佐藤尚之氏が語る、新規獲得が難しい時代だからこそ「ファン」を大切にすべき理由:「熱狂ブランドサミット 2017」レポート(1/2 ページ)
これからのマーケティングが「ファンベース」であるべき理由とは何か。コミュニケーションディレクターの佐藤尚之氏が語った。
マーケティングの目的は「顧客獲得」と「顧客維持」に大別されるが、実際には新規顧客の獲得に比重が傾きがちだ。しかし、新規顧客の獲得がままならなくなりつつ時代には、1人当たりのLTV(顧客生涯価値)を高めていく取り組みは重要な意味を持つ。そこで注目したいのが「ファンベース」という考え方だ。
コアなファンと関係を構築して熱狂を生み出し、LTVを高めていくとともに、彼らの発信によってファンの輪をさらに広げていくことができれば、顧客獲得と顧客維持の両方を実現できる。しかし、新規開拓こそ成長の源泉と考える人にファンベースを提唱しようとすると、「少数のコアなファンのために予算をつぎ込むことに意味があるのか」「そもそもファンなら黙っていても買ってくれるはず」「既存顧客と遊んでいる余裕はない」など、冷ややかな声が返ってくることも珍しくない。
実際、多くの企業では、ファンサービスや既存顧客のフォローはCRMやコンタクトセンターの領域と考えられてきた。これをマーケティング部門が取り組む意義とは何か。なぜファンが大切なのか。2017年10月26日に開催された「熱狂ブランドサミット2017」において、コミュニケーションデザインの第一人者として知られるツナグ代表の佐藤尚之氏が語った。
佐藤尚之氏
コミュニケーションディレクター。ツナグ代表。4th代表。復興庁政策参与。助けあいジャパン代表理事。大阪芸術大学客員教授。1961年東京生まれ。電通勤務を経て2011年に独立しツナグ設立。「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。『明日の広告』『明日のコミュニケーション』(ともにアスキー新書)、『明日のプランニング』(講談社現代新書)などの著書がある。
ファンこそが「売り上げ」を支えている
なぜファンが大事なのか。第1の理由として「ファンが売り上げの大半を支えているから」と佐藤氏は語る。佐藤氏は、コアファンとファンだけで売り上げの90%を占めているという、ある飲料メーカーのデータを紹介した。上位2割の優良顧客が売り上げの8割を占めるというパレートの法則(2対8の法則)はあらゆる業界に通用する。全体のパイを増やすことも必要だが、ファンを見つけてエンゲージすることで、まず計算できる売り上げをキープするというのは、効率の観点からいっても正しい。
次に挙げたのは時代的な背景だ。多くの業界が今後、人口に比例して需要縮小に直面することになる。購買者の絶対数が少なくなるというだけではない。2024年に3人に1人が65歳以上になる社会(注)では、新商品に対する好奇心も薄れると考えるのが自然だ。また、モノがあふれる成熟市場においては、頭打ちになった需要を多くの競合他社と奪い合っている現実もある。技術や品質を差別化要因にしたところで、他社がキャッチアップするスピードも速い。USP(Unique Selling Proposition)がすぐに陳腐化する先に待つのは「より安く」を競うだけの消耗戦だ。
注:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」の中位推計による。
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