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日本におけるカスタマーサクセスは「夜明け前」 これから乗り越えるべき3つの壁とは?「青本」訳者が語る

日本におけるカスタマーサクセス推進の鍵は「期待値コントロール」と「日本人の特性を踏まえたアプローチ」にある。話題書『カスタマーサクセス』の訳者が語った。

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 表紙の色から「青本」と呼ばれ、カスタマーサクセスの導入書として多くの支持を得ているのが『カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』(英治出版)だ。

 訳者であるバーチャレクス・コンサルティング(以下、バーチャレクス)執行役員の辻 大志氏は同書冒頭の「訳者まえがき」において、カスタマーサクセスを「多くの企業にとって極めて深刻で緊急性が高く、もはや避けることのできない絶対的な命題」と位置付けている。

 CRMを事業ドメインとしてコンサルティングなどのサービスを提供するバーチャレクスは、顧客に寄り添い伴走者となることでその成果に貢献してきたという自負がある。いうなればカスタマーサクセスという言葉が登場する前からカスタマーサクセスに取り組んでいたというわけだ。そんな同社でも、「青本」に最初に触れたことで、自社の課題発見につながったという。

 本稿では、辻氏と共に同書の翻訳に当たったバーチャレクス執行役員・ビジネスインキュベーション&コンサルティング部長の森田智史氏が「ITreview2019」(2019年11月6日にアイティクラウドが開催)で講演した内容を基に、日本におけるカスタマーサクセスの現状とこれからの課題をまとめた。


森田智史氏

日本におけるカスタマーサクセスの現実

 青本によるとカスタマーサクセスは以下のような数式で表すことができる。

CS(Customer Success:カスタマーサクセス)=CO(Customer Outcomes:顧客の成果)+CX(Customer Experience:顧客体験)


 バーチャレクスではここにCA(Customer Advocacy:コミュニティー形成、ファン化、ロイヤルティー化)とCG(Company’s Growth:企業の成長)という2つの要素を加え、カスタマーサクセスを「顧客に最適な体験と成功を提供することを通し、顧客と共に自社も成長し続けられる関係を構築すること」と定義している。


カスタマーサクセスとは(出典:バーチャレクス・コンサルティング、以下同)《クリックで拡大》

 SaaSをはじめとするサブスクリプション型のビジネスが拡大したことで、日本でもカスタマーサクセスに注目が集まるようになった。森田氏によるとGoogleにおける「カスタマーサクセス」というキーワードの検索回数は2018年3月から2019年7月の間に約15.5倍に増えており、カスタマーサクセスへの関心の高まりがうかがえる。

 こうした流れの中、バーチャレクスはクラウドサービスのレビュープラットフォーム「ITreview」を提供するアイティクラウドとカスタマーサクセス領域での協業を開始している。2019年3月には両社で日本におけるカスタマーサクセスに関する実態調査も実施した。

「カスタマーサクセス元年」はまだ訪れていなかった

 バーチャレクスでは調査結果を4つのポイントで整理している。

1. 「カスタマーサクセスが何かよく知っている」人はわずか3%

 急速に浸透しているように見えるカスタマーサクセスだが、ビジネスパーソン26000人超にその認知度を聞いたところ、「聞いたことがある」は13.7%、「カスタマーサクセスが何かよく知っている」人に至ってはわずか3%だった。

 こちらは既にITmedia マーケティングでも紹介している通り(関連記事「『カスタマーサクセス』を熟知する人はたった3%――バーチャレクス・コンサルティングとアイティクラウドが調査」)。特に国内系企業に勤務する人の間での認知度はまだまだ低い。


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2. 必要な概念と理解しつつも進めていくに当たっての不安が推進の障壁に

 カスタマーサクセスに着手する上での課題は人材と組織。そしてそもそも、どこから着手してよいか分からないということにある。

 勤務先がカスタマーサクセスに取り組む意向がある人を対象に取り組みを始めるに当たっての不安や課題を聞いたところ、人材や組織体制を挙げた人が約3割と最も多く、何から着手していいか分からないとした人も約2割いた。


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3. 「取りあえず着手」が成功の鍵になる

 カスタマーサクセスを導入している企業における取り組み効果については、専業で取り組んでいる人の7割以上、兼業で取り組んでいる人も6割近くが効果を感じていると回答している。また、取り組み前に多くの人が課題として挙げる人や組織、何から手を付けたらいいか分からないという項目についても取り組みが進む中で解決していることがうかがえた。

 小さくても何らかの取り組みを始めてみることが、課題を突破するための鍵になるようだ。


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4. カスタマーサクセスの効果を感じている企業では「ヘルススコア」を重要視

 「ヘルススコア」とは、顧客が製品やサービスを使い続けてくれるか否かを把握するための指標だ。企業にとっては文字通り顧客の健康状態を測る数値であり、カスタマーサクセスの成否を分ける重要な指標といえる。

 今回の調査では、カスタマーサクセスに取り組み成果を実感している企業ほど、ヘルススコアを重要視していることが分かった。カスタマーサクセスの効果を感じることが顧客理解を促進し、顧客理解が深まることが更なる成果を創出するという好循環を生んでいる状況ができつつあるのだ。

 一方で、ヘルススコアの項目をしっかり設計することも重要だ。自社の顧客の健康度合いを何で測るのかを見誤っては、カスタマーサクセスで成果は得ることはできない。


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 以上4つのポイントから、日本のカスタマーサクセスはまだ夜明け前の状態といえるが、進取の精神に富み既にカスタマーサクセスに取り組んできる企業は、試行錯誤しながらも着実に成果を出しているといえる。

 青本の共著者の1人であるGainsight前CCO(チーフカスタマーオフィサー)のダン・スタインマン氏は「サブスクリプションが盛り上がりつつある日本では、カスタマーサクセスの波は必ず押し寄せる」とコメントしている。米国でも、SaaSやサブスクリプション企業の成功要因としてカスタマーサクセスが注目され、程なくしてカスタマーサクセスの流れが押し寄せた。森田氏も日本で同じことが起きるのは時間の問題だと見ている。カスタマーサクセスへの取り組みはもはや避けられないし、その成否が企業の生死を分ける時代がすぐそこまできているのだ。

日本企業が超えるべき3つの壁

 これから日本企業がカスタマーサクセスを本格的に導入して成果を出すためのポイントはどこにあるのだろうか。森田氏は、日本企業が超えるべき「3つの壁」を挙げる。

1. ハイタッチ至上主義の壁

 大型受注で売上目標を達成し商品を売って終わりだった売り切りモデル時代は、全ての顧客にハイタッチの対応をしていてもコストを回収できていた。しかしサブスクリプションモデルでは、多くの顧客と息長く付き合っていく必要がある。そうなると、全ての顧客にハイタッチの対応をするのは人的にもコスト的にも不可能となる。

 そこで必要な考え方が、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチの使い分けだ。ハイタッチ至上主義を脱して顧客に応じたタッチモデルを採ることが、より多くの顧客と密につながり続け、その結果としてカスタマーサクセスの成功につながるのだ。そのためにも、デジタルやデータで顧客の状態を客観的に把握することが重要となる。

2. 代理店モデルの壁

 サブスクリプションに続き押し寄せつつあるのが、ダイレクト化の波だ。世界的なダイレクト化の潮流を踏まえ、新興のSaaSベンダーでは国内外を問わず直販体制を前提とし、意識的に顧客と強くつながることに注力している企業も出てきている。

 一方、多くの日本の中堅・大企業は、いわゆる代理店モデルを活用することで販路を拡大し成長してきた背景もある。そのため、いまだ顧客の声を聞くこともかなわないという悩みを抱える担当者も少なくない。

 しかし、この状況を静観しているわけにはいかない。顧客接点のほとんどを代理店に持たせている企業こそ、カスタマーサクセスをどう位置付けるか、決断する必要がある。

 代理店にカスタマーサクセスも委託するのか、カスタマーサクセスは自社でやるのか、販売体制を見直して直販に切り替えるのか。重要顧客のみを直販にしてそれ以外は代理店に託すこともできるだろう。最近ではカスタマーサクセスを担える代理店も登場しているので、自社の戦略に合わせて代理店を変更するという選択もある。

3. おもてなし文化の壁

 ホテルのコンシェルジュサービスや宅配の再配達サービスが無料という日本のサービスレベルの高さは、顧客の期待値の高さにつながっている。日本で顧客満足レベルとされるサービスは欧米では顧客感動のレベルといわれている。そのため、日本でのカスタマーサクセスによる成果創出は欧米より難易度が高いことが考えられるのだ。

 アメリカン・エキスプレス・インターナショナルが2017年に世界9市場で実施した「顧客サービスについての意識調査」によれば「期待を上回るサービスを受けている」「期待通りのサービスを受けている」と答えた割合が日本は群を抜いて低い。一方で、「一度でもひどいサービスを受けたら企業を離れる」と答えた割合は突出して高い。これはカード会社の調査であるからB2C向けのサービスを念頭に置いた評価ではあるが、顧客が求めるサービスレベルの高さは基本的にB2Bにおいても変わらない。日本ではサービス導入時には慎重かつ丁寧なオンボーディングが求められ、なおかつチャーンリスクも高い。1つのミスが致命傷となるのが日本の特徴なのだ。

 ここでポイントとなるのが、期待値コントロールだ。カスタマーサクセスの実践においては、顧客にとってのサクセスの定義や期待値を正しく把握し、社内で合意形成した上で制御していくことが重要となる。

 期待値コントロールの一方で、日本人の特性を踏まえたアプローチと順序も重要だ。大切なのは、日頃の不平・不満・不安などを解消する(マイナスをゼロにする)体験を最初に提供し、その次に驚きや感動を与える(ゼロをプラスにする)体験を提供することだ。この順番を間違えると、顧客の怒りや負の感情に火に油を注ぐことになりかねないと森田氏は警告する。

顧客理解に執着せよ

 最後に森田氏は、ピーター・ドラッカーの著作『マネジメント』から、「マーケティングの理想は、販売を不要にすることである」「マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、製品とサービスを顧客に合わせ、おのずから売れるようにすることである」という2つのフレーズを引用し、「顧客がセルフサクセスできている状態こそ、カスタマーサクセスの理想形」と言い換えた。

 もちろん、そこに到達するのは容易なことではない。徹底的に顧客に向き合い顧客を深く知ることが必須だ。森田氏はその様を「執着」と表現する。顧客を知ることに執着し、顧客にとっての真のサクセスが何かを捉え続けることが求められているのだ。

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