「成果が分かりづらい」のにブランディング広告に注力するワケ 楽天市場・コミックシーモアに聞く(1/2 ページ)
5万店舗以上が出店する国内最大級のインターネットショッピングモール「楽天市場」と、月間利用者数が4000万人を超える国内最大級の電子書籍ストア「コミックシーモア」。いずれも“刈り取り”(顧客の獲得)を目的としたダイレクト広告を出稿しているイメージが強いが、実は、昨今はブランディングを目的とした「ブランディング広告」への投資にも力を入れている。
【注目】ITmedia デジタル戦略EXPO 2025夏 開催決定!
丸亀製麺の"感動”創造戦略 〜CXとEXのスパイラルアップが生み出す内発化〜
【開催期間】2025年7月9日(水)〜8月6日(水)
【視聴】無料
【視聴方法】こちらより事前登録
【概要】2025年3月期決算で、売上収益・事業利益・事業利益率ともに過去最高を更新した丸亀製麺。持続的な成長をつくる「感動創造」と「ブランド力向上」の本質に迫ります。本セッションでは、丸亀製麺の同質化しない唯一無二のマーケティング戦略とCX/EX戦略を紐解きながら、データサイエンスと感性を融合させた勝率の高い新しいマーケティングモデルの最前線を説明します。
5万店舗以上が出店する国内最大級のインターネットショッピングモール「楽天市場」と、月間利用者数が4000万人を超える国内最大級の電子書籍ストア「コミックシーモア」。いずれも“刈り取り”(顧客の獲得)を目的としたダイレクト広告を出稿しているイメージが強いが、実は、昨今はブランディングを目的とした「ブランディング広告」への投資にも力を入れている。
デジタルの世界を主戦場にする両社が、数値的な成果を測りにくいブランディング広告に注力するのはなぜか。そしてどのように効果検証と向き合っているのか。
この記事では、Metaが5月27日に開催した「Meta Festival Japan 2025」のセッション「コマースと電子書籍トップマーケターに聞く:Instagramで『成果』を出すミドルファネル戦略」をもとに、楽天市場とコミックシーモアのブランディング広告出稿戦略を読み解く。
コミックシーモアはなぜ「ブランディング」を重視する?
ダイレクト広告は、クリックから即座に商品・サービスの購買を狙うもので、コミックシーモアではマンガの1シーンを切り取った静止画のクリエイティブなどを展開している。一方、ブランドに対する好意度を高めるのがブランディング広告の目的で、同社ではタレントを起用した縦型動画のクリエイティブなどを展開する。
ブランディング広告では、テレビCMの撮影時にInstagramの「リール」や「ストーリーズ」用の動画を別撮りし、エンタメ要素の強い専用コンテンツとして配信しているという。
ブランディング広告の方が、クリエイティブ制作に高い費用が掛かりそうだ。加えて、ブランディング広告は「今すぐの購買」ではなく「ブランド想起からの中長期な購買」を目的としているため、投下した広告費に対する獲得効果を可視化するのがなかなか難しいとされている。
それなのになぜコミックシーモアではブランディング広告への投資に力を入れているのだろうか。その理由として、NTTソルマーレ 電子書籍事業部 マーケティンググループの坂元富士太氏は次の2点を挙げた。
1点目は、「市場拡大に伴い、同業他社間で競争が激化していること」だ。2011年と比較して、電子書籍市場の規模は10倍以上にまで拡大している。それに伴ってサービス提供者の数も増加。複数のサービスを利用するユーザーも増えていることから、電子書籍ストアとしての差別化を図るとともに、コミックシーモアというブランドに対するロイヤリティーを高める必要性が高まっているという。
2点目は、「利用意向を高め、売り上げ拡大につなげたいから」だ。ダイレクト広告とブランディング広告は、アプローチこそ異なるが、最終的なゴールはいずれも「売り上げの拡大」にある。ただし、各種獲得指標ですぐに効果測定が可能なダイレクト広告とは違い、ブランディング広告の効果は「今後このサービスを使ってみたいですか?」「このブランドの商品を購入したいと思いますか?」といったアンケート結果によって得た利用意向の変化によって、間接的に評価することになる。
ブランディング広告だからといって効果測定を諦めているのではなく、「常に数値ベースでの評価を大切にしている」と坂元氏は強調した。
「買い物するなら楽天市場」のイメージ醸成 楽天市場の戦略
続いて、楽天市場のブランディング広告の取り組みについて見ていこう。
楽天グループ 楽天市場マーケティング部の尾崎諭氏は、ブランディング広告のクリエイティブ制作に関して、「セールのような時限性のあるコンテンツではなく、定常的なサービスの競合優位性や差別化ポイントを伝える動画にしている」と説明する。
単に多くのアイテムの情報を並べるだけでは、各店舗の宣伝になってしまい、楽天市場に出店している店舗であることがユーザーに伝わらない。そこで、共通のワードやサウンドを使うことで一貫性を持たせ、楽天市場という売り場に認知が高まるようなクリエイティブ設計を意識しているという。
そんな楽天市場がブランディング広告に投資している背景には、「ブランド想起によるライトユーザーの獲得」と「ブランドに対する理解を深め、顧客ロイヤリティーを向上させる」という2つの狙いがある。
「買い物するなら楽天市場」という発想で、何か買おうと思い立ったらすぐに楽天市場のアプリを開くようなロイヤルユーザーに対し、ライトユーザーは、特に買い物の場所は決まっていない。何か欲しいものがあれば検索エンジンで調べたり、複数のECサイトを比較したりして、最終的に気に入ったものがあれば楽天市場で購入することもあるような層である。
こうしたライトユーザーのブランド想起を高めるには、ユーザーが日々利用しているメディアで接触頻度を上げておくことが有効だ。また、そうしたライトユーザーをロイヤルユーザーに引き上げるためにも、情報量の多い動画コンテンツでサービスの魅力を伝えられるブランディング広告は効果的だと考える。
「ブランディング広告で『買い物といえば楽天市場』というイメージを形成し、思い立ったら楽天市場に直行してもらえる流れをつくりたい」(尾崎氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
資生堂が「デジタル広告」にシフト Instagramにとりわけ注力する理由
資生堂は2023年から2024年にかけて、Instagramへの投資額を前年比58%増と大幅に増やし、明確にデジタルシフトへと舵を切った。それだけでなく、ブランド広告からダイレクト広告へと力点を変えたという。メガネを「たまに買う」ではなく「よく買う」ものに──Zoffは一体何をした?
メガネは購入間隔がとても長い商品だ。Zoffは、LINEを活用したマーケティングを強化し、顧客のLTV向上に成功。メガネを「たまに買う」ではなく「よく買う」ものにすることに成功したという。「それって本当にカスハラ?」 ネスレの“ゲーム風”クレーム研修が面白い
「カスハラはダメ」という認識が広がる一方、企業に寄せられる厳しい意見、商品やサービスに対し怒っている顧客の声は、もちろん話し方や口調にもよるが、必ずしもカスハラとは限らない。ネスレ日本は、そんな課題を感じ、ユニークなクレーム研修を開発した。年間4万件の「声」は、味の素「Cook Do」をどう変えたのか
「クレーム対応に追われてしんどい」といったイメージが根強いコールセンター業務。味の素は、消費者からの意見を活用し、商品開発につなげている。1問1答ではなく、「会話力」を重視する理由は?コンタクトセンターが多忙な「本当の理由」 チャネルが増えても、顧客の不満が減らないワケ
まざまな分野でデジタル化が進み、顧客との接点が多様化する昨今において、顧客体験価値(CX)の向上は、企業にとって重要な経営課題の一つだ。特にコンタクトセンターは、企業と顧客との関係をつなぐ役割として重要性を増している。