。社内ブランドを設定するために、企業の社会的な価値を設計して、社内外ともに“北極星”となるような指針が必要である」と本間氏は主張した。
一方で、誰が“北極星”を作るのか、という問題がある。Appleはなぜ社内外のブランディングに成功しているのか。それは、ブランドマネージャーが(スティーブ・ジョブスのように)デザイン、店舗全てにこだわって、全部を統一する力があったからではないのか。こうした問いに対して、平野氏が考える理想のデジタルマーケティングマネージャー像は従来のマーケター以上に広範なバックグラウンドを持った人物だという。「広告だけではなくITシステム、Web、アプリなどを含め、企業ブランドの根幹を示す能力のある人物」である。そのような人物が作った“北極星”が存在した上で現場に情報発信をゆだねれば、顧客の購買ステージがどこにあっても対応できるだろう。「そこまでできる能力と権限が与えられているマーケターは残念ながら、現状では少ない。広告代理店と一緒に知恵を出し合いながらマーケティング担当者は主体的に解決する道を探さなければ」(平野氏)と話した。
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