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「LINEヤフー」発足で企業のマーケティングはどう変わる?「LINEヤフー BIZ Conference」レポート

新生LINEヤフーが広告事業において掲げる「Connect One」構想とはどのようなものか。2023年10月2日に開催された戦略発表会の内容を基に、重要なポイントをまとめた。

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 2023年10月1日に旧Zホールディングスが傘下の4社(LINE、ヤフー、Z Entertainment、Zデータ)との経営統合手続きを完了し、「LINEヤフー株式会社」として再出発した。翌2日にはマーケター向けのイベント「LINEヤフー BIZ Conference」を開催。これからの広告事業に関する戦略を発表した。本稿では、新生LINEヤフーが掲げる「Connect One」構想と、LINE公式アカウントおよび販促領域におけるアップデートについて紹介する(デジタル広告におけるアップデートについては別途レポート予定)。

LINEヤフーが解像度の高い顧客理解を実現するための4つのポイント

 今日、顧客接点の多様化や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行に伴う人々の意識・行動変化、Cookie規制をはじめとした制度変更などを背景に、マーケターが消費者像を捉えることがますます難しくなっている。

 LINEヤフー上級執行役員で同社マーケティングソリューションカンパニーのカンパニーCEOを務める池端由基氏は、「見えなくなった顧客、見えなくなろうとしている顧客をもう一度見えるようにする。つながれなくなった顧客ともう一度つながれるようにする。多岐にわたる生活スタイルを理解しながら、継続的に消費者・顧客と向き合い、LTVを最大化していくためのソリューションが必要。われわれLINEヤフーはその答えになりたい」と、意気込みを語った。


LINEヤフーの池端由基氏

 メッセージングアプリ「LINE」のMAU(月間アクティブユーザー数)は約9500万、「Yahoo! JAPAN」の月間ログインID数は5430万だ。のべ1億人を超える巨大なユーザー基盤を保有するLINEヤフーだが、本質は「足し算」より「引き算」にあると言える。つまり、これまで別々の存在として管理されていたLINEとYahoo! JAPANの両アカウントを統合し、シングルソースとすることで、顧客理解の解像度を高めていけるということだ。池端氏は、そのために必要なこととして以下の4つのポイントを挙げた。

  • ユーザーアカウントの連携
  • 企業アカウントの共通化
  • データソリューションの統合
  • 広告プラットフォームの統合

 まずは2023年10月4日スタートするLINEとYahoo! JAPANのユーザーIDの連携。これによって、LINEとYahoo! JAPANそれぞれが提供するさまざまなサービスを利用するユーザーを、1人の人として把握できるようになる。例えば、Yahoo!ショッピングで商品を検索した人がLINE公式アカウントの友だちなのかどうか、広告に接触したことはあるのか、店舗に訪れたことはあるのかといったカスタマージャーニーを可視化できるようになる。加えて2つ目の企業ID共通化で、1人のユーザーと1つのブランド・企業が一対一の関係となって、全ての活動がつながってくる。「データがつながり、LINEヤフー経済圏のCDP(カスタマーデータプラットフォーム)が構築されていく」と池端氏は言う。3つ目が、データソリューションの統合。つながった全データを一元管理し、統合、分析ができるような環境を提供する。それらを基にLINEヤフー全てのメディアを横断して最適な広告コミュニケーションを設計しようというのが4つ目の広告プラットフォーム統合だ。

 「われわれは広告の枠を超えた経済活動やビジネス全般を支援するソリューションを多く保有している。さまざまな消費者のライフスタイルに寄り添いながら継続的に関係を維持してLTVを最大化していくためには、広告というコミュニケーション手段に限らず、さまざまな手法を駆使してユーザーとコミュニケーションが取れる環境が必要。だから、目指すべきはマーケティングを超えて皆さまのビジネス全般を支援できるプラットフォームの構築だ」と池端氏は語る。

Connect One構想とは?

 豊富なプロダクト群をLINE公式アカウントを中心に再構築し、あらゆる接点でユーザーをストックし、そこから広告、販促、CRMといった機能を一気通貫で利用できるようにしてユーザーのLTVを最大化するためのビジネスプラットフォーム、それが「Connect One」構想だ。2024年から段階的に機能を提供開始予定のこの構想についてはLINEヤフー上級執行役員マーケティングソリューションカンパニー カンパニーCPOの二木翔平氏が解説した。


Connect One構想(出典:LINEヤフー)

 「Connect One構想はこれまでの施策とデータ(エンゲージメントやLTVなど)が積み上がって可視化されていく、ストック型プラットフォーム」と二木氏は説明する。LINEヤフーのあらゆるタッチポイントを使ってフルファネルでキャンペーンが実現できるのはもちろん、その時々でユーザーのサービス利用情報(ユーザーが利用を許諾したものに限る)を蓄積し、使えば使うほどユーザーがストックされ、キャンペーンの効果も上がっていくのだ。


管理画面のイメージ(出典:LINEヤフー)

 Connect One構想は2023年10月のアカウント連携から始まり、続いて2024年にLINEヤフーのビジネスソリューションと公式アカウントの連携が段階的に始まっていく。

LINE公式アカウントの進化

 Connect One構想の中核となるLINE公式アカウントのアップデート予定については、LINEヤフー執行役員マーケティングソリューションカンパニー カンパニーCTOの垣内秀之氏が語った。

 垣内氏によればLINE公式アカウントの現在の利用実績(2023年8月時点)は約44万アカウント。前年比111%と、順調に成長を続けているということだ。LINE公式アカウントとつながっているユーザー数も前年比で111%、メッセージ総配信数も109%と増加している。


LINE公式アカウント利用実績の成長(出典:LINEヤフー)

 LINE公式アカウントにおいては、店舗を中心に「LINEミニアプリ」の活用も広がっている。デジタル会員証やモバイルオーダー、順番待ちなど、さまざまな用途でサービスが提供されており、サービスリリース数は2023年8月時点で1万件を超えた。利用者は累計3600万に上る。今後の主な機能アップデートは以下の3点だ。

  • メッセージ配信
  • 店舗DX
  • マネタイズ

メッセージ配信:公式アカウントからのメッセージがシェア可能に

 まず、メッセージ機能。従来のメッセージ配信は、ユーザー一人一人がLINE公式アカウントからメッセージを受け取るだけで、そこからの拡散性はほとんどなかったが、今後は企業からのメッセージをユーザー間でシェアできるようになる。また、企業の運用効率化の観点では、さまざまな条件でメッセージを自動配信するステップ配信や複数アカウントの運用に役立つグループ管理機能などを強化する。さらに、現在提供しているリッチメッセージやカードタイプメッセージに加え、より多彩な表現ができるようなメッセージフォーマットの拡充を構想中だ。具体的には、送信済みのメッセージの内容の一部を後から更新できるようにしたり、人数限定のクーポンの残り人数を表示したり、友達にシェアすると有効になるクーポンメッセージを作ったりできるようになる可能性がある。

店舗DX:LINEミニアプリの機能強化

 次に、店舗DX領域では、LINEミニアプリのさらなる機能強化を図る。その一例が、現在PayPayと協議を進めている「LYPマイカード」だ。これはLINEミニアプリ上に、決済の機能を含めた店舗で使えるさまざまな機能を集約し、店舗を持つ企業に提供するもの。PayPay支払いやPayPayポイントと連動した会員証であったり、来店時にポイントや商品券が当たる来店促進の機能などの提供を考えている。

マネタイズ:「メンバーシップ」と「トークルーム広告」

 マネタイズ機能については2つのアップデートがある。1つ目は、2023年1月に提供を開始した「メンバーシップ」。LINE公式アカウント上で有料会員プランを作ることができ、サブスクリプションを購入したユーザーをメンバーとして管理できる機能だ。オンラインレッスンの課金やファンクラブの運営、飲食店の会員サービスなどの用途で利用できる。今後はこの機能を他のサービスや外部ツールと連携するためのメンバーシップAPIの提供も準備中だ。2つ目が「トークルーム広告」。LINE公式アカウントのトークルームの画面上部に広告を表示することができるようになり、それによる収益を得ることができる機能だ。特に、エンタメとしての情報発信や便利なツールを提供しているアカウントなどの収益化に活用できそうだ。2023年10月から提供開始を予定しているが、すでにテスト運用で実績も出てきているようだ。

LINE公式アカウント運用を生成AIで支援する「AI Prompt Manager」

 垣内氏は最後に、LINE公式アカウントでの生成AIの活用について紹介した。具体的には顧客対応と運用サポートの2軸での活用を想定しているということだ。日々寄せられる問い合わせに対する応答を自動化したり、あらかじめ商品カタログデータや在庫情報を連携しておくことでECや店舗における商品のリコメンドをAIが行ったり、また飲食店などの予約受付、確認、変更ができるような世界を考えている。運用サポートにおいては、AIによる効果的なメッセージの生成や、リッチメッセージなどに利用できるクリエイティブ生成などを想定している。また、管理画面上で提供している分析データをAIの力でより簡単かつ詳しく読み解けるようにすることも予定している。

 生成AI活用の取り組みの第1弾として。2023年10月中のリリースを予定しているのが「AI Prompt Manager」だ。LINE公式アカウントのチャット画面で、ユーザーの問い合わせに対してAIが応答内容を生成する機能で、まずは、一部の企業様限定でリリースする。初期段階では、AIが生成した応答案をオペレーターに対して提示し、オペレーターがそれを利用して返信することができる機能として実装する。これにより、オペレーターは返信を効率的に行えるようになり、工数削減につながる。設定画面では、プロンプトを編集可能で、AIが生成する応答のトーンやキャラクターをカスタマイズできる。また、テキストデータのアップロードやWebサイトURLを登録することで、AIが参照すべき情報を追加できる。例えば、既存のFAQページのURLを登録しておけば、ユーザーのよくある質問に対して正しい応答を生成できるようになる。「今後は、自動応答や商品レコメンド、予約対応など、できることの幅を広げていく。まるで企業やお店のスタッフの一員のように、AIがLINE公式アカウントで接客をする世界を目指していきたい」と垣内氏は締めくくった。

「ストック型販促」で実現すること

 次に、販促機能のアップデートについて、LINEヤフー マーケティングソリューションカンパニービジネスPF統括本部販促事業本部本部長の岡田憲氏が説明した。これまで、LINEとYahoo! JAPAN、PayPayはそれぞれ個々にサービスを提供してきた。しかし、「今後は3サービスの強みをコネクトし、単発の施策で終わらせないストック型販促へと進化させていきたい」と岡田氏は考えている。

 単発のキャンペーンはその場限りの売り上げ増にとどまり、販促効果が継続しないという課題がある。LINEヤフーはユーザーの購買データをストックし、買い物行動を理解した上で、欲しい情報を適切なユーザー接点で継続的に提供していく。そうすることで、ユーザーの日常生活に溶け込んだ形で、販促対象の商品のLTVを高めていくのが狙いだ。

LYPマイレージ

 この考え方に沿って、2023年3月に立ち上げたのが「LYPマイレージ」だ。対象商品を購入するとマイレージがたまり、条件を達成するとPayPayポイントがもらえる仕組みで、対象商品の継続的な購買を促すためのサービスだ。これまで400万人近くの人がこれを使って商品を購入している。アサヒが「十六茶」の販促でLYPマイレージキャンペーンを実施した際には、期間中の前年同期比の売り上げリフト率が市場全体の売り上げリフト率より16ポイントも高いという結果が出ている。今後はこの対象店舗を増やしていくことで、よりインパクトのある効果が得られるサービスに成長させることを目指す。

キャンペーン応募手段の拡充

 ストック型販促実現に向けた取り組みの1つ目は、より多くの購買ユーザーとつながること。ストックできる購買データの数を最大化することで、継続的にコミュニケーションしていくための分母を増やしていく。1億人を超える日本最大級のユーザー基盤の上で、できる限り数多くの購買データをストックしていくために、まず初めに実現したいのが、キャンペーン応募手段の拡充だ。PayPay支払いによる応募とレシート応募のいずれかをユーザーが選べるなど、1つのキャンペーンでさまざまな応募手段が使えて、誰でも参加できるような設計を可能にすることで、より多くのキャンペーン経由の購買データを補足していける状態を作りたいと考えている。

 キャンペーン購買だけでなく、日常の買い物の購買データの捕捉も視野に入れている。そのために必要になるのが、ユーザーの同意を得た上で購買データをリアルタイムで収集していく仕組みだ。この目的で2022年末に立ち上げたのが「LYP販促コンソーシアム」だ。これは、メーカー、小売業、LINEヤフー、PayPayが共同で購買データのリアルタイムPOS集計を検討・推進する取り組みで、すでに一部の小売業では購買データのリアルタイム連携がスタートしている。

ワンツーワンの買い物体験

 ストック型販促の実現に向けた取り組みの2つ目は、LINEヤフーのメディアやデータを組み合わせて、ユーザーの日常の買い物行動に寄り添った最適な情報を届けること。つまりワンツーワンの買い物体験の提供だ。例えば「Yahoo!ニュース」読者でビールが好きで日常的にスーパーで買い物をしているユーザーがいるとしたら、新しいビールの販促施策を打つ場合、Yahoo!ニュースで発売を告知して商品に興味を持ってもらい、よく行くスーパーで買い物している際にデジタル店頭POPソリューション「LINE POP Media」でキャンペーンの存在を知ってもらい、その場でPayPayで購入するだけでポイントを付与していくといったことが実現できる。あるいは、お得情報に敏感なユーザーに「LINEチラシ」でキャンペーンを紹介し、レシートで応募してもらい、その購買金額をLYPマイレージに反映することで、リピート購買を促していくといったことも可能になる。

ワンストップの販促プラットフォームである意味

 ストック型販促の実現に向けた取り組みの2つ目が、継続的にPDCAサイクルを回して商品のLTVを上げていくことだ。これまで、ワンツーワンの買い物体験の提供は、実際にやろうとすると簡単ではなかった。さまざまなオファー(特典情報)を用意してから個別に告知プランを考える必要もあったし、ツール自体がバラバラでは統合的な分析や横断的な活用も難しかった。そこでLINEヤフーは、ワンストップの販促プラットフォームを実現することでこの課題を解決したいと考えている。キャンペーン設定、配信、分析を同一画面上で一元的に管理できるようにする構想だ。広告の世界で実現した運用型広告の取り組みを販促の世界で実現するものとも言える。まずは購買ステータスなどからターゲットを設定してもらい、ターゲットごとに、目的に応じてオファーを決めてもらった上で、配信先を幅広い接点のうちから選択するという具合だ。予算やCPA(獲得コスト)などを設定して実行すると、設定された販促オファーが条件に合ったユーザーに、指定された配信先を通じて届くことになり、キャンペーンの成果はタイムラグなく集計され、購買レポートにて把握できる。その結果に合わせて、配信先を変更したり、さらなる施策投下の検討を行ったりできるようになる。こうした構想を実現していくために重要になるのが、LINEとPayPayのアカウント連携。こちらは2024年度中に開始予定だ。

目指すは「四方良し」の世界

 ストック型販促の実現を通じて、LINEヤフーが目指すのはいわゆる「三方良し」ならぬ「四方良し」の世界。つまり、販促活動に関わる全てのステークホルダーにとってポジティブな仕組みの確立だ。

 「LINEヤフーのアセットをフルに活用して、ユーザーの解像度を高めながら、メーカー、リテール、パートナーの皆様とこれからも協議を重ねて、四方良しになるサービスとは何か、突き詰めていきたい」(岡田氏)

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