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「クロスセル」はどうすれば生まれる? 単品通販のビジネスモデルを理解するロジカルに解き明かすEC・通販の成功法則(1/2 ページ)

通販業界一筋20年以上、ダイレクトマーケティングのエキスパートとして知られる著者が、デジタル時代のマーケターに向けてEC・通販の本質を伝授します。

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 成長を続けるEC・通販業界。日々進歩を止めず刻々と変わる環境の中で、今や実に膨大な知見が求められるようになりました。一方で、ビジネスそのものに対する理解が十分でないまま、一面的なノウハウやトピックに振り回され、EC・通販がうまく機能していないケースも散見されます。

 筆者は20年以上にわたり、さまざまな立場から通販事業に携ってきました。この連載では、その中で見いだしたEC・通販の「本質」を解き明かします。これからの時代、EC・通販事業者はどのようにユーザーからの支持を得て、ユーザーへ貢献していくべきか。その方法について、詳しく述べていきたいと思います。

寄稿者紹介

川部篤史
JIMOS DMS事業部長兼ホールセール事業部長。ビジネスブレークスルー大学大学院経営管理修士(MBA)。通信販売モデルの事業構築と製品マーケティングを得意とする。千趣会、大塚製薬にて、EC・通販部門を歴任。2012年JIMOS入社、2014年から現職。EC・通販について詳しく解説する1〜2分のショートムービー数十編を無料配信中。視聴申し込みはJIMOSのWebサイト(https://dms.jimos.co.jp/)から。


単品通販には3つのモデルがある

 最初に「単品通販」のビジネスモデルについて、軽く整理しておきましょう。ここで主として扱うのは、「魅力にあふれ満足度の高い製品やサービス」により「満足度の高い顧客(リピーター)」から「継続的な利用」を得ることで収益を上げるモデルです。従って、ファッションやインテリアなどの総合通販型モデルとは、リピート指標を大事にする基本思想は同じであっても、ディテールが違ってきます。

 「単品通販」における製品の在り方をさらに細かく見ていくと、以下のタイプに分類できます。

1. 単品リピート型

 同じ製品をずっと使い続けるタイプのモデルです。健康食品、スキンケアに多く見られます。成功の鍵はお客さまにいかに「手離せない」と感じさせるか。身体で違いが分かる使用実感か、頭で違いが分かる納得感のある仕様を備えておく必要があります。つまり、製品仕様として確かな「基本価値」を確立しておく必要があります。

2. 頒布会型

 あくまで「基本価値」からは外れずに、「付加価値」による世界観の広がりで、変化を演出し、飽きずに楽しませて続けてもらうモデルです。嗜好(しこう)品となる食品や飲料、酒類などに多く見られます。このモデルでは製品の基本価値をしっかりと定め、そこから逸脱しない形で世界観の広がりを付加価値として加えるのがポイントです。コーヒーの頒布会を考えるなら「おいしいコーヒー」が基本価値になります。その「おいしい」をより魅力的にイメージさせるために、例えば「日本各地の老舗喫茶店のおいしいコーヒー」というような「軸」を置いたとします。次にすることは「日本各地」を「北は北海道から南は九州まで」「コーヒー文化が深く根付く、日本各地の旧居留地から」というように、また「老舗」は「創業半世紀以上」などと、イメージを明確に基準化していきます。企画力が求められる、少し難易度の高い方法と言えます。

3. 都度売り切り型

 1度の製品購入で広告投資や諸経費を回収し、利益を上げるモデルです。ダイエット商材や英語教材などの、いわゆるコンプレックス系商材に多く見られます。従来品とは違った何らかの新規メソッドにより、ユーザーが未解決の課題を解決へと導くのがポイントです。高価格の商材を一度に購入してもらうため、刺激の強い訴求方法を用いるケースが多くなります。

 上記のうち、要注意なのは3の都度売り切り型のモデルです。世間で知られる通販成功ノウハウでこのモデルに属するものは、リピート型にはなじまないケースが多く見られます。自分たちのビジネスモデルに合致するのか、慎重に見極めてから取り組むのがよいと思います。

リピート通販に必要な「客寄せ」と「継続本命」

 単品リピート型のビジネスモデルに取り組む製品では、備えておくべき2つの役割として「客寄せ」と「継続本命」があります。この役割を果たすに当たり、競合に対して十分に魅力的であるか、しっかりと意識して準備することが大事です。

 「客寄せ」の役割は、主に新規顧客獲得を行うフェーズで重要視されるものです。広告や販促に載せる上で分かりやすく切れ味のいい訴求ができる力が求められます。それに対して「継続本命」は、広告を縁に購入に至ったお客さまに高い満足を感じてもらい、その後も納得して長くリピート購入を続けてもらうための力です。

 1つの製品がこの2つの役割を兼ね備えていれば、もちろんそれに越したことはありません。しかし、複数の製品で役割を分担し、組み合わせによって成り立つビジネスモデルも多く存在しています。

 ある美容液ファンデーションのケースを考えてみたいと思います。この製品は長年多くの広告出稿を行い、積極的にメディアに露出しています。製品そのものも独自の優位性を備えているため、試用した多くの顧客からリピートがあり、長らく愛用されています。しかし、だからといってこの製品単独でビジネスモデルが成立しているのかといえば、答えは「NO」です。

 この製品の内容量は約3カ月分に相当するのですが、実際にリピート顧客が次回購入に至るまでの平均的な期間を計測すると、それより実に倍近くの期間が経過していることが分かりました。つまり、実勢上代(小売価格)が4000円程度の製品で、年に1〜2回しかリピートが発生しないということです。また、製品力が高い分、原価も決して低くはなく、単品でのリピート収益性はそれほど高くありません。

 では、この製品がどのようにビジネスモデルを成立させているのかといえば、本製品と非常に相性のよいクロスセル品を「継続本命」として最初から設定しているのです。この美容液ファンデーションは、使用した際の潤い実感が非常に高く評価されることが多いので、販促の1つの手法として、同じく肌の潤いを大事に製品設計されているスキンケア化粧品を一緒に使うことを勧めているのです。また、この製品は良く伸びて薄付きで自然な仕上がりになるところも高評価を得ているので、おしろいや化粧下地などの製品も併せ使いを推奨しています。これらのクロスセル製品が「継続本命」の役割を果たし、収益を支えているのです。

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