ソリューション営業を超えてゆけ――「インサイト営業」からマーケティングシナリオを生み出す:マーケティングオートメーションをもっと有効に使いこなすために(1/2 ページ)
2017年4月にサンブリッジが主催した「インサイト営業」をテーマにしたセミナーの内容をダイジェストで紹介する
2017年4月19日、サンブリッジは「競争劣位の解消からの脱却!営業からマーケティングへの知の循環が導き出す持続的競争優位性 マーケティングオートメーション時代における営業のあるべき姿『インサイト営業(Insight Sales)』とは?」と題したセミナーを開催した。顧客の購買行動の変化やマーケティングオートメーション(MA)の導入が進むにつれて、営業スタイルにも変革が求められている。今回のセミナーでは、今後の営業のあるべき姿ともいわれる「インサイト営業(Insight Sales)」の概要および、インサイト営業で得た知見をマーケティングシナリオに展開する具体的手法が紹介された。本稿ではその概要をお届けする。
未来に勝ち残る競争優位性とは
はじめに、エイチ・ピィ・ピィ・ティ 代表取締役 坂本裕司氏が、企業の生産性向上と競争優位性獲得、そしてそのために必要となる「インサイト営業」について語った。生産性を効率性×効果性と定義しナレッジワーカーやホワイトカラーの生産性向上に関するマネジメントコンサルティング活動を展開する坂本氏は、2014年にITmedia マーケティングで「マーケティングオートメーション& SFA時代に問われる『稼ぐ力』」を連載し、好評を博している。
ホワイトカラーの生産性向上は待ったなしだ。B2B企業においてMA導入が注目されるのも、営業部門の効率化という喫緊の課題があればこそだ。多くの企業では、御用聞きと雑談に貴重なリソースを費やす余裕はもうない。MAやSFAを導入し、より高確度で高単価、かつライフサイクルの長い見込み客を見つけ、売り上げを伸ばしたいと考えているのだ。しかし、「顧客の顕在化した課題にのみ対応するソリューション営業は過去の遺物になりつつある」と坂本氏は述べる。そして、それに代わり、これからの営業部門の在り方として「インサイト営業」を提唱する。
インサイト営業とは「顧客も気付いていない課題や本来望んでいる成果を洞察し、顧客がなりたい姿へと導く営業活動」と説明される。そこで求められるのは、質の高い情報をインプットしたり顧客の状況を分析したりといった、創造的かつ知的な業務だ。日々のルーティンワークに追われ、非効率な長時間労働を繰り返していては、クリエイティブな仕事には取り組めない。昨今叫ばれる「働き方改革」も、坂本氏に言わせれば「単に長時間労働をなくすとか就業時間を短くすることとは違う。本来の目的は生産性を高めてイノベーティブな人材を育て、知的資本を高めること。そして未来に勝ち残るために必要な競争優位性を創出すること」と喝破する。
未来に勝ち残るために必要な企業の競争優位性について、坂本氏は以下のスマイルカーブを描いて、高度経済成長期と低成長期の違いを説明した。高度経済成長期、すなわちモノ作り中心の時代においては「創る(企画や開発)」「作る(製造や組み立て)」「売る(マーケティングや販売)」といった企業の一連の活動が生み出す付加価値に大きな差はなく、全工程を一気通貫で自社で抱えるという経営スタイルが普通だった。時代を経て製品がコモディティ化し人件費が膨れ上がると、「作る」が生み出す付加価値が大幅に減った。そこで、この部分を抱えない「持たない経営」が主流となった。そこで残るのがスマイルカーブの両端にある「創る」「売る」の領域だ。顧客が驚くようなクオリティの高い商品を「創る」ことで圧倒的に他社と差別化できるならそれもよいが、そうでなければ「売る」部分の知的生産性を上げていくしかない。
「インサイト営業」のススメ
生産性=効率性×効果性という式で営業部門の生産性向上を考えてみると、どうなるか。営業部門にSFAやMAを導入する目的の1つが、その名の示す通りAutomation、自動化だ。調査や報告、事務処理といった業務は、自動化により手間や時間を削減でき、効率性の向上が図れる。ただし、これは競争劣位を解消することにしかならない。市場が成長しているときならば、効率性向上で得られる仕事のスピードは競争優位性となったが、成熟社会の今、それだけでは不十分だ。効率化によって回収した人や時間といった経営資源をアイデア創出に充てて効果性を高めることで、初めて生産性が上がったといえるのだ。
坂本氏は具体的にMAにおけるプロセス管理について説明した。MAの役割はリード育成、すなわちニーズの醸成だ。醸成度合いはスコアを付けて管理される。一定のしきい値を超えたホットなリードはインサイドセールス部門に渡り、さらにそこでしきい値を超えると、営業担当者が訪問することになる。
ここで重要なのが、訪問時に営業担当者が顧客にどのような提案をするかだ。顧客に初めて会うときの提案内容で、競争優位性が明らかになるのだ。ニーズが醸成され、客の笑顔も見えているという良好なタイミングで、標準的な提案やありきたりの情報を持って行っても意味がない。この部分の創造性を上げていくことで、結果的にMAの効果はさらに高まっていくことにもなる。
ここで坂本氏はあらためて、ソリューション営業とインサイト営業の違いについて、以下のように整理した。
ソリューション営業 | 顕在化したニーズに応える。顧客のニーズに対して自社の商品でいかに解決するかばかりを語る。主語は「うちの製品は」と小さい |
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インサイト営業 | ニーズを超えること。顧客の「Wants=ありたい姿」を見据えた提案。Customer Delightを重視する。「御社は」と顧客を主語に語り、さらに「御社の業界では」「社会全体では」と、大きな主語で語れる |
「顧客のインサイトを捕まえることができる営業担当者がいる会社は、MAを導入しても機能する」というのが坂本氏の持論だが、実際にMAを使うのはマーケティング部門である。インサイト営業を支えるマーケティング部門の重要な機能として坂本氏は「Wantsが分かってシナリオを書けること」を挙げる。
マーケティングがシナリオを設計する際に最も役立つのは、インサイト営業で得られる情報だ。深く的確な洞察をするためには、時に政治経済や社会、技術といった視点が必要になる。大局的な見地から顧客にとっての持続的競争優位性を考え、インサイトに基づいた提案をする。そのための一連の情報をインプットし、シナリオを作っていくのがマーケティング部門に求められる役割になるのだ。
最後に坂本氏は、MA運用における営業とマーケティングの連携不足という多くの企業が直面する課題についても触れ、「その解決の助けとなるのが、顧客のインサイトという共通言語を持つこと」と示唆した。
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