2年間で応募数「1.7倍」 求人サイトを運営するディップが、データを活用して見つけた意外な求職者ニーズ:アドビが聞く「実践! CX改革」(3/3 ページ)
アルバイト、パート、派遣、社員の求人情報を求職者に提供し、企業とマッチングを図る人材サービスを提供しているディップは、Webサイトやアプリにおける応募率向上に向けて、データ分析とテスト実行のサイクルを高速回転させる体制を構築し、大きな成果を挙げています。同社が運営する求人サイトの「バイトル」「はたらこねっと」は、UI/UX改善やレコメンド施策の強化に取り組み、2年間でサイト全体の応募率を1.7倍に向上させました。今回の記事ではディップが成功した背景を、アドビのコンサルタントが解説します。
応募率117%向上の「駅レコメンド」施策
実際に、同社が行っているサービス改善は、大きな成果を挙げています。一例として、バイトル、はたらこねっとで実施している「駅レコメンド」の取り組み結果をご紹介します。
同社ではユーザーアンケートによって、ユーザーが仕事を選ぶときに勤務地を重視する人が約81%も存在することを把握していました。また、ユーザーアンケートだけでなく、検索行動のデータからも同様の結果が得られていました。そのため、その結果を仕事探し画面のレコメンドに応用すれば、応募率を高めることができるのではという仮説の下、ユーザーが検討している仕事の画面下に、おすすめとしてその仕事と勤務地が同じ駅の仕事情報を出すようにしました。
さらに、この「駅レコメンド」枠の情報には、駅から勤務地までの徒歩分数を赤い文字で強調表示するようにして、ユーザーが通勤時間を把握しやすいように配慮しました。
この駅レコメンド機能と従来型のレコメンド機能をA/Bテストで比較したところ、レコメンド枠の詳細ページへのアクセスは108%に向上、応募率も109%アップしました。
同社ではさらに、機械学習によって自動的に選んだ仕事情報をユーザーに提示する施策を実施しました。それによって応募率はさらに向上し、トータル117%アップという成果を出しました。
2年間でサイト全体の応募率は1.7倍 重要なのは「内製化」
他にもバイトルやはたらこねっとのサイトに対して、「販売」「軽作業/物流」「オフィス」「フード/飲食」などの職種の大分類にあたるタブの並びを、ユーザーの属性に応じてダイナミックに変更するなど、サイトの細かいUIの改善を繰り返しました。
UI/UX改善のための施策としては週2〜3本の施策を回しています。その結果、2年間でサイト全体の応募率を1.7倍に向上させました。サイトの運営者が思い付いた仮説をテストし、検証するサイクルが、着実に成果を挙げています。
こうした好循環を生み出している背景には、同社のWebサイト、アプリの運用体制の大半を内製化していることがあります。通常のWeb運営企業は、Webサイトの運用に関するコンサルティング、ツールの設定やサイトへの実装、分析などを外部のパートナーに外注するケースが一般的です。しかし同社では、レコメンドの施策検討をはじめ、HTMLやJavaScriptのコーディングなどの実装系、アドビのツールの設定や分析、施策の評価に至るまで、数多くの工程を社内のメンバーで行っています。
外注していると、1つの施策を実施する場合も外部のパートナーに依頼をして、その結果を待っている間に数週間という時間が経ってしまうケースが数多くあります。しかし同社の場合は、UI/UX改善プロセスを完全に内製化しているため、施策の起案から実行、結果の分析までの期間を大幅に短縮できます。そのため、より多くの仮説検証が可能で、サイトの応募率向上が急速に進みました。同社の規模のWebサイトで、開発と運用体制をここまで内製化している例は、国内では極めて珍しいと思います。
今後、バイトルとはたらこねっとなどサービス間を横断した施策の実施によって、アルバイトで働く人に対して派遣や社員募集を紹介するなど、より広い雇用形態の中で求職者にとって最適な仕事をご案内するためのパーソナライゼーションにも力を入れていく予定です。
ディップでは自社が持つデータの蓄積と案件情報の学習結果を生かし、対話形式でアルバイト、仕事探しができる「AIエージェント」のサービスを開始しており、バイトルをはじめとした自社サービスへの実装も進めています。また、スポットのアルバイトサービス「スポットバイトル」を2024年10月から開始。「バイトル」へ訪れたユーザーがスポットワークを選べるほか、中長期でのアルバイト選びの中で「実際に就業すると決める前に、アルバイト体験したい」というユーザーのニーズに対応し、多様な志向を持つユーザーへの最適なサービスの提供が可能になりました。
こうしたサービスチャネルの拡大に対して、ディップの内製化した組織と整備されたデータ基盤、ツール環境はさらにポテンシャルを発揮することでしょう。ツールの活用度が上がることでデータが増加し、そのデータを分析することでさらに施策の精度が向上する好循環が生まれています。デジタルビジネスで成果を挙げるためには、システム面と組織体制の両輪で環境を整えることが非常に重要だと、ディップの事例は示しています。
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