「顧客中心」の組織作り、誰もやらないならマーケターがやるしかない:「B2Bhack.com」主宰 飯室淳史氏が講演(2/3 ページ)
外資系医療機器メーカーのデジタルマーケティング責任者を長く務めた飯室淳史氏が「デジタル時代を勝ち抜くマーケティングと組織」を語った。
既存顧客の「まだ満たされていないニーズ」を見つけ出す
デジタルマーケティングでは、高速な意思決定で次々とPDCAを回すことが求められる。それに耐える文化が組織の中に根付いたら、次は「戦略」だ。
「まずゴールを知り、ゴールとのギャップを埋める。そのために必要になるのが戦略」。飯室氏の定義は明快だ。ここで重要なのが「ゴールに到達する」ことと「目の前の課題を解決する」ことは必ずしもイコールではないという点だ。重要なのは課題そのものではなく、それを解決することでゴールに近づけるかどうか。そこを間違えてはいけないという。
飯室氏がGEヘルスケアで営業全体を統括していたころ、売り上げの約9割が既存顧客に依存しているという、B2B企業によくある課題を抱えていた。そして、それを打開するため、新規顧客獲得に躍起になっていたという。そこで学んだのが「新規顧客獲得というゴールは正しいが、方法論を間違ってはいけない」ということだった。
大学や製薬会社で使う分析装置の購買状況を分析したところ、約4割が既存顧客によるリピートオーダーだった。新規購入も約4割あった。しかし、その内訳をよく見ると、ほとんどが既存顧客からの口コミによるものであることが分かった。その他の製品についても調べてみたが、程度の違いこそあれ、やはり既存顧客のおかげで多くの新規顧客を獲得できていることが判明した。
そもそもGEヘルスケアの事業ドメインであるライフサイエンスの分野では、製品導入の意思決定者となる研究者が、職位や立場を変えながらずっと何十年も活躍し続けるケースが多い。さらに、研究者が書いた科学論文に使用した製品名が記載されるため、それがそのまま新規顧客への推奨になるという、はるか昔から脈々と続くエコシステムが存在していた。
そうしたことからも、やるべきことは明白だった。まずは既存顧客のLTV(顧客生涯価値)を最大化すること。そこで指標として採用したのがNPS(ネットプロモータースコア)だ。単に顧客満足度を聞いたところで「満足」と答えた顧客が何かをしてくれるとは限らないが、NPSでは他人に対する推奨意向を尋ねる。推奨意向が低ければ、結局本当のところ満足はしていないということだ。そこで、GEヘルスケアでは、主にNPSが低い顧客の声に耳を傾け、顧客の「まだ満たされていないニーズ」を見つけ出すことに注力した。
つまり、CPAを青天井にしてまで新規顧客獲得を焦るのではなく、むしろ既存顧客のニーズを満たし、NPSの高い顧客から新規顧客へ推薦してもらうことこそが近道であると、考えを改めたのだ。
飯室氏は「顧客体験とは相対的で主観的なもの。高品質なコンテンツが必ずしも最高の顧客体験を生むとは限らない。顧客の事前期待を理解し、それを超える体験を提供するか、逆に事前期待を低くマネジメントできれば、相対的に高い顧客体験を提供できる」と述べる。ゴールを知るとは結局、顧客が事前期待する成果を知るということに他ならない。そこから現状とゴールのギャップを探り、そのギャップを埋める戦略を考え、具体的な実行プラン(戦略)を考えるのだ。飯室氏はこれを「製品ではなく成果を売る」という一言でまとめる。もちろん、営業部門も含めてそれを共有できる文化が醸成されていることが大前提であることは言うまでもない。
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