LINEヤフーの「検索広告」「ディスプレイ広告」「データソリューション」 進化のポイントを整理する:「LINEヤフー BIZ Conference」レポート
新生LINEヤフーにおいて既存の「LINE広告」「Yahoo!広告」はどうなるのか。戦略発表会で語られた主要な変更点を紹介する。
「Connect One」構想(関連記事:「『LINEヤフー』発足で企業のマーケティングはどう変わる?」)を掲げ、広告事業を刷新したLINEヤフー。本稿では2023年10月2日に開催された広告主・広告代理店向けの戦略発表会「LINEヤフー BIZ Conference」で明らかになった、デジタル広告とデータソリューションの領域におけるアップデートについてまとめる。
2つの広告プラットフォームを統合し、「LINEヤフー広告(仮)」に
旧LINEは、メッセージングアプリ「LINE」内のトーク一覧である「トークリスト」やショート動画SNS「LINE VOOM」、「LINE NEWS」をはじめとするLINE内のさまざまなサービスで掲出可能なディスプレイ広告「LINE広告」を提供してきた。データ領域のプロダクトには、LINEの各サービス間をクライアント企業のファーストパーティーデータと統合して管理・活用するための基盤である「ビジネスマネージャー」やトレジャーデータと共同開発したデータクリーンルームなどがある。
一方、旧ヤフーには、「Yahoo! JAPAN」トップページや「Yahoo!ニュース」など各サービスに掲出可能なディスプレイ広告、Yahoo!検索の検索結果に表示できる検索連動型広告などを提供する「Yahoo!広告」があった。データ領域では、検索データや位置情報データなどのビッグデータを基に一般消費者の興味・関心を可視化するためのリサーチツール「DS.INSIGHT」や、データクリーンルーム「Yahoo! Data Xross」などを提供してきた。
LINEは約9500万、Yahoo! JAPANはPCアプリを合わせて全メディア約8500万(PCアプリの重複は除く)と、いずれも国内トップクラスのリーチを誇る。今後、両者の広告およびデータ領域のプロダクトは統合され、「LINEヤフー広告(仮)」としてワンソリューションで提供される。LINEヤフー広告は検索広告とディスプレイ広告を配下に持ち、タッチポイント間の最適化を可能とする。LINEヤフー広告におけるConnect One構想のハブとなるのが、先述したデータ活用基盤のビジネスマネージャーだ。今後はLINEだけでなくYahoo! JAPANのデータも統合管理可能になる。ビジネスマネージャーを含むデータ領域のプロダクト群は「LINEヤフーデータソリューション(仮)」として統合され、ビジネスマネージャー以外のプロダクトについてもLINEとYahoo! JAPANのオーディエンスデータを接続して両者を横断した分析を可能にする。そして、データソリューションから得られたインサイトを広告やLINE公式アカウントでシームレスに活用可能とになる。
LINEヤフー執行役員でマーケティングソリューションカンパニー マーケティングPF統括本部統括本部長の齋藤菜津子氏は「日本最大級のリーチに対してワンストップでアプローチができ、LINEヤフーのメディアから発生する多種多様なデータやLINE公式アカウントに保持しているユーザーデータを検索広告やディスプレイ広告で横断活用できる。それを予算、クリエイティブ、分析結果の一元管理可能な基盤によって、シンプルな運用が可能になる。そのような価値を提供していきたい」と語る。
新たな価値提供は3段階で開始
LINEヤフー広告およびLINEヤフーデータソリューションにおける新たな価値提供は3段階に区切って段階的に提供を開始する予定だ。
- データ連携:2023年10月4日にLINEとYahoo! JAPANのアカウント間連携が開始。データの相互利用が可能になる。まずは20241月以降、Yahoo! JAPANのデータを使ってLINE上での広告を配信できるようにする。
- ディスプレイ広告プラットフォーム、データソリューションの統合:2つのディスプレイ広告のプラットフォームを統合してLINEとYahoo! JAPAN両メディアのタッチポイントへの広告出稿を可能とする。これにより、運用コストの削減とディスプレイ領域の効果の最大化を実現する。データソリューションも統合し、1つの環境で分析、データ活用ができる基盤を構築する。
- ディスプレイ広告と検索広告の融合:これによって、検索連動型広告も含めての予算管理最適化を可能とする。
この3段階を経て、ユーザーの行動に合わせた最適な広告配信の実現を目指すLINEヤフー。プロダクトの具体的なアップデートも着々と進んでいる。
検索広告の進化:新フォーマット開発や生成AIによるクリエイティブ自動生成も
LINEアプリの中のあらゆる動線から検索行動をつなぐ。すでに2023年6月にLINEニュースからYahoo!検索への連携を開始している。これより数億レベルのトラフィックが新たに生み出されており、今後はトーク画面からの検索など、新たな検索動線の開発を検討している。その中で、テキストリンクだけではなく、より分かりやすくユーザーの知りたいに最適な検索結果を返せるようなユーザー体験を提供していきたい考えだ。
新しい広告フォーマット
具体的には、以下のようなプロダクトを追加する。
- ブランドサーチ広告:特定のブランド検索の結果に、そのブランドの商品画像を表示する(提供中)
- ショッピングサーチ広告:検索した商品を簡単に比較できるショッピングモジュールが掲出されているところに同じフォーマットの広告を掲載する(2023年11月リリース予定)
- 画像オプション:検索連動型広告で、掲載されるテキストの下に商品やサービスの特徴を載せることで、より分かりやすくユーザーに訴求できるようにする(2024年3月リリース予定)
生成AIを活用したクリエイティブの自動生成
フォーマットの追加だけではなく、運用面の負担軽減にも取り組む。その一環として、生成AIを活用した広告テキストのクリエイティブの自動生成の提供を開始予定だ。商品の訴求軸などをインプットすることで、簡単に複数のクリエイティブパターンを作成することが可能になる。また、Yahoo!広告の過去のクリエイティブやパフォーマンスに関するデータがファインチューニングされたAIを用いることで、汎用的な生成AIよりも高い効果が期待できるという。こちらは2024年3月リリースを予定している。
ディスプレイ広告の進化:新広告プラットフォームの4つのメリットとは?
ディスプレイ広告は現在、LINEとYahoo! JAPANいずれも予約型と運用型の2種類の広告を販売している。2023年から2024年にかけてはそれぞれの機能アップデートを引き続き行っていくが、同時にユーザーアカウント連携のスタートによって両プラットフォーム間でのデータを相互利用した追加機能もリリースする。そして2025年度を目標に、Yahoo!広告とLINE広告を統合した新しいディスプレイ広告プラットフォームを提供予定だ。
短期的な取り組み1:Yahoo!広告のアップデート
Yahoo!広告における短期的なアップデートの1つ目はスマートターゲティングだ。従来、ターゲティング対象は人が考えて設定するのが前提だったが、プラットフォームが機械学習によってコンバージョンする可能性が高いユーザーを判定してターゲティングの自動化を実現する。類似拡張機能のように、事前にコンバージョンユーザーなどのシードリストを用意する必要もなく、随時学習しながら配信対象をコントロールするのが特徴。既に2023年8月にベータ版をリリースしており、2024年3月には正式にリリース予定だ。
2つ目がサーチキーワードターゲティングの刷新。Yahoo!広告では特定のキーワードを検索したユーザーへのターゲティングが可能だが、これまではターゲティングしたい検索キーワードを手動で一つ一つ選択する必要があり、手間がかかっていた。これを、フリーワードで入力した内容をそのままターゲティング設定できる指標へ変更することで、設定工数が大幅に改善する。また、機械学習を用いたロジックでターゲティング対象となるキーワード群を選定するため、高いパフォーマンスが期待できる。
短期的な取り組み1:LINE広告のアップデート
1つ目が、先述のスマートターゲティングと同様の機能である「フォートターゲティング」の実装だ。既にクリックする可能性が高いユーザーへの自動ターゲティングを提供しているが、2023年12月にはコンバージョン目的に対しての自動ターゲティングに対応可能にする予定だ。
2つ目がトークリストの動画対応。トークリスト上部の広告枠に動画フォーマットも追加する。現在は通常の運用型広告でトークリストワークに動きがある広告を掲載したい場合、アニメーションフォーマットとして特殊な形式で入稿する必要があったが、今後は汎用的な動画フォーマットでも掲載できるようになる。これにより、既存の動画広告素材をトークリストに対しても手間なく掲載できるようになる。こちらは2023年12月のリリースを予定している。
このような機能アップデートはこれからも引き続き行っていきつつ、新たにユーザーアカウント連携によるデータを相互利用した機能アップデートも行っていきます。
短期的な取り組み3:ユーザーアカウント連携によるデータの相互利用
ユーザーのアカウント連携が進むことで、各広告プラットフォームを横断したデータ活用が可能になる。具体的にはまず2つの新機能を提供する。
1つ目は、ビジネスマネージャーによるユーザーリスト連携だ。一部広告主限定で、Yahoo!広告限定してカスタマイズしたセグメントを用いてターゲティング配信ができるサービスを提供しているが、そちらで作成したセグメントへ、LINE広告やLINE公式アカウントでもターゲティング配信ができるようになる
これによって、Yahoo!の保有するビッグデータを活用した配信がLINE広告でも可能になる。2020年1月にスモールスタートし、順次提供範囲を拡大する。
2つ目は、オーディエンスセグメントの利用だ。LINE広告の管理画面内でYahoo! JAPANのオーディエンスデータの利用が可能になる。これを使って購買意向(業種別)、興味・関心、属性・ライフイベント別に約550のセグメントが設定できる。2024年3月の実装を予定している。
中長期の取り組み:広告プラットフォーム統合
現存するYahoo!広告とLINE広告それぞれに予約型と運用型の広告メニューがあるが、それらを統合することで、日本最大級のユーザーリーチが可能かつLINEヤフーのさまざまなマーケティングプロダクトの相互連携が実現することは既に述べたが、具体的には、以下4つのメリットが期待できる。
- 運用工数の削減:現在、Yahoo!広告、LINE広告それぞれに対して発生している作業が1つで済む
- パフォーマンスの向上:現状ではYahoo! JAPANとLINEそれぞれの広告配信システムがそれぞれの保有するデータで機械学習を行い、配信制度を日々改善し続けているが、プラットフォームが統合することにより、両者のデータを1つにまとめて活用できることとなり、広告パフォーマンスの飛躍的な改善が期待できる
- ユーザーとのコミュニケーションの改善:プラットフォームが1つとなることで、Yahoo! JAPANとLINEの各メディアを横断したリーチやフリーケンシーのコントロールが可能になる
- 接触ユーザーの解像度アップ:LINEでどんな公式アカウントを利用していて、Yahoo! JAPANでどんなキーワードを検索して、どんなニュース記事を日々閲覧して、LINE Voomでどんな動画を視聴しているかというように、ユーザーの行動のトラッキング範囲が拡大されることで、広告配信結果に対するユーザーの分析をより色濃く行うことができる
データソリューションの進化:ストックとフロー、データソリューション自体のAI活用
LINEヤフーデータソリューションが保有することになる1億以上のユーザーデータを使ってどのようにマーケティングを高度化していくのか。LINEヤフーでは「ストックとフロー」というコンセプトを掲げる。
- ストック:データを蓄積することで自社の状態をもれなく把握
- フロー:需要にタイムリーに対応できるシームレスな支援
データソリューションに関してはLINE公式アカウントを中心に、各種データをストックしておける場を用意し、データをどんどん蓄積していく。それによって、単発の施策の都度のよしあしだけではなく、蓄積したそれぞれのデータを時系列で比較するなど、俯瞰的な評価ができる。
フローの観点では、これまでよくあったインサイトが施策につながらないという課題に対し、ストックされたデータに基づいて需要にタイムリーに対応できる、分析からアクションまでの機能がシームレスにつながった状態を作り上げていく。
LINEヤフー DS.INSIGHT(仮)
Yahoo! JAPANのビッグデータデータを活用したリサーチツールであるDS.INSIGHTは「LINEヤフー DS.INSIGHT(仮)」となる。まず、これまでよくあった、行動ログだけではユーザーの考えまでなかなか理解できないという課題に対処するため、LINEユーザー約650万人(2023年7月時点)を調査パネルとするリサーチプラットフォーム「LINEリサーチ」との連携を進める。ここから得られる定性データとDS.INSIGHTのデータを掛け合わせることで、ユーザー理解の解像度をさらに高めて施策立案に生かすことができる。
次に、LINE公式アカウントとの連携が可能になる(2024年度に実装予定)。DS.INSIGHTのUIを使って公式アカウントとつながったユーザーごとのLTV(顧客生涯価値)を可視化し、データを基に作成されたペルソナにも簡単にアクセスできるようにする。ペルソナを基に広告配信をする際もボタン1つで出稿画面に遷移できるというような仕組みを実現する予定だ。
LINEヤフーData Clean Room
Cookieレスの時代にファーストパーティーデータを活用した正しい効果測定が課題になっている。その解決手段としてこれまでLINEおよびYahoo! JAPANはトレジャーデータと協働でデータクリーンルームを開発してきた。これを2025年度には1つのツールとして完全統合する予定だ。
データソリューション自体のAI活用
LINEヤフーはデータソリューションを広告・マーケティング部門だけでなく、商品企画部門やCRM部門でも活用してほしいと考えている。一方で、企業にはデータ活用を阻むさまざまな課題(縦割り組織、人材不足など)がある。これを解決するのは、AIだ。データをストックしていくことで、そこで動くAIはより賢くなっていく。データソリューション自体がAIを活用でき、人の仕事をより付加価値の高い領域へ移行させる。具体的には以下の3つの点でAI活用を進めていく。
- 分析結果の解釈:分析はできたが解釈ができないようなケースでAIが解釈を支援
- アクション指示:解釈の結果を受けたアクションを提案
- 対話型分析:単にプロンプトを入力するのではなく、話しかければ答えてくれるとことまで目指す
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