先進国企業の事例から見えるソーシャルメディアの特性:ソーシャルマーケティング新時代(5/5 ページ)
成長著しいアジアの新興国では、ソーシャルメディアが新たな情報インフラとして拡大している。日本企業がソーシャルメディアを活用して市場での優位性をどう確保していくべきか。欧米企業の取り組みを例に探る。
適時・迅速なリアクションとレスポンスの掛け合い
(3)のソーシャルメディアの特性にも関連するが、ソーシャルメディアは適切なタイミングで、かつ、速やかな対応が必要である。“リアルタイム性”という言葉がうたわれているように、ソーシャルメディアのユーザーは適時に迅速な情報共有を図っており、それを求めている。企業側の対応が一歩遅れると、いい方向への自然増殖は勢いを失い、悪い方向への自然増殖が加速する。消費者や利用者が示すリアクションやレスポンスに対して、企業側が適時に迅速にリアクションやレスポンスをすることによって、これまでにない関係性を作り出すのである。
マスメディアを用いたマーケティング活動は、じっくりと企画を立案し、タイミングを見計らって実施するというやり方も存在し、それ自体に意味がある。しかし、ソーシャルメディアではこうしたアプローチを採ることはほとんどできないだろう。ソーシャルメディア上では次から次へと新しい手法が試され、消費者や利用者もそれを試していく。そして、消費者や利用者の感覚や好みも日々変化しており、それに対応しなければならない。
そのためには、企業の意思決定を早め、柔軟な行動姿勢を備えなければならない。Twitterに投稿する内容を社内会議で議論し、稟議を回して決定したという企業の笑い話を聞いたことがあるが、このような企業はソーシャルメディアのスピード感には対応できない。とかく日本企業は、意思決定が遅く、柔軟性に欠けると指摘されることが多いが、これを克服しない限り、ソーシャルメディアを用いて市場を制することは難しいだろう。
長期的・継続的な関係構築を目指した活動
これまでに挙げてきた全ての特性に関わる点だが、ソーシャルメディアを用いるには、長期的、継続的なスタンスを企業として確立しなければならない。これまでのマスメディアを用いたマーケティング活動は、例えば新商品を売り込むためのキャンペーンや期間を限定したテレビCMなど、一定の時間的な区切りをもって捉える傾向にあった。しかし、ソーシャルメディアでは企業も1人のプレイヤーとして参加する以上、長期的かつ継続的なスタンスで臨まなければならない。
ある商品のテレビCMを止めた後であっても、消費者はそのテレビCMの内容や出演していた俳優、そこで流れていた楽曲などを話題にする。ある商品の生産を中止したとしても、その商品のファンがゼロになるわけではない。ソーシャルメディアが現われる以前であれば、それは地域の井戸端会議のレベルで続けられるだけでしかなかったが、ソーシャルメディア上では、むしろそういった契機で情報共有が活発化し、それが維持されることがある。こういう意見や声に対して、企業側は長期的、継続的な関係に持っていく必要があり、それこそがその企業の真のファンを獲得することにつながっていく。
また、(1)の特性を挙げた通り、企業が行う日々の事業活動の全てに対して、ソーシャルメディア上でリアクションやレスポンスが起こることを見ても、それが長期的、継続的に渡ることは明らかだ。これを大切にすることが重要である。
例えば、企業に対する抗議や悪意に満ちた意見などが飛び交うような場合には、これらに対して、誠心誠意の対応を示し、それらを発したユーザーを長期的、継続的なファンに変えていく。商品やサービスを称賛してくれるユーザーは、企業にとっての長期的、継続的な営業マンや宣伝マンに変えていく。そういった取り組みこそがソーシャルメディアを用いた新たな関係構築であろう。
アジア新興国ではどうか?
ここまで欧米企業や日本企業の事例を踏まえ、ソーシャルメディアの特性を整理した。これらは、マスメディアを用いたマーケティング活動との対比的な観点から導いたものである。しかしマスメディアも発達段階にあり、多くの若年購買層を持ち、文化、宗教、商習慣、言語が地域ごとに多様性に富んだアジア新興国に対して、これらの事項がそのまま基礎になるものとして考察していくべきかどうかは検討を要する。
われわれのように、マスメディアに慣れ親しんできた社会は、ソーシャルメディアをマスメディアの後に登場した新しいメディアとして捉え、マスメディアと比較してソーシャルメディアの特性を理解し、その上で活用すべき方向性を探ろうとする。しかしアジア新興国では、マスメディアも発展段階にある中で、ソーシャルメディアが急激に普及し、生活に浸透した。
このようなアジア新興国でのソーシャルメディア活用は、前述したソーシャルメディアの特性を起点に考えるべきなのだろうか。次回は、こうした点から考察を始めてアジア新興国の特性を考慮したアプローチを探る。
著者プロフィール
岩渕匡敦(デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネージャー)
ソフトバンクにて買収した企業の日本市場参入に携わり、その後、外資IT企業のマネジメントポジションを経て現職。10年以上にわたり、日系大手の自動車、航空宇宙、ハイテク製造業、通信業界の企業に対し北米、欧州、インド、中国、マレーシア、インドネシアなど多様な文化の中でのグローバルのプロジェクトに携わる。近年はグローバルマーケティング戦略、販売戦略、サプライチェーン戦略、IT戦略での多国籍プロジェクトを多数手掛ける。
辻佳子(デロイト トーマツ コンサルティング コンサルタント)
SEを経験後、官公庁や製造業などの企業統合PMIに伴うBPR、大規模なアウトソーシング化/中国オフショア化のプロジェクトに従事。大連・上海・日本を行き来し、チームの運営・進行管理者としてブリッジ的な役割を担う。その後、ITサービス、オフショア化、中長期戦略策定、事業性評価、マーケティングリサーチなどに従事し、現在は中国+アジア途上国における進出/撤退およびビジネス支援、アジアにおける官公庁案件、IT戦略の分野で活躍。
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