マーケターが知るべき「デザイン」のロジック――福本 徹氏:前編:山口義宏がマーケティング賢人と語る(1/2 ページ)
マーケターはデザイン・クリエイティブを担う人々とどう付き合っていくべきか。アイディーネットCEOでデザインプロデューサーの福本 徹氏とインサイトフォースの山口義宏氏が語り合った。
マーケターは社内あるいは自分に近いところにいる人々とのコミュニケーションで、さまざまな壁に突き当たることがある。壁は、あるときは営業部門、またあるときはIT部門との間に立ちはだかる。最も高い壁は経営層であったいうパターンも少なくないだろう。
広告やブランディングに携わる人にとっては、クリエイターやデザイナーという職種の人々との間にある壁がしばしば問題になる。
オファーに対する想定外のアウトプットが提示される、「なぜこうなったのか」と尋ねても論理的な説明がされないし、ちょっと言っていることがよく分からないといったことは、クリエイティブに関わったことのある人が時折経験するところだ。
マーケティングとはアートとサイエンスの間の営みだ。「右脳型と左脳型は分かり合えないもの」と諦めてしまっては、デザイン側とのコミュニケーション不全を永遠に解消できない。デザインを語る共通言語を持ち、デザインのプロセスを体系化することはできないものか。
本連載3人目のゲストである福本 徹氏は、そうした課題解決に重要なヒントを与えてくれるはずだ。
福本 徹
アイディーネットCEO。デザインプロデューサー。名古屋大学未来社会創造機構 社会イノベーションデザイン学センター客員准教授。愛知県立芸術大学美術学部卒業後、東芝のプロダクトデザイナーとしてキャリアをスタート。その後、コンサルティング会社でハンスムートやルイジコラーニ、ポルシェデザインなどの著名海外デザイナーのローカライズとコラボレーション、マーケティング部門での商品戦略策定業務に従事した後、独立。デザインとマーケディング機能を同一の次元でサポートし、大手企業の商品企画やブランディングなどを数多く手掛ける。
「インフォームドデザイン」とは何か
山口 今から15年ほど前、当時在籍していた会社で、ある自動車の内装のデザイン開発基準を整理する案件を担当しているときに、福本さんにお会いしました。私にとっては初めて工業デザインをまともに掘り下げた案件で、デザインにまつわる思考プロセスを福本さんに教わりました。その後長い間お付き合いいただき、当社インサイトフォースを起業する際もさまざまな助言を頂戴したものです。「独立するには最初はオフィスの見栄えなんてどうでもいい。私も最初は玄関で仕事をしていたけど、大手企業は発注してくれたよ」と言っていただき、そうかオフィスに最初に金かけるのはばからしいなと初歩的なことに気付かせていただいたり(笑)。
福本 いや、本当の話ですから(笑)。まだCADが主流ではなかったころで、ドラフターと呼ばれる製図器を玄関に置いて携帯電話のデザインをしていたのです。
山口 福本さんはそうやって自ら手を動かしながらも、一方でデザインのメソッドを非常にロジカルに体系化してこられました。今回、福本さんをメディアでご紹介したかったのは、福本さんが提唱する「インフォームドデザイン」の考え方が、デザイナーのみならずマーケターやブランド戦略立案に関わる人にとっても、とても興味深いものだと考えたからです。まず、そのインフォームドデザインについて教えていただけますか。
福本 一言でいえば「伝わるデザイン開発」です。良いデザインは伝えるべき価値が正しく表現されている。そのためにはまず、生活者が価値を感じ、評価するプロセスに最適な情報伝達構造を整理して、クライテリア(判定基準・指針)を作る必要があります。ロジカルに組み立てたデザインはロジカルに説明できるのです。インフォームドデザインという名称は医療用語の「インフォームドコンセント」からヒントを得ています。診療について医師が患者に十分に説明をし、合意することですが、それをデザインでもやれるのではないかと考えました。
山口 具体的には、カウンセリングを通じて、これまで暗黙知のみで言語化できていなかった基準を引き出すといった形でしょうか。病院で「痛いのはこっちですか。どれくらいの痛みですか」と問診した後で「痛みを緩和するためにこの薬を出します」とソリューションを提示するような。
福本 その通りです。そこで「薬は2種類あって、片方はすぐ効きますが、その分コストがかかります」というような説明もするわけです(笑)。何を伝えようとするかで造形表現の優先順位が違ってくるというのがデザインの肝で、表現すべきことを依頼する側とされる側が共有していれば、大きくぶれることはありません。
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