ネットイヤーグループがNTTデータの連結子会社に――石黒 不二代氏が語るTOBの狙い:「レジ無しデジタル店舗出店サービス」などの取り組みも(1/2 ページ)
ヤフーによるZOZOの株式公開買い付け(TOB)開始が大きく報じられた2019年9月12日、別のTOBに関する発表会が開催されていた。遅ればせながらレポートをお届けする。
ネットイヤーグループとNTTデータは2019年9月12日、メディア向けの発表会を共同で開催した。
2019年2月に資本業務提携契約を締結し、株式公開買い付け(TOB)をへて3月にNTTデータの連結子会社となったネットイヤーグループだが、株主総会の前だったこともあり、その目的や背景についてこれまで経営層が直接語る場は設けられていなかった。
今回満を持して登壇したネットイヤーグループ代表取締役社長の石黒 不二代氏は冒頭、くしくもこの日に発表されたヤフーによるZOZOへのTOBを念頭に「経済波及効果は(NTTデータとネットイヤーグループの提携の方が)はるかに大きい。日本経済を支える大企業にデジタルトランスフォーメーションを起こす」と意気込みを語った。
ネットイヤーグループがNTTデータと組む理由
ネットイヤーグループは1999年の創業以来、デジタルマーケティング戦略の策定からWeb構築、データ分析、ソーシャルメディアマーケティングの企画、広告・販促などのサービスを主に大企業に向けて提供してきた。案件数は2万5000件以上、取引実績は800社に及ぶ。
一方、大手SIer(システムインテグレーター)であるNTTデータは2016年5月より流通業界を中心とした企業へのオムニチャネル導入の推進を目的として、ネットイヤーグループと協業している。
実は石黒氏は以前から両社の提携が必要と考えていたという。市場の成長スピードや成熟度、顧客やライバルの状況など鑑みてようやく機が熟し、今回の決断に至ったというわけだ。
ネットイヤーグループが本業としてきたデジタルマーケティング事業は成長が早くマーケットも順調に拡大している。だがそのスピードは「思っているほどではなかった」というのが石黒氏の本音だ。
なぜ日本の大企業ではデジタルマーケティングが進まないのか。その理由として石黒氏は以下の3点を挙げる。
- IT投資に対する考え方:既存業務の効率化やコスト削減といった「守りのIT投資」が先行し、自社の収益向上につながる「攻めのIT投資」が進んでいない。
- 組織:サイロ化した組織がバラバラに施策を実行している。業務が部門単位で最適化されており、顧客を軸とした全体最適がなされていない。
- 増え続けるテクノロジー:年々増大するマーケティングテクノロジーを統合的に活用しきれていない現状がある。ワンストップであらゆるサービスを提供できる会社がまだない。
この現状を変えるためネットイヤーグループは「最も信頼できるパートナーと組んで全てのデジタルマーケティングのサービスが提供できる会社になりたい」(石黒氏)と考え、今回の資本業務提携およびTOBを通じたNTTデータグループ入りを選択した。
ネットイヤーグループが主に顧客としてきたのは企業のマーケティング部門であり、そのトップはCMO(最高マーケティング責任者)だ。かたやNTTデータの顧客はIT部門でありトップはCIO(最高情報責任者)ということになる。2社が協業することにより顧客企業の部門間のサイロ化を乗り越え、戦略からCX(顧客体験)デザイン、システム構築まで包括的なデジタルマーケティングサービスの提供を実現したい考えだ。将来的にはマーケティングの最適化にとどまらず、企業全体のバリューチェーンを変えるDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現したいと石黒氏は意欲を見せる。
NTTデータの中にネットイヤーグループを取り込むつもりは全くない
NTTデータからは執行役員ITサービス・ペイメント事業本部長の有馬 勲氏が登壇した。小売業のデジタル化を専門に手掛ける有馬氏は「お店の役割はトランザクションを裁くところから体験を提供するところに代わる」と考えている。しかし、従来のNTTデータには「ECサイトで1秒間に500注文さばけるようにしてほしい」「動画が入るページを2000同時接続してほしい」という要望は来ても「売り上げを2倍にしてほしい」という要望は来なかった。ネットイヤーグループと提携することで初めて「売り上げを2倍にして、かつ(厳しい条件に)耐えられる」サービスを提供できるようになるという。
有馬氏は「ネットイヤーグループをNTTデータの中に取り込むつもりは全くない」と明言する。実際、ネットイヤーグループは社名も変えず上場も維持したままだ。相互に独立性を保ったまま違う能力を発揮できるようにするのが最良の選択肢になるというのがその理由だ。
また、「NTTデータだけではどうしてもシステム構成や性能設計から発想してしまう」と有馬氏は自嘲気味に語るが、逆にいえばそれは同社の強みでもある。両社のカルチャーを尊重しつつ、個性をつぶさない関係性は成功の鍵となるのかもしれない。
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