一時は赤字転落も アシックスのV字回復を支えた「ブランド構築」の考え方(3/3 ページ)
一時は赤字に転落しながらも、いまや営業利益が1000億円を超え、海外売上比率は80%以上まで成長し、見事なV字回復を遂げたアシックス。その裏には、ものづくり企業としての誇りを守りながらも、顧客目線でグローバルブランドとしての信頼を積み上げた変革の物語があった。
謙虚に信頼を積み重ねることでしかブランドは強くならない
65のグループ会社を通してグローバルで事業を展開しているアシックス は、創業理念を全世界に浸透させるための施策を2021年からスタートさせた。インナーセッションを行ったり、日本語だけでなく英語も併記したブックを作成したり、店頭の販売員も本社と同じ共通言語で創業理念を語れるよう、啓蒙活動を繰り返しているという。
「創業理念の浸透には時間がかかり、当然1回きりの施策では済みません。それでも、企業がちゃんとコストをかけて働きかける意味は必ずあるはずです。加えて、ブランドとしてお客さまから信頼を得るだけでなく、現地法人のメンバーも含めた世界中の仲間と信頼関係を築くことも極めて重要です」と甲田氏は熱を込める。
これに楠木氏も同調し、2014年に米国のビームを買収したサントリーの事例を紹介した。
ビームはサントリーよりも歴史が古く、7世代・200年超にわたって、世界で名高いバーボンづくりに心血を注いできた。そんなビームの買収が完了した数カ月後、サントリーCEOに就任したのが新浪剛史氏である。
サントリーで初めて創業家以外からCEOに就いた新浪氏は、早々に米ケンタッキー州にあるビームの工場を訪れた。これに驚いたのがビームの職人たちである。「過去には一度もCEOが工場に足を運ぶことなんてなかったのに、買収された途端、新たなCEOが日本からはるばる訪ねてくるなんて!」と、良い方向に進む予感がしたに違いない、と楠木氏は解説する。
こうした両氏の議論を総括すると、創業理念や企業哲学をグローバルに浸透させようと、日本の経営陣が本気を見せることが、本質的なブランディングの出発点だといえるのかもしれない。
最後に、日本企業がグローバルで花開くために大切なこととして、楠木氏は次の2つのメッセージを送った。
「『人気と信用は違う』。違うどころか、真逆だといってもよいでしょう。人気を追い求めれば、信用を失います。これだけは、くれぐれも忘れないでほしいです」
「もう一つは、『謙虚であれ』。どんなに自社のブランドを愛してくれている人であっても、1日中そのブランドのことを考えているわけではありません。ブランドの担当者は、つい近視眼になりがちですが、お客さまにとってのブランドは、生活のごく一部に過ぎません。この事実を理解して、『どうすればお客さまの“matter(欠かせない存在)”になれるのか』と常日頃から考え続けることが、真の意味で『顧客視点に立つ』ということでしょう」
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