先進国企業の事例から見えるソーシャルメディアの特性:ソーシャルマーケティング新時代(4/5 ページ)
成長著しいアジアの新興国では、ソーシャルメディアが新たな情報インフラとして拡大している。日本企業がソーシャルメディアを活用して市場での優位性をどう確保していくべきか。欧米企業の取り組みを例に探る。
(2)あらゆる関係者が用いることができる媒体
ソーシャルメディアがあらゆる企業活動のリアクションやレスポンスとして利用されることの裏返しから、ソーシャルメディアは消費者のみが対象ではなく、企業を取り巻くあらゆる関係者が対象となることを念頭に置かなければならない。従業員、取引先企業、ライバル企業、株主など、あらゆる関係者が、あらゆる企業活動について、ソーシャルメディアを媒体として活用し、情報発信を行い、グループを形成する。
マスメディアも不特定多数を対象にすることは紛れもない事実だが、これに対するリアクションやレスポンスは限定的であり、基本的に消費者を対象にさえしていればよかった。しかし、ソーシャルメディアは、あらゆる対象者があらゆる情報を発信し、共有し合うことになるため、その点に十分留意しなければならない。
例えば、従業員からの情報発信によって思わぬ被害を企業側が受ける場合もある。こうした失敗は(図4参照)、利用制限の徹底不備など、運営管理上の問題であると捉えることもできるが、そもそも当該企業に不平や不満を持つ消費者、悪意を持った利用者などもソーシャルメディアに参加することを前提に考えれば、こうした情報をいかに処理して被害を極小化するのか、あるいはこうした情報をいかに好転させて活用するのかといった点こそが問われる。
あるリコール問題で追及された企業がソーシャルメディア上で繰り広げられた非難や批判に対して、詳細かつ丁寧な対応を行ったことで、これまたソーシャルメディア上で絶賛の声が挙がったという事例がある。社会的責任を負う企業が顧客や市場に対して、詳細かつ丁寧な対応をすることは当たり前だが、ソーシャルメディアによってピンチを一転させ、非難や批判を繰り返していた人たちを当該企業にとっての一番の理解者に変えてしまう。そして、それらの人たちが発する情報が企業を取り巻くさまざまな関係者の中で共有される。
ソーシャルメディア上では、これまで直接的な対話や情報交換がなかった利害関係者間において、新しい結び付きが作られ、新しいグループが形成される。企業を取り巻くあらゆる関係者を総合的、統合的にとらえて企業活動を進めなければ、ソーシャルメディアを用いたマーケティングのメリットを享受することはできないだろう。
(3)管理統制できない自然増殖への対応
さらにソーシャルメディアの特性として、管理統制が困難である面が挙げられる。これまで示した(1)や(2)という特性からも分かる通り、これを管理統制することは不可能と言ってよいだろう。
マスメディアのみが君臨していた時代は、企業側がある程度管理統制することができた。そもそも消費者や関係者が気軽に意見を述べることができる媒体が存在せず、消費者や関係者が情報を得る手段も、ほぼマスメディアに限られていた。消費者や関係者の声が結集し、大きな力を生み出すような土壌が存在しなかったのだ。しかし、ソーシャルメディアはそれらを変化させてしまった。もはや、企業側が管理統制する考えを捨て去る必要がある。
企業の一部の部門がソーシャルメディアを管理統制しようとして、その無理解が消費者の神経を逆撫で、大きな問題となった事例が多数ある。「管理統制できる」という考えを捨てて、いかにお膳立てを整え、対応していくかという考え方にシフトしていくべきであろう。米自動車メーカーFORDの事例を見れば分かるように、お膳立てがよければ、企業の予測を越えて自然増殖する。これは管理統制の結果ではない。消費者や利用者が自律的に動いた結果である。
この管理統制できない自然増殖は、いい方向にも悪い方向にも進む可能性がある。これに対してどのように対応すべきか。すなわち、いい方向への自然増殖であれば、それを促進させる対応を、悪い方向への自然増殖であれば、それを制御し沈静化させる対応しなければならない。この対応次第で企業が置かれる立場は大きく変わるのだ。
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