一時は赤字転落も アシックスのV字回復を支えた「ブランド構築」の考え方(2/3 ページ)
一時は赤字に転落しながらも、いまや営業利益が1000億円を超え、海外売上比率は80%以上まで成長し、見事なV字回復を遂げたアシックス。その裏には、ものづくり企業としての誇りを守りながらも、顧客目線でグローバルブランドとしての信頼を積み上げた変革の物語があった。
“らしさ”を守り抜いた先に道は拓ける
80年近い歴史を誇るアシックスは、どのようにブランドを構築し、世界へと広げていったのだろうか。
甲田氏は「ASICSというブランド名は、創業哲学である『もし神に祈るならば、健全な身体に健全な精神があれかしと祈るべきだ(“Anima Sana in Corpore Sano”)』の頭文字からできている」と明かし「これこそがアシックスらしさ。ものづくりに対する真摯(しんし)で誠実な向き合い方は、世界へ進出する際にも決して失ってはならないと考えていました」と語る。
甲田氏は現在、アシックスのマーケティング、スポーツマーケティング、パラスポーツ企画を統括する常務執行役員であり、一般財団法人ASICS Foundationの理事長も務めている。前職はナイキジャパンで、広告宣伝のディレクターとしてマーケティングを担っていた。
そんな甲田氏に対し、楠木氏は「僕のナイキのイメージは、ザ・アメリカンな企業。マーケティングの専門家が、業界で共有されているベストプラクティスをなぞるように、粛々(しゅくしゅく)と施策をこなしていくような感じです。そこからアシックスのような典型的な日本のものづくり企業へ移られて、ナイキのようなマーケティングを求められなかったのでしょうか」と問いかけた。
「ご存じの方も多いと思いますが、ナイキの起源はアシックスの靴を米国で販売する代理店です。もともとナイキにはアシックスへの強いリスペクトがあるし、競合だからこそアシックスの“もったいないところ”も見えていました。アシックスにはアシックスのやり方がある。それを伝えて理解してもらえたときに『この会社は変われる』と確信しました」(甲田氏)
アシックスの歩みは、日本企業が直面する典型的な課題と重なる。品質や技術には定評があっても、顧客とのコミュニケーションが弱いのだ。楠木氏はこうした企業を “鬼”に、コミュニケーション力を“金棒”にたとえて、次のように説明する。
「今のアシックスは、鬼が金棒を手に入れて、最強になった状態。金棒だけ持って、ものづくりに本腰が入っていない企業が、事後的に鬼になるのは容易ではありませんが、もともと鬼だった企業が金棒を手にできる可能性は少なくない。アシックス以外にも、日本にはまだ多くの鬼が眠っているはず。そんな鬼が金棒を手にしたとき、未来は明るく拓けるはずです」
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