企業コミュニケーションの「ニューノーマル」を語ろう:エキスパートが語り下ろすモダンマーケティングの論点(1/2 ページ)
マーケティングやPRの従事者は今、かつてない難問を突きつけられている。「3密」回避などの視点から宣伝・広報活動が制限されたり、そもそもビジネス事態がストップしてしまっていたりすることさえある。コロナ禍における情報発信はいかにあるべきか。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の脅威は、経済や社会の在り方を大きく変えてしまった。先の見えない状況が続き企業活動も変化を求められている。
マーケティング・PRの領域も例外ではない。「人との接触機会を減らす」が合言葉になる中では対外的に打ち出すメッセージの中身も伝え方も変わってくる。より直接的には、ステークホルダーとのコミュニケーションの方法を変えざるを得なくなっているという課題もある。コロナ禍でリアルイベントの開催や展示会への出展は封じられた。記者発表会さえもオンライン化が当たり前になりつつある。
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大きな変化はピンチであると同時に、新しいやり方を生み出し拡大するためのまたとないチャンスにもなり得る。企業コミュニケーションの「ニューノーマル」はどうあるべきか。PR業界を専門とするグローバルメディア「PRWeek」において「世界で最も影響力のあるPRプロフェッショナル300人」に選ばれ、「戦略PR」の提唱者として知られるPRストラテジストの本田哲也氏が語った。
本田哲也
ほんだ・てつや 本田事務所 代表取締役/PRストラテジスト。成長型PR人材データベース「SCALE Powered by PR」ファウンダー。セガの海外事業部をへて1999年、世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードの日本法人に入社。2006年にスピンオフのかたちでブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。P&G、花王、ユニリーバ、アディダス、サントリー、トヨタ、資生堂など国内外の企業との実績多数。2019年より、株式会社本田事務所としての活動を開始。著書に『戦略PR』(アスキー新書)、『その1人が30万人を動かす!』(東洋経済新報社)、『ソーシャルインフルエンス』(アスキーメディアワークス)、『最新 戦略PR 入門編』『最新 戦略PR 実践編』(KADOKAWA)、『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。
ブランドメッセージが「不要不急」と言われないために
新型コロナウイルス感染症は、社会の構造を劇的に変えてしまう力を持つ、まさに100年に1度の大きな脅威です。パブリックリレーションズとはつまり、自社と世の中をつなぐことにあります。だから世の中の在り方が変わるというときには、広報も変わらざるを得ません。
変化は現場でもはっきりと表れています。今回、本田事務所は総合PR会社のベクトルと共同運営するPR人材データベース「SCALE Powered by PR」登録者を対象に、「コロナの時代の広報」に関するアンケート調査を実施しました。その結果、回答者の81%が「広報活動に影響が出ている」と答えています。また、コロナ前後で「広報のやり方が変わる」と思っている人は93%に上りました(関連記事)。
現在のコロナ禍で具体的に何が変わろうとしているのか。一言で言えば広報活動の本質性が問われるようになってきたということです。
広報の重要な機能の1つであるメディアリレーションズを例に考えてみましょう。これまでのメディアリレーションズの王道とは、対面でのやりとりでメディアと相互理解を深め、関係を構築することでした。ときには飲食を共にするなどして懇意になることもあったでしょう。あるいは、営業の世界でいう「キャラ売り」のように、自分の個性を記者に印象付けることでメディア露出を増やすことを得意とする人もいたと思います。
しかし、多くのメディアが取材活動の中心をオンラインにシフトさせている現在、それらのやり方を続けることは困難になってしまいました。一種のなれ合いで動いていた部分がなくなり、広報の提供価値は純粋に発信する情報の中身だけで判断されるようになったわけです。
企業が社会に向けて情報を発信するとき、広報は世の中の流れや時流を考える必要があります。非常事態においては大概のことは「不要不急」と見なされてしまう。だからこそ「今この情報を発信する意味は何か」「この情報にはどんな価値があるのか」をより明確に伝えなくてはいけない。その意味でまさに今、広報活動は本質に回帰しようとしているのです。
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