「シェアードメディア」戦略でパートナーと共に成長する――イオンリテール(後編):【連載】オムニチャネルマーケティングに挑む(1/2 ページ)
大手企業でありながら本社集でなく個店重視の分散型情報発信に力を入れるなど、独自色の濃いデジタル戦略を採用するイオン。前編に続き、イオンのもう1つの特徴である「シェアードメディア」活用について聞いた。
大手小売業のオムニチャネル戦略は本社主導で企画立案されることが多いが、イオングループでは全国に広がる拠点が主導する「個店からの情報発信」を重視している。このことについては前回「イオンのデジタル戦略は『個店』重視、ブログ研究から着想――イオンリテール(前編)」でお伝えした通りだ。そして、もう1つイオンに特徴的なのが、他社と共同で運営する「シェアードメディア」への取り組みだ。「ペイドメディア(マスメディア)」「アーンドメディア(ソーシャルメディア)」「オウンドメディア(自社運営メディア)」の「トリプルメディア」の枠に止まらない第4のアプローチにはどのような意義があるのか。前回に引き続き、イオンリテールの井関定直氏に話を聞いた。
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シェアードメディアへの取り組み
小川 従来のトリプルメディア的な概念に加えて、御社ではシェアードメディアの取り組みに力を入れられていますね。
井関 われわれの特異的なところは、その取り組みであると認識しています。ステイクホルダー、例えばお取引先さま、メーカーさま、外部メディアさまとのシェアードに注力しています。
小川 (広告費を支払って枠を買う)ペイドメディアとシェアードメディアの境界線が重なるところもあると思うのですが、それらの違いというものをどのように捉えていますか。
井関 重なるところはあります。シェアードメディアの場合は、長期目線で育てていく姿勢が必要です。ペイドメディアについては、われわれは52週で商売をやっていて、お客さまの生活行事や催事をその都度カバーしていかなければならないときとか、瞬時に売り上げを伸ばす必要があるとき、つまり需給ギャップを埋めなければならないときに活用します。しかし、単発勝負では限界がありますから、シェアードでバランスを取っていかなければならないと考えています。
小川 単発のペイドメディアの積み重ねやキャンペーン的なものの連発ではなく、パートナーも交えてシェアードメディアを育てて長期的な仕組みを作っていくことの重要性を感じられているということですね。
井関 その通りです。やはり、シェアードメディアを通じて、ファン化、コンテンツ作り、仕組み作りをしたいと考えています。
来店や購買につながる施策を
小川 マーケティング的に、それはさまざまな効果をもたらすといえると思いますが、それでもやはり、直接売り上げにつながる施策のプライオリティーの方が高いのでしょうか。
井関 基本はそうですね。ブランディングなど、さまざまな効果はあったとしても、最後はお店やECサイトに来ていただき、実際に買っていただいて、お客さまの生活を満たす。商売をやっている以上、そのプロセスが早く回るに越したことはないです。
小川 井関さんは、目的がふんわりした施策より、実際に購買に結び付く施策を特に大事にされていますよね。
井関 バランスが大切だとは思います。ただ、個人的に検証が好きなこともあり、パーチェスファネル(※1)など定量的に見ていくと、直接的な結果につながらない施策や結果に対して貢献度が曖昧な施策は「“微妙”だな」となってきます。シェアードメディアを活用したコンテンツマーケティングを進める一方で、リアル+ネットのマーケティングにおいてはコンテンツ接触からアクション、来店・購買までのコンバージョンをいかに捕捉して上げていくかが重要だと考えています。
※1. 購買までのプロセスをファネル(じょうご)に例えたモデル。プロセスが進むにつれて絞り込まれる。
小川 シェアードメディアでは、エリアマーケティングなど、地域や店舗単位の企画がたくさん展開されていますが、いつごろから本格的に取り組まれているのですか。
井関 2011年です。それまでは、グループ統一的なWeb施策はやっていなかったのですが、同年に「イオンスクエア」というゲーミフィケーション(※)を取り入れたポータルを作りました。ゲーミフィケーションでお客さまと接点を持つオウンドの位置付けですが、そこでメーカーさんとのコラボレーションをやり始めて、このような共創型の取り組みを強化していきたいと考えるようになりました。
※2. ゲーム的な要素を組み込むことで、顧客のモチベーションやロイヤリティなどを高める手法。
小川 結果的にシェアードメディアへたどり着いたという感じですね。オウンドメディアもさることながら、シェアードメディアだからこそ実現できるマーケティング効果に気付き、今に至るわけですね。
井関 まさにそういう流れです。
LTVを最大化するためのデジタルマーケティング
小川 黎明(れいめい)期のデジタルマーケティングは、キャンペーン的な“飛び道具”が多い傾向がありましたが、これからはLTV(顧客生涯価値)を最大化するような仕組みに生かされていくケースが増えると思うんです。井関さんが担われているデジタルマーケティングも、近い将来にはわざわざ“デジタル”と区分けして語ることもなくなってくるのではないでしょうか。デジタルがマーケティングをドライブすることは、ますます当たり前になってくるでしょうし、デジタルが介在しないマーケティングも考えにくくなってきますから。
井関 そう思います。デジタルも長期戦略に活用しなければと思いますね。イオンは小売を軸に、物販、サービスなど多様な事業でグループシナジーを追求しています。3567万人のユーザーを抱えるイオンカードや5010万枚発行している電子マネーのWAONもあります。これらを横串しにして、LTVを大事にしていくことが重要だと考えています。これはオムニチャネルにおいても欠かせない視点です。その途上として、さまざまなマーケティング施策に取り組んでいます。
小川 今は、長期的な視野に立ったデジタルマーケティング、オムニチャネルの仕組みづくりの過程ですね。
井関 人口動態の変化が背景になっているのですが、グループの明確な長期戦略として、「都市シフト」「アジアシフト」「シニアシフト」そして「デジタルシフト」というものがあります。
小川 イオン4つのシフトですね。デジタルシフトは、前3つのシフトもドライブできると思うので、重要な鍵になるのでしょうね。
井関 その通りですね。それらと、われわれの資産を有機的につなぐことにデジタルは機能しますから、とても重要な経営戦略だと捉えています。
小川 LTV重視にしても4つのシフトにしても、データを顧客単位で定点観測して活用していくことが必要となってきます。必然的にデジタルが要になるということですよね。デジタルシフトは、いつ頃から社内で意識され始めたのですか。
井関 2013年です。その年の中期経営計画から公にされました。
小川 それから2年くらいの間で、ご苦労も多々あったと思うのですが、手応えはいかがですか。
井関 2008年からスタートしたネットスーパーが随分と伸びたこと、ネットスーパーを利用されるお客さまによってリアル店舗の売り上げも上がると分かってきたことが大きいです。また、地域単位、個店単位のデジタルマーケティングがうまくいき始めたことも挙げられます。さらに、カード戦略との連携で、ロイヤル顧客向けのDMP(データマネジメントプラットフォーム)などを構築していたり、データドリブンでマーケティングを展開する基盤もできてきました。イオンスクエアのゲーミフィケーションを取り入れた仕組みもさまざまなメーカーとの連携が進み成長しています。アプリベースでクロスチャネル購買につながるマーケティングも、これからさらにドライブをかけていきたいと考えています。
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