AI搭載は「もう売りにならない」──「Marketing Dive」2025年予測【前編】:Marketing Dive
広告費が世界で1兆ドルを超える中、マーケターは多くの課題に直面している。不透明な規制環境をはじめとするさまざまな問題を乗り越えるにはどうすればいいのか。
マーケティング業界を俯瞰すると、2025年はこれまで以上にその規模が拡大する可能性がある。WPP傘下のGroup Mは、ストリーミング、ゲーム、リテールメディアなどのチャネルがブランドのキャンバスを拡大し続け、世界の広告費が初めて1兆ドルを超えると予測している(関連記事:「世界の広告総収入は1兆ドル超えへ デジタル広告が成長をけん引」)。
代理店は顧客からの増え続ける要求と薄利多売の現状に疲弊している。こうした状況下で、業界再編の兆しが見られ、M&Aに好都合な環境の中で、OmnicomによるInterpublic Groupの130億ドルの買収は、この業界に大きな変化をもたらすとされている。
マクロの状況は好調に見える。とはいえ、業界の歯車を回している人々は、それに見合ったリソースを割り当てられていると実感できていない。CMOは2024年に「縮小の時代」に突入し(関連記事:「CMOはつらいよ マッキンゼー調査で浮かび上がるAI時代の厳しめな業務実態」)、代理店は高まるクライアントの要求と薄い利益率に疲弊している。M&Aに優しい環境で合従連衡も進む。OmnicomによるInterpublic Groupの買収は、この業界に大きな変化をもたらすことになるだろう(関連記事:「Omnicomが Interpublic Groupを買収 世界最大級の広告会社が誕生へ」)。
規制が急増する中でのデータ管理など、さまざまな課題に対処しなければならないマーケターにとって、鍵になるのは効率だ。生成AIをはじめ、作業をより効率的に行うのに役立つツールの需要は依然として高い。しかし、これらの導入にはある程度の慎重さが求められる。
「2025年になっても状況が楽になる兆しは見えていません。『縮小の時代』は、生産性を重視する新たな時代へと移行しつつあります」と語るのは、Gartner for Marketersのバイスプレジデント兼主任研究員のユアン・マッキンタイア氏だ。
今後の1年でマーケティングの方向性を再び変えるような動きが生じる可能性もある。GoogleにChromeの売却を求める動きをはじめ、テクノロジー企業に対する反トラスト(独占禁止法)の取り締まりは引き続き進展するのか。TikTokは禁止されるのか。また、トランプ新政権の誕生は消費者心理にどのような影響を及ぼすのか。「Marketing Dive」による10の予言を前中後編の3回に分けてお届けする。
「広告に無視されている」と感じる消費者にブランドが今すべきことは?
予言1
「広告に無視されている」と感じる消費者に訴求するため、ブランドは自らの価値を再定義する必要に迫られる
マーケターは消費者についてこれまで以上に多くの情報を持っている。だが、実際に消費者の声に耳を傾けているだろうか。iHeartMedia と Pushkin Industries の調査によると、地理的、人種的、民族的境界を越えて、消費者のほぼ半数(44%)がメディアやほとんどの広告主に無視されていると感じている。4分の3の消費者は、自分たちの価値観を共有するブランドにもっとお金を払う用意がある一方で、72%の消費者は自分たちを無視していると感じられる広告主からは製品を買いたくないと考えているのだ(関連記事「違いマーケター戦慄 消費者の約半数は『広告主に無視されている』と感じている件」)。
iHeartMediaのエグゼクティブアドバイザーを務めるゲイル・トロバーマン氏は「消費者はブランドが自分たちを認識し、自分たちがいる場所で彼らにアプローチすることを望んでいます。これは明らかなことです。消費者は私たちに、『ただ私に話しかけているだけなのに迎合しないで。私たちはあなたが何を支持し、どんな人なのかを知りたい』と言っているのです」と語る。
マーケターが2025年に成功するには、ブランドを一貫して大胆に構築する必要がある。消費者のアイデンティティを反映させようとするのではなく、広告代理店PPKのエグゼクティブクリエイティブディレクター、ポール・プラト氏は「ミラー広告」と呼ばれるアプローチを採用し、マーケターは「ブランドの真実を恐れずに述べる」べきだと主張している。
「ブランドが、自分たちの顧客が誰だと思うか、あるいは、どんな顧客であってほしいかを描写するように強制しようとすると、ブランドが自分自身について語ることができなくなるという問題が起こります」とプラト氏は語る。
例えばNikeの「勝ちたくて、何が悪い。」と題したキャンペーンは、ブランドをその中核理念、つまり同名のギリシャ神が体現するアスリート精神へと回帰させた。この取り組みは賛否両論を巻き起こしたが、皮肉にも、物議を醸すことはカルチャー形成に必要なアプローチなのかもしれない。
「今は、まるで誓いの更新のように、人々が自分の価値観に傾倒する瞬間です」と、マイコードのブランドコンテンツおよびクリエイティブ担当ゼネラルマネージャー、ビクトリア・ジョーダン氏は言う。「消費者の意見が二分されないように、自社製品が解決するものや普遍的なテーマを常に重視してきたブランドもあります」
予言2
進化する生成AIが本質を突くようになる
生成AIに対する反発が高まっているにもかかわらず、マーケティング担当者は、この技術が2025年にはさらに重要になると考えている。キャンペーンのブリーフィング、バージョン管理、制作に関する生産性の向上、合成オーディエンスデータの活用は、代表的な使用例の一部だ。
RazorfishのCEOであるジョシュ・カンポ氏「バックオフィスの事例は、ブランドがすぐに関与し、価値を引き出し始めることができる事例です」と語る。
Coca-Colaのホリデー広告の失敗は、多くの消費者が依然としてAI生成コンテンツに不気味の谷効果を感じていることを浮き彫りにしたが、このキャンペーンは多くのブランドが避けるであろうオールインのアプローチも表している。代わりに、AIを断片的かつ微妙な方法で活用して、特殊効果を加えたり、撮影時間を短縮したりすることもできるだろう。
「『生成AIを活用しました』と大っぴらに言うわけにはいきません。実際、生成AIをある程度隠しているようなものです」と、アノマリーの新興エクスペリエンスおよびテクノロジー担当グローバル責任者、クリス・ネフ氏は語る。
マーケティング担当者がAI戦略の改良に努める中、大手デジタルプラットフォーム、スタートアップ企業、代理店が製品の拡張を競い合う。選択できるツールの数は膨大だ。2025年は、誇大宣伝より実利が求められるようになるため、選択肢が絞られる。より大規模で成熟したAI企業が勝利する可能性が高い。
カンポ氏は「淘汰が始まってくるでしょう。また、世の中のあらゆる製品に『AI搭載』という売り文句が付けられていた時代が終わりに近づいていると予想しています」と言う。
(続く)
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