2年間で応募数「1.7倍」 求人サイトを運営するディップが、データを活用して見つけた意外な求職者ニーズ:アドビが聞く「実践! CX改革」(2/3 ページ)
アルバイト、パート、派遣、社員の求人情報を求職者に提供し、企業とマッチングを図る人材サービスを提供しているディップは、Webサイトやアプリにおける応募率向上に向けて、データ分析とテスト実行のサイクルを高速回転させる体制を構築し、大きな成果を挙げています。同社が運営する求人サイトの「バイトル」「はたらこねっと」は、UI/UX改善やレコメンド施策の強化に取り組み、2年間でサイト全体の応募率を1.7倍に向上させました。今回の記事ではディップが成功した背景を、アドビのコンサルタントが解説します。
データ活用、レコメンド精度の向上 ディップは何をした?
2015年、同社のWebサイトはこうした方針の下、ユーザーのWeb上の行動を詳細に分析し、データをもとにUI/UXを改善するための仕組みを導入することを検討しました。当時のアクセス解析ツールは、計測できるデータに限りがあり、かつ大量のログデータを外部へ出力できず、パーソナライゼーション施策のためのデータ活用面に課題がありました。さらに、複数の候補から最適なコンテンツを選ぶために使う「A/Bテスト」ツールは、計測ツールと別のベンダーの製品を使っていたため、各ツールのデータ定義が異なり、データ集計や深掘り分析が困難でした。
こうした問題を解決するため、同社では2016年にマーケティングツールの見直しを実施し、Webサイトおよびアプリの行動分析を担うAdobe Analyticsと、パーソナライゼーションツールであるAdobe Targetを採用しました。
Adobe Analyticsでは、大量の求職者のWebサイト上およびアプリ上の行動を詳細に記録し、長期間にわたるアドホックな分析を実施。また、Adobe TargetとAdobe Analyticsで高度にデータ連携をし、ツール間のデータの乖離(かいり)を防ぎつつ、案件情報やセグメント情報をツール間で共有することで、効果検証の高度化と、パーソナライゼーション施策の高度化を図りました。
同社では非常に粒度の細かい分析を行っているのが特徴で、例えばユーザーが一度キープして後日開いた仕事の内容が、一覧表示では30個の中の何番目に出ていたものか、それが応募にひも付いたのかを分析することが可能です。
上記のような分析業務をUI/UX改善の関係者が誰でも実施できるよう、教育プログラムを構築。今では各自が日々のレポーティングを行っています。
また、同社が課題に感じていたレコメンドの精度向上にも取り組みました。これまでのA/Bテストというと、サイト上のボタンやリンクの位置や色などを検討する際に用いるイメージがありますが、レコメンドのアルゴリズムをA/Bテストすることも可能に。個々のユーザーの関心に合わせて、例えば最後に閲覧した仕事と最寄り駅が同じ駅の仕事をレコメンドするのか、それとも時給がより高い案件を提示するのかなど、アルゴリズムを複数用意した上で、どちらが応募率が高い=求職者にとって有益な体験であるかをテストしています。
レコメンドのアルゴリズムには、AI(人工知能)や機械学習のモデルを使用しています。AIや機械学習の精度を高めるためには大量のデータが必要になりますが、同社のWebサイト、アプリはユーザー規模が大きく、テストと分析を循環させるためのデータ量が豊富です。なおかつ、テスト結果が応募率という成果に表れるため、施策の実施者としても効果を数字で実感しやすく、AIや機械学習とも相性が良いといえるでしょう。
Cookie対策もいち早く対応
同社のWebサイトおよびアプリを訪問するユーザーは、はじめて来訪する人を含め、匿名の非会員ユーザーが多くを占めます。そのため、ユーザーの行動把握は、Cookieに保持した訪問者IDを頼りに行うことになります。
ですが、Cookieの利用には制限が加わりつつあります。特に、日本ではスマートフォンで利用者が多いSafariユーザーのプライバシーを保護するためのAppleの取り組みであるITP(Intelligent Tracking Prevention)と呼ばれるトラッキング防止機能を持っており、マーケティングツール側で発行したCookie情報が短い時間で消失するため、従来の計測方法では精度が低下してしまいます。
そこで同社においては、ITP対策を導入し、Appleの製品からアクセスしているユーザーに対しても、長期にわたるCookieベースのユーザー特定を可能にしました。その結果、全てのユーザーに対する長期間の訪問者の識別が可能になり、より高度なデータ活用と、最適な顧客体験を提供できます。
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