流入「80%減」 AI検索で大打撃を受けたHubSpotは、どうやって“未来の顧客”を取り戻した?:HubSpot「INBOUND」レポートVol.1(1/2 ページ)
米HubSpotはAI検索の影響を大きく受け、ブログへのトラフィックが80%減少した。同社はどうやって“未来の顧客”を取り戻したのか。ヤミニ・ランガンCEOが語る。
生成AIの登場で、マーケティングの常識が大きく変わった。
特にマーケターの注目を集めるのが、「AIによる概要」(AI Overview)による、検索体験の変化ではないだろうか。年間5兆回以上使われるというGoogle検索だが、現在その60%はゼロクリック(AIOに表示されるだけで、サイトをクリックされない状態)だと指摘されている。
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これまで多くのマーケティング組織では、Googleの検索の上位に自社のサイトを表示するためのSEO対策を強化してきた。しかし今は、自社コンテンツを“AIに選んでもらうため”の対策(※)に熱い視線が注がれている。
※「AIO」(Artificial Intelligence Optimization:人工知能最適化)、「GEO」(Generative Engine Optimization:生成エンジン最適化)、「LLMO」(Large Language Model Optimization:大規模言語モデル最適化)、「AEO」(AI Engine Optimization:AIエンジン最適化)など呼ばれ方はさまざまあるが、今回の記事では「AEO」で統一する。
主に中小企業に向けて、CRM(顧客管理システム)を中心としたさまざまな製品群を提供する米HubSpotも、AIOにより大きくトラフィックを減らした企業の1つだ。同社のブログへのトラフィックは80%減少したという。
HubSpot ヤミニ・ランガンCEOは「生成AIの登場で、これまでのマーケティングファネルが機能しなくなった」と指摘する。
AIOにより自社へのトラフィックを大幅に失ったHubSpotは、AI時代をどう戦い抜く方針なのか。9月3〜5日、米サンフランシスコで開催した年次イベント「INBOUND」で、ゼロクリック時代に求められるAEO対策の在り方について語った。また、AI時代の新しいマーケティングのフレームワーク「Loop Marketing」についても解説する。
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従来のマーケティングファネルはもう機能しない──AIOが与えた衝撃
「AIOが検索の上部に表示されるようになり、現在Google検索の60%はゼロクリックで終わります。ゼロなのです」(ヤミニ・ランガンCEO)
AIOの登場により、マーケティングにおいて大きな変化が2つあると指摘する。
1つ目はWebサイトへの流入が減ったことだ。AIが簡潔に説明してくれるため、わざわざクリックをしなくなった。
また、SNSを見たりポッドキャストを聞いたり、顧客はさまざまなチャネルを横断して情報を収集する。その影響も受け、Webサイトへの流入は減っているという。
2つ目は、消費者の課題解決の方法が変化したこと。消費者がこれまで「検索」して自力で集めていた情報は、AIに質問して解決できるようになった。
ヤミニ・ランガンCEOは「企業が“見つけられること”がこれほど困難になったことはありません」と語る。
それを受け、これまで当たり前とされてきたマーケティングのファネルが機能しなくなったと続ける。
「認知拡大」「検討」「醸成」「コンバージョン」──とフェーズを分け、カスタマージャーニーを設計するのが一般的だった。しかし、「認知」の段階は、SNSをはじめとするチャネルが拡大した影響で、以前よりも分散した。「検討」段階は、AIOでゼロクリックが増加したことで、大きく形を変えた。
「ゼロクリックが当たり前になり、ブログをはじめとした自社コンテンツへの流入は減少しました。これはとても深刻で、人々はこれを『トラフィック・アポカリプス』(『トラフィックの終焉』の意)と呼んでいます」(ヤミニ・ランガンCEO)
SEOとAEOの明確な違い
こういった流れを受け、AIによる回答に自社コンテンツを多く表示させること──AEO対策の注目が高まっている。
従来のSEOとAEOの違いは、以下のように定義される。
まず、SEOにおいて重要なのは検索上位に自社サイトを表示することだったが、AEOではAIによる答えの一部になることが求められる。SEOでは「トラフィック量」を目標としていたが、AEOでは「コンバージョン」が目標となる。
他にも、SEOではキーワード、被リンク、メタタグが重要な指標になっていたが、AEOでは統計、引用、高権威ソースがより重要性を増すなど、明確な違いがあると説明した。
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