3種類のリワードを使いこなせ、「マネタリーリワード」「インナーリワード」「ソーシャルリワード」:ゲーミフィケーションのデザイン
人を動かす「リワード(報酬)」とは何か――。ゆめみの深田氏は、金銭、自己実現、承認の3つの欲求を満たすリワードをデザインすることが、ゲーミフィケーション設計のポイントだと説明します。
ゲーミフィケーションをデザインすることは、リワード(報酬)をデザインすることなのかな、と思うことが最近よくあります。いつ誰にどんなタイミングでどのようなリワードを付与するのか? もちろんそれを考える過程では、どんなリワードをもらうと嬉しいのか、それはなぜなのか、分かっている必要があります。さらにリワードをデザインするために考えるべきことも何段階かありますが、一言でゲーミフィケーションを説明する場合、リワードとひも付けて話すのがよいと思い始めています。
本題に入る前にリワードと表裏一体の関係にあるモチベーションについて、少しだけ解説します。そもそも人にリワードを提供するのは、モチベーションを刺激してゲームやサービスの参加率を上げるためです。モチベーションには、内発的/外発的という要素があります。内発的とは楽しさや満足感による動機付けの要素で、外発的とは賞罰を使い分けて人を動機付ける要素です。私は、ゲーミフィケーションにおいて内発的なモチベーションの方が価値は高いと認識しています。これは心理学の「自己決定理論」によるものです。この理論は「学生にパズルを解くという問題を与えたところ、金銭的な(外発的な)動機付けよりも自分で自分を動機付ける(内発的な)方が、創造性、責任感、健康な行動、変化の持続性といった点で優れていた」という実験結果に基づいて構成されています。詳しく知りたい方は以下の記事をどうぞ。
gamificationの理論的背景:自己決定理論(GAMIFICATION.JP)
さて、リワードですが、大きく以下の3種類に分類できます。
1.マネタリーリワード
2.インナーリワード
3.ソーシャルリワード
この分類はThe Wealth of Networksという書籍での主張をベースにしたものです。ここでの「リワード」とは有形/無形に関わらず、人間のモチベーションを維持/向上することに寄与するものというような意味で使っています。
マネタリーリワード
マネタリーリワードとは、その名の通り、金銭のリワードです。換金性のあるポイントや景品、割引クーポンなどに形を変えることはありますが、基本的にはそのリワードが持つ物質的、金銭的価値で評価されるリワードです。動機付けとして、外発的であるため、このリワードの有効性は3つのうち最も低いと考えられます。一方で、現在最も一般的に使われているのがこのリワードであり、他のリワードには目を向けられて来なかった背景を考えると、(企業が)ゲーミフィケーションを実践する意味合いは大きいと思います。ただ、全く使わない方がいい、ということでもなさそうです。短期的に行動をドライブさせたい時に、その後の中長期的なリワードのデザインが伴っていればユーザーの動機を損なわず、行動の変化を促すこともできるでしょう。
インナーリワード
インナーリワードとは、自分自身の心の中で強く意味を持つリワードです。何かを成し遂げたという達成感、自分の能力が向上したという向上感、あるいは「自己実現」が成就する状態も一種のインナーリワードと言えるでしょう。また自分だけが特別な扱いをしてもらえるような特典、VIP待遇、特に金銭的価値は低いものの、そこだけでしか得られないようなリワード、ファンであれば非常に嬉しい限定性の強いリワードなどは強力に働くインナーリワードとなります。こうしたリワードは、逆にそのファンでなければ全くリワードとして機能しないということも、起こり得ます。
ソーシャルリワード
マネタリーリワードやインナーリワードは、サービスを提供する側とユーザーの間でやりとりされるリワードですが、3つ目のソーシャルリワードは主に利用者同士の間で発生するリワードである点が大きく異なります。「他者から承認されること」がソーシャルリワードの基本です。栄誉、名誉、賞賛、社会的なステータス。あるいはもっと簡易なものだと利用者同士の交流も一種のソーシャルリワードになり得ます。コミュニティーへの所属欲求が満たされている状態はソーシャルリワードが安定して得られる状態だとも言えます。CGMなど自己表現型のコンテンツの作成も、「誰かに見られる」という要素があることで「ソーシャルリワードが得られるかもしれない」という期待値が高ければとり組む意欲がわきやすくなるでしょう。
1つのリワードが2つの働きを持つケースもあります。ファンにとって非常に価値のあるリワード(レアモノのグッズなど)は、それを持っていること自体がリワード性の強いものですし、レアモノを手に入れるために努力した、というようなストーリーがあれば、余計にインナーリワードとして機能します。また、「それを持っている」ということを他のファンに自慢できたり、それとなく見せびらかせるような仕組みがあればソーシャルリワードとしての価値が生じます。
外発的、内発的という分類で見るとソーシャルリワードは外発性の強いリワードに位置付けられるでしょう。しかし、承認欲求は(人が持つ)「16の基本的な欲求」の中に存在し、マズローの欲求5段階説の中にも位置付けられる相当強力な欲求として働くため、マネタリーなリワードよりも強力であると考えられるのではないでしょうか。
これまで述べてきたように、リワードをうまく使い分けることや、リワードの付与の仕方をうまくデザインすることが、ゲーミフィケーションを考える上では非常に重要です。「ゲーミフィケーションとは何か? 」を一言で説明すると、「リワードを適切にデザインすること」だとも言えそうです。
※この記事はGAMIFICATION.JPの「3種類のリワードを使いこなせ:マネタリーリワード、インナーリワード、ソーシャルリワード」の原稿を一部修正して転載しています。
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