広告コミュニケーションを「ヒアリングファースト」で一方向から双方向へ:エキスパートが語り下ろすモダンマーケティングの論点(1/2 ページ)
「Forbes 30 Under 30 Asia」に選出された気鋭の起業家の目に映る次世代の広告体験とはどのようなものだろうか。
デジタルマーケティング業界のトップランナーに、現在それぞれの専門分野が抱える課題と今後の展望を語り下ろしてもらうこの連載。今回は、会話広告「fanp(ファンプ)」を提供するZEALS(ジールス)のCEOであり、Forbes 30 Under 30 Asia(アジアを代表する30歳未満の30人)に選出された清水正大氏が、インフィード広告中心の時代に見えてきた既存の広告コミュニケーションの課題と、チャットbotを活用した新たなUI(ユーザーインタフェース)の可能性について語る。
清水正大
しみず・まさひろ ZEALS代表取締役 CEO。1992年岡山県出身。大手重工業企業にて航空機や高炉などの鉄鋼製造に従事。東日本大震災を契機に「日本をぶち上げる」という志に人生をかけることを決断。働きながら貯金した資金で明治大学に21歳で入学。在学中の2014年4月にZEALSを設立。チャットbot×広告をコンセプトにした会話広告「fanp」を提供。2018年1月にJAFCO、フリークアウト・ホールディングスより総額4億2000万円の資金調達を実施(累計調達金額は約5億円超)。2018年3月にはForbes 30 Under 30 Asia(アジアを代表する30歳未満の30人の起業家)のエンタープライズ・テクノロジー部門に選出される。
広告の主役が変わってもコミュニケーションの手法は旧態依然
マス広告からデジタル広告へ、検索連動型広告からSNSを軸にしたインフィード広告へと、広告を巡るトレンドは近年大きく変化を続けてきました。
媒体になじむクリエイティブで自然に指を止めることができるインフィード広告は、ユーザーの体験を損ねない広告コミュニケーションを実現するものと期待されています。また、IDや行動履歴などのデータを基にセグメントを設計できるので、広告を見てほしい人にターゲットを絞って効率的な訴求が可能です。
しかし、主役となる媒体は変化しても、コミュニケーションの動線設計という点では、実はほとんど変化していません。広告にアクセスしたユーザーをランディングページに送り込み、そこでコンバージョンが生まれなければリターゲティング広告で追いかけるという考え方は、検索連動型広告であれSNSのインフィード広告であれ同じなのです。僕はここに1つの大きな限界があると考えています。
インフィード広告では、ニュースフィードやタイムラインに流れてきた広告に対してユーザーが最初から関心を持っているとは限りません。過去にコンバージョンしたユーザーと属性が近い人を選ぶなど、ターゲティングがしっかりしているとはいえ、必ずしもニーズが顕在化しているわけではないのです。この点、初めからユーザーが探している情報に関連した広告を打つ検索連動型広告とは大きく異なります。
ユーザーの立場からすれば、自分が置かれている状況も理解せず一方的に提案を押し付けられても困惑するばかりです。本来買ってもいいと思える製品であっても、その広告を通じて買いたいとは思わなくなるのではないでしょうか。
広告は「必要悪」なのか
デジタル広告はマス広告に比べ、興味を持ってくれるユーザーに出会える確度が高いといえます。それでいてなおランディングページのCVR(コンバージョン率)が著しく低くCPA(顧客獲得単価)が高止まりしているのであれば、広告コミュニケーションの在り方そのものが根本的に間違っている可能性を視野に入れる必要があるように思います。
もちろん、ユーザーに気付きを与えるという意味で、広告を見せるという行為自体を否定するつもりはありません。しかし、広告主の中には、「認知を得るため、いわば必要悪として仕方なく広告を出稿している」という意識もあるのではないでしょうか。
海外の大手消費財メーカーがデジタル広告費を大幅に削減していることがニュースとして報じられています。その背景として、いわゆる広告不正(アドフラウド)やビューアビリティー、ブランド毀損(きそん)などの問題があるといわれますが、そうでなくても押し付けの度が過ぎれば、広告を打つことはかえってユーザーに嫌われるリスクがあることは明らかです。
このままユーザーの体験を無視した広告コミュニケーションを続けていては、広告に対する風当たりは強くなる一方です。広告の在り方が変わらなければならない時期に、差し掛かっているのではないでしょうか。
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