マルケト統合で新生アドビ システムズはどう変わるのか:Adobe Experience Cloudを強化(1/2 ページ)
2019年3月1日にマルケトと統合したアドビ システムズが事業戦略に関する記者説明会を実施。今後の体制が明らかになった。
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アドビ システムズ(以下、アドビ)は2019年3月6日、東京都内で事業戦略に関する記者説明会を実施した。
同説明会では、2018年10月に米国でAdobe SystemsがMarketoを買収したことに伴い、それぞれの日本法人であるアドビシステムズとマルケトも経営を統合し、マルケトの社員であったメンバーは2019年3月1日よりアドビの社員となったことが発表された。また、マルケトの代表取締役社長アジア太平洋日本地域担当プレジデントであった福田康隆氏はアドビの専務執行役員 マルケト事業統括に就任している。
統合でAdobe Experience Cloudがさらに強化
アドビのミッションは「世界を変えるデジタル体験を」だ。同社は「Adobe Creative Cloud」「Adobe Document Cloud」「Adobe Experience Cloud」という3つのクラウドプラットフォームを提供し、それぞれの領域で業界リーダーのポジションを占めている。その中核にあるのが人工知能と機械学習のフレームワークである「Adobe Sensei」だ。アドビはこれらの強力なポートフォリオで、人々に創造性を発揮する力を提供し、企業のビジネスの変革を促している。
アドビの代表取締役社長を務めるジェームズ・マクリディ氏は「ユニークで一貫した体験を届けてくれる企業こそがロイヤルティーを構築できる」と語る。その信念の下、同社がとりわけ注力するのがAdobe Experience Cloudだ。
Adobe Experience Cloudは4つの製品群で構成される。広告に関わる「Adobe Advertising Cloud」とデータ分析に関わる「Adobe Analytics Cloud」、2018年に買収したECプラットフォームの「Magento Commerce Cloud」、そしてコンテンツ管理やキャンペーン管理、パーソナライズを実現する「Adobe Marketing Cloud」であり、Marketoは今やここに属する。Marketoのエンゲージメントプラットフォームが加わったAdobe Marketing Cloudは、リードマネジメントやABM(アカウントベースドマーケティング)などの機能が提供可能になった。また、Marketo側から見ても、今後他の製品群と連携することで、B2BおよびB2Cにおけるユーザーに、さらに価値の高いサービスを提供できることになる。
エクスペリエンス市場拡大で相乗効果
福田氏は「2014年にマルケトを設立して5年間でマーケティングオートメーション市場を育ててきた。社員は100人に増え、ユーザーコミュニティーも2000人を超える規模に拡大した。500社を超えるパートナーと連携してお客さまのデジタルマーケティングを支えていくエコシステムも形成した。マルケトがアドビの一員となることで、マーケティングオートメーションよりさらに広く、デジタルトランスフォーメーションを提供できるようになることをうれしく思う」と、アドビに参画することへの期待を語った。
デジタルエクスペリエンスの向上は企業のマーケティング部門だけでなく経営層が向き合うべき重要課題になっている。アドビの調査では日本国内のデジタルエクスペリエンス市場は年々拡大しており、2021年まで毎年2桁成長が続く見込みだという。
Adobe Experience Cloudのセールスを統括するアドビ専務執行役員の鈴木和典氏は「この分野は製品を提供するだけではビジネスを拡大できない。高度な知識を持ったプロフェッショナルのサービス部隊が、導入前のコンサルティングから導入後のサポートまで伴走する体制を敷いている」と語る。オンボーディングから導入支援、活用促進、更新、アップセル/クロスセル、サポートといった、業務プロセスにおけるカスタマーサクセスの取り組みは、マルケトにおいても重点的に取り組んできたところだ(関連記事:「Sansanが実践するカスタマーサクセス、『解約率を下げる』よりも大切なこととは?」)。SaaSモデルの成功企業である2社が統合した新しいアドビが向かう方向性に、大きなぶれはないだろう。
マルケトが持つ既存のサービスやコミュニティーは維持される
説明会に登壇した3人のキーパーソンは、2社の統合がシナジーをもたらすと述べた。とはいえ両社がこれまでそれぞれに提供してきたサービスやコミュニティーには、役割の重なる部分もあるだろう。例えば2013年に買収した「Neolane」をルーツに持つクロスチャネルキャンペーン管理の「Adobe Campaign」は、主にB2C向けではあるもののマーケティングオートメーション製品としての機能を持つ。かつて記者が製品担当トップに実施したインタビュー(関連記事:「B2CでもB2Bでも『Adobe Campaign』が日本のマーケティングオートメーションで有力な選択肢になる理由」)では、B2B向けの用途も想定しているということだった。Marketoにしても、B2BのみならずB2C領域のニーズをつかんだことで今日ここまで飛躍したともいえるだろう。また、マルケトが「Marketing Nation」の名でユーザーコミュニティーを育ててきたように、アドビもコミュニティーを持っている。何らかのすみ分けが必要とされる場面は出てくるのではないか。
この点を尋ねると、マクリディ氏は「最初のコミットメントとして、サービスやサポート、ユーザーグループなど、今マルケトにあるものは何も排除しないと言った」と力を込めて語った。福田氏も「ユーザー会は引き続き運営していく。アドビのコミュニティーと一緒に活動することもこれから模索していく」と語る。少なくとも、統合によって既存ユーザーに不利益が生じる可能性は低いようだ。
Adobeにとって日本は(日本を除く)APAC全体とほぼ同等の売り上げがあり、本社からの積極的な投資を得ているという。マクリディ氏は「マルケトのエンゲージメントプラットフォームが統合されたことにより、デジタルエクスペリエンスソリューションを再構築し、B2CでもB2Bでもリーダーシップを担うことができる」と語る。
今回、「戦略説明会」のタイトルを冠してはいたが、製品アップデートなどに関しては特にアナウンスがなかった。これらについては、2019年3月末に米国ラスベガスで開催されるAdobeの年次イベント「Adobe Summit」まで待つ必要があるようだ。なお、本稿執筆中の2019年3月6日に投稿されたAdobe Blogのエントリー(外部リンク)によれば、Marketoの年次イベントである「Marketing Nation Summit」もAdobe Summitに統合されるようで、Marketo CEOであったスティーブ・ルーカス氏(現Adobe シニアバイスプレジデント)が基調講演に登壇するという。統合のより具体的な成果が見えてくることを楽しみに待ちたい。
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