マズローの欲求5段階説とゲーミフィケーション:ゲーミフィケーションのデザイン
ゲーミフィケーションにおいて重要な「リワード(報酬)」設計を、マズローの欲求5段階説から考える――。ゆめみの深田氏は、マズローの欲求5段階説のうち、「承認の欲求」「自己実現の欲求」をいかに満たすかが、リワード設計のポイントだと主張します。
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先日、「ユーザーに付与することができるリワードには3種類ある」という記事を書きました。マネタリーリワード、ソーシャルリワード、インナーリワードの3つです。このうち、特にゲーミフィケーションではソーシャルリワードとインナーリワードにフォーカスして設計するべきだと主張しました。
ここで気になるのは「ソーシャルリワードとインナーリワードの、いずれがより強力なのか」「この2つをどういう順序で考えるべきか」という2点です。そこで、改めてマズローの欲求5段階説について考えてみましょう。自己実現理論とも呼ばれるこの考え方は、人間の欲求を大きく5段階に分類したもので、ビジネス領域でも広く知られています。
5段階の欲求は、以下の通りです。
1.生理的欲求:生命維持のための食事/睡眠などの欲求
2.安全の欲求:身体的、経済的な安定性/安全性などの欲求
3.所属と愛の欲求:情緒的人間関係、他者に受け入れられている、所属するなどの欲求
4.承認の欲求
5.自己実現の欲求
さまざまな批判はありますが、この説はある程度受け入れられていると言ってよいでしょうし、リワードのあり方を考える上でもヒントがありそうです。ただ、すでに読者の皆さんも御存知の方が多くいらっしゃると思うので1〜3に関する説明は割愛します。シンプルに当てはめると、ソーシャルリワードが承認欲求の充足に該当し、インナーリワードが自己実現欲求の充足に該当します。
承認欲求
他者からの承認、尊重を得るという欲求を指します。ただ、他者からの承認だけでなく自分自身としても自分を尊重できる、価値があると認められるという状態も重要であるとマズローは説明しています。他者からの承認と自己承認は関連が強く、他者からの承認が不足していると自己承認にもつながらず、結果として劣等感を抱くなど欲求の実現状態としては低くなります。
この点で、マズローは承認欲求を2つの段階に分類しています。低い段階の承認欲求は、他者からの承認欲求、地位/ステータスの獲得欲求、名声、名誉、注目といったことに対する欲求。高い段階の承認欲求は自己承認、自己尊重、自信、自立感といったことに対する欲求で、これらは承認欲求と言いつつも、自分を承認できるような自分でありたいという内的な欲求です。
自己実現欲求
自身の持っている可能性を最大限に発揮したい、自分がなり得る最高の自分になりたいというような欲求を指しています。これまでの4つの段階の欲求は欠乏を埋めるための欲求、自己実現欲求は成長のための欲求というようにも説明されています。
これらの欲求とリワードの関連性
これらの2つの欲求、特に高い段階の承認欲求と、自己実現欲求はお互いの関連性は非常に強そうな印象を受けます。批判的見解なども含めて考えると、必ずしも承認欲求が満たされなければ自己実現欲求に至らないということでもないようです。また、自己承認と自己実現は場合によって順序が入れ替わるということもありそうです。文化や環境の違いも影響があるでしょう。
話をリワードに戻しましょう。ソーシャルリワードとして主に付与できるのは、「いいね!」ボタンなどに象徴される他者からの承認を、リワードの形で可視化したものです。ただ、このタイプのソーシャルリワードだけでは、自己承認を表現することが難しいとも言えます。また、どの程度のことを達成すれば自己承認感や自己実現感が感じられるようになるのかも、人によって違うでしょう。
サービスを提供する側として、「ここまでやったのであれば、あなたは十分に自己承認できるだけのことをやったと言っていいと思いますよ」という、サジェスション以上のことはできません。しかし、そういうメッセージを伝えてあげることは大切です。そのようなリワードはインナーリワードとしても機能し始めると考えられます。
つまり、ゲーミフィケーションにおけるリワード設計は、「低次のソーシャルリワードの実現」「高次のソーシャルリワード、及びインナーリワードの実現」の2種類に分けて考えるのが、適切な分類なのかもしれません。特に後者のリワードについては、完全にその人の心の中のことなので、「適切な付与」はかなり難易度が高いです。サービス提供者としては、心を汲んだ表現/メッセージとともにその状態を可視化してあげるということが、結果としてのインナーリワードの蓄積につながっていくのではないかと思います。
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