資生堂が「デジタル広告」にシフト Instagramにとりわけ注力する理由(1/2 ページ)
資生堂は2023年から2024年にかけて、Instagramへの投資額を前年比58%増と大幅に増やし、明確にデジタルシフトへと舵を切った。それだけでなく、ブランド広告からダイレクト広告へと力点を変えたという。
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かつての化粧品ブランドは、高価格帯であるほど世界観を追求し、ブランド広告によるブランドイメージの強化を最重視していた。そのため、デジタル、とりわけ誰もが気軽に発信できるSNSであっても、ブランドの世界観を毀損(きそん)しないクリエイティブに固執する傾向があった。
そんな中、資生堂は2023年から2024年にかけて、Instagramへの投資額を前年比58%増と大幅に増やし、明確にデジタルシフトへと舵を切った。それだけでなく、ブランド広告からダイレクト広告へと力点を変えたという。
なぜ資生堂は、デジタル、特にInstagramでのダイレクト広告に注力するようになったのだろうか。
この記事は、Metaが5月27日に開催した「Meta Festival Japan 2025」のセッションの中から、「資生堂の高成長ブランドが実践するInstagram×AI活用術、組織での取り組みについて」で明かされた、資生堂の「クレ・ド・ポー ボーテ」と「エリクシール」の2つのブランドの事例を紹介する。
資生堂はなぜデジタルへの投資を強化するのか
まずは、今回事例として取り上げられたクレ・ド・ポー ボーテとエリクシールが、それぞれどのようなブランドなのかを押さえておこう。
クレ・ド・ポー ボーテは、最高峰のラグジュアリーブランドとして、1982年に日本で誕生。ブランド名の由来は、フランス語で「肌の美しさへの鍵」という意味を持ち、独自の最新の肌サイエンス研究から生まれたスキンケア・ベースメイク・カラーメイクを、グローバルで広く展開している。
エリクシールは1983年に誕生した中価格帯のスキンケアブランドだ。40年を超える歴史を持ちながら、直近も2桁成長を続けるロングセラーとなっている。日本だけでなく主に東南アジアや中国を中心に展開。18年連続スキンケア市場No.1のシェアを誇る。
そんな資生堂きっての人気ブランドは、なぜ昨年からInstagramに大きな投資をするようになったのか。
クレ・ド・ポー ボーテ デジタルマーケティング戦略G ブランドマネージャーの千葉裕也氏が1つ目に示したのは、高価格帯商品を購入した人の中で「来店前に買う商品がほぼ決まっている人は30〜40代で約6割、50代で約7割」という結果である。千葉氏は「中価格帯のブランドはそうかもしれないが、高価格帯は違うと思っていた」と驚きを見せた。
2つ目は、「いずれの世代でも、化粧品情報を閲覧するSNSはInstagramが1位」であること。「Instagramは検討段階で接点を持てる重要なメディアとして、投資を強化すべきだ」と認識した。
一方、エリクシールがデジタルへの投資を拡大させた理由について、エイジングケアマーケティング部 デジタルマーケティング戦略グループ ブランドマネージャーの小暮亮祐氏は「お客さまのメディア接触の変化による購買行動の変化」を挙げた。以前は好きなブランドの商品をライン使いする(化粧水・乳液・美容液など全てのステップを同じブランドでそろえる)のが一般的だったが、昨今は自分の肌悩みに応じてお金をかけるところと節約するところを取捨選択する“自己編集型のメリハリ消費”が加速しているというのだ。
その消費者心理は、Xでの検索行動に顕著に表れている。ナイアシンアミド・ヒアルロン酸・セラミド・レチノール・ビタミンC誘導体といったスキンケア成分の発話量を調べたところ、2020年から2021年にかけて激増しており、リアルな声を集めようと能動的に情報収集に奮闘する消費者の姿が浮き彫りとなったのである。なお、ユーザーの検索行動はInstagram内でも見られるようで、「日本はグローバルと比較して、検索量が5倍多いというデータもある」とMetaの丸山祐子氏(Facebook Japan 営業部長)は補足した。
この結果を受け、エリクシールでは、デジタルへの投資を2024年にかけて大幅に拡大。今やデジタルとマスの投資額はほぼ半々になっており、「投資対効果の観点から、デジタルへの投資は今後もまだ増やしていくのではないか」と小暮氏は語る。
そんなデジタルシフトを加速させる資生堂では、デジタルのケイパビリティーを高めるべく、組織を挙げて次の取り組みを始めている。
(1)宣伝部とは別に、事業部制組織内にデジタル専任者を配置。ブランド担当としてデジタルの施策を立案・実行できる体制に。
(2)資生堂のブランド担当はもちろん、クリエイティブチームや代理店のメンバーなど300人強が参加する勉強会を実施。Metaに最新情報をインプットしてもらい、皆で共通認識を持ちながら同じゴールを目指す。
(3)(2)で学んだことを実行に移すために、縦長動画配信率やEMQスコア(イベントマッチングクオリティ、顧客情報パラメーターがMetaのアカウントとどれだけマッチしたかを示す指標)などのスコアを他部署と共有、互いにモニタリングできる環境をつくっている。インプットは同じはずなのに、なぜ成果に差が生まれるのか。ナレッジの横展開でレベルアップを図る。
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